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「先輩方は初等部からの付き合いなんですか?」

「うん、わたしとこーたや賢くん、まつ……鷹匠さんは初等部入学からの仲なんだよ」

 先ほどのやり取りや春日たちの言動から久遠は優月に疑問を訊ねる。それに対して優月は少し複雑そうな表情で答えた。

「……さっきの写真にもう二人写ってましたよね。あの二人は?」

「よく……見えたね、あの一瞬で……」

「目だけは鍛えてあるんで」

「そっか……うん、男の子は宍戸(ししど)怜治(れいじ)くんって言って、今の生徒会長なの。女の子の方は神楽麻衣さんって言ってわたしたちの一つ上なんだ」

「それじゃ神楽さんはもうこの学園を卒業していないんですね」

「……卒業はしてないけどもう麻衣さんはこの学園にいない、かな……」

 何気なく呟やいた久遠の言葉に優月が肩を震わした。優月の辛そうな表情を見て久遠はそれ以上言葉を紡ぐことすを止める。思考はいくつも枝分かれし、最終的に昨晩の夏葵の言葉について考える。

「さて、わたしもそろそろ準備しなきゃね」

 何やら黙考している久遠の姿を見て安堵の溜息を吐いた優月は席から立ち上がる。優月はポケットから鍵を取り出して部室に備え付けられたロッカーを開ける。そして、ロッカーの中から色々と取り出して机の上に並べていった。

 空音はその並べられた物をいくつか手に取って吟味(ぎんみ)している。それを見て、昨日で全てを悟り、とりあえず受け入れようと思っていた久遠だが、思わず頭を抱え、ロッカーから取り出した物を空音同様に吟味している優月についつい質問を投げかける。

「あの、優月先輩。一つお(うかが)いしたいのですが……」

「何かな?」

「その手に持ってるのって、もしかして……スタンガンですか?」

「うん、そうだけど……それがどうかしたの(、、、、、、)?」

 何を当たり前な……といった表情の優月の顔を見て茫然(ぼうぜん)とする久遠。空音に目を向けると静かに首を振られた。

「こっちは警棒に催涙(さいるい)ガス、それからスタングレネード……SATかテロリストみたいな装備ですね」

「一応わたしたちCCPに所属してるからテロリストは勘弁かな」

「そうでしたね……でも、これって過剰防衛とかになりません?」

 机の上に並べられた物を見て思わず呟く久遠の言葉に優月は少し困ったような表情をした。

「う~ん……今回は結構過激な相手だし……というかわたしの能力って力加減間違えると危ないからスタンガンとかの方が相手にとって安全なんだよね」

 優月の言葉に顔が引き攣る久遠だった。

「それはスタングレネード……ではないですね」

「これはフラッシュバン。わたしの能力って光ありきのものだからね」

 そう言ってフラッシュバンをいくつか身に着ける優月。空音もいくつか身に着けたようだ。

「久遠くんも何か装備しておく?」

「いえ……俺は遠慮しておきます。使い方もよくわからないので」

「うん、生兵法は大怪我の基って言うもんね」

「空音はもう慣れたのか、これに?」

 久遠は警棒を手に取り、ジャキンと警棒を伸ばしながら訊ねる。しかし、その扱い方はどこか堂に入ったものだった。

「それなりには、ね……できたらこんなモノに関わらない人生を歩みたかったけど」

「今回は部室待機でもいいよ? 空音ちゃん」

 その自嘲的な言葉に優月は心配げな表情を浮かべるが、空音は首を静かに振り、強い眼差しを持って応える。

「いえ、参加します。能力を犯罪に使うような奴がいるから私たちへの風当たりが強くなるんです。それに―――ううん、そんな奴にはしっかり引導を渡してやらないと……」

 何か思いつめた表情の空音に「そっか」とだけ返す優月。その様子を警棒で肩をトントンと叩きながら見つめる久遠だった。

 優月が使わない装備をロッカーに仕舞い始めていると、手に何かの紙を持った春日が扉を開け、ホワイトボードの前まで歩いていく。そして、手に持った紙―――地図をホワイトボードに張り付け、ある地点に赤丸を書き込んだ。

「次の犯行予測が立ったぞ! おそらく通り魔は二〇一〇(ふたまるひとまる)頃にこの場所―――人通りも街灯も少ないこの道で神薙(ウチ)の女子を襲う」

「やっぱり夜かぁ……せめて夕方なら良かったのに」

 春日の言葉に優月は落胆の声を上げた。

「ああ、優月の能力が発揮されないのは痛い」

「通り魔の特定はできたんですか?」

「いや、男ということしかわかってない」

「そっか……一応CCPに報告しとく?」

 久遠の質問に春日は首を振って答えた。それを聞いた優月は再び落胆の声を上げ、春日に訊ねる。

「……いや、今までなかなか尻尾を出さなかった相手だ。相当に用心深いんだろう……だから、今回は少数精鋭で叩く! CCPなんかに報告したら機動隊並の部隊が出動する。そしたら犯人は動かなくなるだろうしな」

