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1 “もう一人の自分”

 





 私はあの時、悪魔と約束を交わした。

 でも、後悔なんてしていない・・・だって、あの人と一緒にいられるから。

 たとえ何を犠牲にしても、私は構わないと思った。ただ、願うことがある。

 ・・・どうか、あの人がもう一度、私に微笑みかけてくれますように。




******




 私の中にもう一人の私がいる。

 凪沙ナギサがそう感じ始めたのはつい最近のことだ。感じ始めたのは最近だが、もう一人の自分、は前々から私の中に存在していたのかもしれない。

 ただ自分が気付いていなかっただけ・・・・その証拠に、今まで“もう一人の自分”は決して姿を現すことはなかった。しかし、最近もう一人の自分が私を支配するようになってから、私はその存在に気づくようになった。

私はそいつの事を恐れた。普段の自分ではいられなくなってしまうから。でもそいつは“普段の自分”ではないにしても、“本当の自分”かもしれない、と私は考えるようになってきた。

“本当の自分”を目の当たりにするのが怖いから、私はそいつを恐れているのかもしれない。




「凪沙、何見てんの?」

 突然、後方から声をかけられた。反射的に振り返ると、そこには友人の美春ミハルの姿があった。

「・・・景色」

 凪沙はそっけなくそう答えると、再び窓の外に視線を移す。

「それは分かってるって~!」

 美春は笑い混じりにそう言うと、凪沙と肩を並べ、同じく窓の外を見る。

「・・海、綺麗だねぇ」

 美春はそう呟く。

「・・・うん」


 凪沙が見ていたもの─それは海だ。沈みかけた太陽の光を反射して、それはオレンジ色にキラキラと輝いている。

 凪沙はその眩しすぎる煌きに、思わず目を細めた。そしてそのキラキラが自分の重たい気持ちをも一緒に包んでくれればいいのに、そう思わずにはいられなかった。

「あ!凪沙、そろそろ夕食だから食堂行かないと」

「うん」

 凪沙は窓から目を離さずに、それだけ答える。

「じゃ、私先に行ってるから早めにきてね。早くしないと皆食べ終わっちゃうから!あ。あと、部屋に鍵掛けるの忘れないでね!」

 美春は早口でそう言うと、凪沙に微笑みかけて部屋を後にした。凪沙はそんな美春を見送ると、溜息をつく。

 凪沙は自分でも思うが、かなりのマイペースな人間だ。美春もそれを分かっていて、凪沙に行動を合わせようとしない。

 でもそれが逆にありがたかった。他人に行動を合わせるのも、合わせてもらうのも凪沙はあまり好きではない。他人に行動をいちいち合わせていたら疲れるし、合わせてもらうのも何だか悪いような気がするからだ。

「はー・・・」

 凪沙は再びため息をつくと、一番近くにあったベッドに腰をおろす。十人部屋に今は凪沙一人だけ。そして窓から目を離すと、仰向けに寝転がった。

(あー。早く家に帰りたい・・)

 今、凪沙は合唱部の合宿にこの宿泊施設に来ている。しかもまだ一日目。

 凪沙ははっきり言って、合宿という行事が大嫌いだ。決められた時間どうりに集団行動。そこがマイペースの凪沙にとって、苦痛以外のなにものでもない。

〔ねー。凪沙。そんなに嫌なら早く帰ろーよ。仮病でも使えば、簡単にこの場から逃げ出せるのに!〕

 ほら、まただ。もう一人の自分が私を支配しようとしている。

(嫌でも一応最後までやんないとね・・皆にも悪いし)

