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大分お待たせしてすみませんでした。



 しばらくして黒塗りの車に乗り込んだ久遠と通り魔の少年を見送る春日。空音は近くのコンビニへ水や氷を買いに行っている。

「アイツって一体何者なんだ?」

「……ん? こーた……?」

 春日は膝に寝かした優月の頭を撫でながら黒塗りの車が走ってく後ろ姿を見送り呟く。春日の呟きで起きたのか優月が目を覚ます。

「お、目を覚ましたか優月。具合はどうだ?」

「ん、……ん? 痛みが無い?」

 春日の言葉に優月は体を捩らして通り魔に殴られた脇腹に手を当て、そこで違和感を覚えた。疑問を浮かべる優月の言葉に春日は笑顔を見せる。

「それは良かったな」

「ううん、おかしい。確かに肋骨に罅が入ったのを感じたのに……今は痛みもないの」

 しかし、春日の嬉しそうな言葉を聞いても優月の顔は晴れなず、殴られた部分に手を当てて具合を確かめる。優月の行動に対して春日は不思議そうな顔をする。

「……そのこと自体が気のせいだったんじゃないのか?」

「見て、ここを殴られたのは確かなのに、痣すら無いよ」

「……本当だ。どうしてだ?」

 殴られた部分には確かに汚れた跡があり、優月が制服を捲るとそこには暗くてもわかる白くてきめ細かな肌があった。

「わからない……」

「……上倉の仕業か?」

「久遠くんが? でも、どうやって?」

 優月は意識を失ってたのでわからないが春日は先ほどの久遠の行為を思い出していた。春日の言葉に優月は首を傾げた。

「それもそうだよな……」

 春日には久遠の行為しか思い当たる節はないが、久遠の能力は停視勢(ストップモーション)だ。優月の怪我を治せるものではない。

「あ、他のみんなは?」

「……ん、あそこで休んでる。真崎はコンビニに水とか氷を買いに行ってくれてる。で、上倉は犯人をCCPに連れて行った」

 頭を悩ませてた春日をぼんやり見ていた優月は思い出したように訊ねた。春日はとりあえず今抱えている問題を棚上げすることにして答える。その言葉に優月は笑顔を見せる。

「良かった……」

 優月が安堵の溜息と共に呟くと遠くから救急車のサイレンの音が聴こえてきた。

「お、救急車が来たみたいだけど……一応優月も含めてみんな医者に診てもらうか」

「うん、そうだね。みんな軽傷だけど、大事を取ってね」

「部長!」

 二人の会話が一段落したところで空音がビニール袋を持って駆け寄ってきた。

「おう、使いぱっしりさせて悪いな。サンキュー」

「いえ、これどうぞ」

 春日の労いの言葉に空音は息を切らせながらも微笑を浮かべて水を渡す。空音は他の部員にも水を手渡して歩く。間もなくやってきた救急車に久遠を除いた部員たちが乗り込んだ。




 警察署の一室に通された久遠の目の前には不敵に笑う男性。

「よう、久遠」

「随分偉くなったんだな、百瀬光栄(みつひで)課長」

「五年も経てばそれなりにはな……ちゃんと俺の名前を憶えてたな、よしよし」

「……ああ、モチロンダトモ」

「……お前、やっぱり忘れてたのかよ……」

「ハハ……」

 百瀬光栄と呼ばれた三十代半ばの壮年な男性はガクッと肩を落とす。久遠は苦笑いしかできない。

「だがしかし、お前も随分変わったな」

「ああ、自覚してる」

「そりゃ結構。初めて会った頃は死んだ魚みたいな目をしたクソガキだったが……今はどうした、随分と一人前な面をして……何か変わったか?」

 久遠の言葉に課長は面白そうに笑う。そして、真剣な表情で久遠に訊ねる。

「価値観、かな」

 それに対して久遠も真剣な表情で答える。それを見て課長は満足そうに頷く。

「ほう……案外この世界も捨てたもんじゃなかっただろ?」

「まァな。無くしたものは数えきれないけど、得たものも確かにあったよ」

「そうか……」

「だからこの世界で精一杯生きてみようと思う」

 一度を伏せ、それから意志の強い目を見せる久遠。その眼差しに迷いは一欠けらもないように課長は感じた。

「もう未練は無いのか?」

「どうだろう……まだわからない、ってのが本音かな」

「それでいいさ。そんなもんだ」

 そう言って課長は煙草を咥えて火をつける。吐き出した紫煙が天井へと消えていくのを見ながら久遠はふとした疑問を口にする。

「……話は変わるんだが、能運部にいる百瀬桃花ってアンタの娘なのか?」

「ん? ……お前がいなくなってから養子にな。元気で良い子だっただろ」

「ああ……」

 元気過ぎるぐらいな……久遠はその言葉をギリギリのところで飲み込んだ。

「手を出したら海の藻屑にするからそこら辺のところ肝に銘じておけよ」

「お、おう……」

 課長の顔が本気だった。どうやら重度の親バカらしい。

「でも、どうして養子に?」

「ある山村で人間の女の子が保護されてな……」

「……?」

 久遠の問いに課長は再び紫煙を天井に吐き出して追憶の言葉を紡ぐ。

「どうも様子がおかしいってことで色んなところをたらい回しにされた結果、能力者ってことが判明した。あの子の能力は知ってるか?」

動物縁アニマルリンクだろ……あ」

 課長の言葉に久遠は何かに思い当ったような顔をする。課長は久遠が頭に思い浮かべたことをそのまま口にする。

「そう、あの子は山で動物に育てられたんだ」

「……狼に育てられたっていうアマラとカマラみたいだな」

 1920年にインドで発見されたとする二人の少女の話を思い出した久遠。

「有名な話だな。まあ、それについての信憑性は低いが桃花は本当だ。あの子は幼い頃に親に捨てられて自己防衛からか能力に目覚めた。後は成り行きだが、あの子のことを守りたいって思ったから養子にした」

「裕子さんは何て?」

 課長の妻である朗らかな笑顔の女性の顔を思い浮かべながら久遠は訊ねる。課長は煙草を灰皿に押し付けながら答える。

「あいつも同じ想いさ。あ、今度うちに来いよ。お前の奇行に裕子も心配してたぞ」

「ハハ……近いうちに必ず顔出すよ」

 課長の言葉に苦笑いしか出ない久遠。しかし、どこか嬉しそうな部分も見える。

「伝えておくからちゃんと来いよ」

「行くさ。……光栄と裕子さんは俺にとっての親みたいなもんだしな」

「なんならお前も養子に来るか?」

 久遠の言葉に課長が面白そうに返す。

「いや、俺には夏葵さんもいるし……でも、時が来たら世話になるかもな」

「いつでも頼ってこい」

「ああ」

「でも、お前が仮に養子になったら桃花と兄妹になるのか……」

「……一人暮らしするから後継人よろしく」

「おう……」

 そこで話は終わり、二人は互いの五年について雑談を交わして一日を終えた。


活動報告にTwitterでの百瀬桃花による宣伝コントをまとめたものを掲載しました。

よろしければどうぞ。


では、皆様よいお年を。

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