「それもそうだね……でも、今まで尻尾を出さなかった割に、今回は義博君に捕捉されたね。こーたの能力補正のお蔭かな?」

 春日の言葉に納得した優月は新たな疑問に首を傾げた。

「茅原の前知敷(プリディグトラグ)は様々な要因が絡み合って成立する確率論みたいなところがあるから、今回は前回足りなかった何か(、、)が働いたんじゃないのか? それがオレの御旗煽動(スタンダードスター)なのか通り魔の不手際なのかはわからないけど」

「う~ん……昨日はあんなに頑張ったんだけどな」

 優月は春日の考えを聞いて少し落ち込む。昨日は学校を公欠してまでCCPで働いたのに、目に見えた成果が出なかったからだ。しかし、春日の言葉を聞いてすぐに元気になる。

「昨日は昨日、今日は今日だ。思考を切り替えろ、なずな(、、、)

「うん、そうだね!」

 話が途切れたところで奥の扉から星崎、茅原、百瀬の三人が戻ってきた。星崎は手に持った人数分の資料を全員に配る。

「さて、全員揃ったな……今、(ちまた)を騒がせてる通り魔は、被害者の証言から考えるに、おそらく姿を消す能力者だと想定される。いつものオレらの作戦としては、事前に神薙の女子の安全を確保してから囮作戦をしたかったんだが……」

「今回は清澄たち一年生がいないな」

 春日の言葉を星崎が補足する。それを聞いた春日は頭を掻きながら苦々しげに喋る。

「そうなんだよな……元々、囮作戦ってのはアイツらありきの作戦だからな。しかも、夜だと優月の安全も確実じゃない。百瀬や真崎も同じ……どうしたもんか……?」

「わたしならいけるよ」

「ダメだ。日中や明るい場所ならまだしも、今回の場所はあって街灯の光程度。そんなところでお前を囮にできるか!」

 頭を抱える春日の呟きに優月が囮役を志願する。しかし、すぐさま春日に却下される。

「でも、フラッシュバン(これ)もあるし……」

「それはあくまで一瞬だ。相手の能力は姿が消せるっていう情報しかないのに、そんな無闇なことさせられるか!」

 あくまで食い下がる優月だが、それでも春日の意見は変わらない。春日の指摘に優月は食い下がるのをやめる。

「そ、うだね……」

「私が囮になります」

「は? お前の能力は今使えない……ってどっちにしろダメだ。不確定要素が多い中で危険な真似は絶対にさせられない」

 今まで静かに資料を見ていた空音の立候補に春日は首を振って却下する。だが、空音は資料に目を通しながら自分の考えを述べる。

「通り魔が姿を消した状態でも被害者が暴行を受けたってことは、相手の姿は見えなくても実体はあるってことですよね? なら、百瀬さんの能力で犬の嗅覚を使うなり蝙蝠(こうもり)の超音波を使うなりして通り魔の位置を特定すれば危険度はかなり下げられます。後はフラッシュバンでもスタングレネードを使って通り魔を怯ませてから優月先輩やみんなで飛び掛かれば……」

「むう……」

 空音の話に春日が思わず低い声で(うな)る。すると、空音はさらに自分の考えを述べて外堀を埋めていく。

「誰かが囮をしなければ通り魔は現れませんよ。優月先輩と百瀬さんは役割があって私にはありません。それに被害者の傾向からみてこの囮役は女子じゃなきゃ意味がない……消去法から考えて私が囮役になるのがベターです」

「だけどな……」

 空音の言葉に尚も反論しようとする春日の言葉を茅原が遮る。

「春日先輩、空音が女をみせるって言ってんッスよ。それにこの俺様が空音には通り魔の指一本触れさせません!」

「私も街中から動物(みんな)を集めてバックアップします!」

百瀬も茅原の言葉に便乗して後押しをする。その二人の姿を見た空音は目を丸くした後、口許を少し緩ませる。

「期待してるわ」

「お前らなあ……」

 二年のやり取りを見ていた春日が頭に手を当てる。すると、春日と同じ三年からも空音の提案に肯定的な意見が出る。

「もう何を言っても決心は固そうだぞ、春日」

「そうみたいだね……それに心配も大事だけど……ここは空音ちゃんたちを信頼してあげようよ。ね、こーた」

「ったく……そうだな。ああ、わかったよ。今回は真崎が囮で()くぞ!」

 星崎と優月の言葉で決心がついたのか、春日は半ば諦めたような様子で机をバンッと叩き、囮役を空音にすることに決定した。

 具体的に作戦を詰めてく春日たちの会話を意識半分で頭に入れながら、久遠は手元に配られた資料を熟読し続けていた。時偶(ときたま)、春日や百瀬などから話を振られるとそれに応えるが、それ以外はずっと資料を見続ける久遠に空音は首を傾げる。

 何故そんなに怖そうな表情をしているのか、と……



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