 凪沙は心の中で自分にそう言い聞かせると、重い腰をベッドから上げた。そして鍵を掛けると、部屋をあとにした。




 そしてその日の夜。

 凪紗は暗闇の中、眠れないでいた。しかし、眠れないでいるのは凪紗だけではないらしい。その証拠に、周りからは他の皆のひそひそと話している声が聞こえてくる。

 凪紗は皆の話し声が消えないうちに早く寝たいと思った。ただでさえ自分は暗い所が苦手なのに、この暗闇の中自分だけ取り残されるのはごめんだ。

「凪紗、起きてる?」

 隣のベッドから声がかけられた。美春だ。

「うん。起きてる」

 凪紗は皆と同じように、ひそりと言葉を返す。

「凪紗、私より早く寝ないでね!寂しいし!」

「さー。どうでしょう」

 凪紗はニヤリと笑いながらそう言う。暗闇のせいで、その笑みは美春には見えなかったと思うが。

「・・・よしっ!じゃあ私、凪紗より早く寝るから邪魔しないでね!分かった?」

「はいはい」

 凪紗は適当に相槌を打つと、布団に顔をうずめる。私も早く寝たいのは同じだ。そして、次に目を開けるときは、部屋が明るくなっていることを願って瞼をとじた。





 だが、その願いは叶わずに終わった。凪紗が目を開けたとき、そこはまだひっそりとした闇に包まれていた。

 皆の声も聞こえない。あたりは奇妙なくらいに静まりかえっている。

(早く起きすぎたかも・・・)

 そして時間を確認しようと、枕元において置いた携帯電話に手を伸ばす。とその時、何か黒いものが視界に入った。

 驚いてそちらに目を向けると、そこには一人の女の子が立っていた。周りの暗闇より暗い、漆黒の長髪にそれと同じ色の大きくて丸い瞳。

 そして彼女は凪沙の視線をとらえると、にっこりと微笑んだ。

(・・・え?)

 凪紗は反射的に体を起こす。

 そして次の瞬間、カーテン越しに光が差し込んだ。朝がきたのだ。

 女の子の姿はそれと同時に消えた。凪沙は驚いてあたりをキョロキョロと見渡す。

(見間違い・・・?)

 時間を確認すると、約五時。まだ起きるのには早い。

 凪沙は再び布団に潜り込む。それにしても、さっきの女の子は何だったのだろう。ただの幻だったのだろうか。

 そして凪沙は軽くため息をついた。だがそのため息は、あの女の子に対してのものではない。今日また、嫌な一日が始まる事に対してのため息だ。


(あー。今日が最終日だったらな)

 そして凪沙は再び目を閉じる。

〔あ!!いい事思いついた!ねぇ、凪沙。海行かない?海はきっと気持ちいいよ。それに運良く風邪を引いて、家に帰れるかも!〕

「・・・・・」

 凪沙はできるだけ、その声に耳を貸さないように務めた。そうしないと、“普通の自分”が“本当の自分”になってしまいそうで怖かった。

〔ねー?行かないの?残念だなぁ・・〕

 ・・・・・確かに海には行きたい。きっと朝の海はとても綺麗で気持ちがいいだろう。もしかしたら、このモヤモヤした気持ちも少しは晴れるかもしれない。

 それに風邪を引かなければいいだけの話だ。そうすれば皆に迷惑をかけることもない。

(・・・行くか)

 凪沙はすばやくベッドから起き上がると、旅行用のバッグからカーディガンを取り出して、それを羽織る。そして、皆に気づかれないように静かにドアを開けると、部屋をあとにした。



 そしてやっと着いた。

 今、凪沙の前に広がっている大海原は凪沙達が寝泊まりしている宿泊施設からすぐ近くの場所にある。聞いた話では、その宿泊施設は海なし県に住む人々が海に触れ合う機会を増やすために、建てられたものらしい。

 凪沙はその施設を建てた誰かに(海を見られたという点で)少しだけ感謝しながら、朝日に染まる海を眺めた。

 聞こえるのは波が岸に打ち付けている音だけ。普段いつも耳にしている、当り前の音が何も聞こえない。

 凪沙は背伸びをした。やっぱり思っていた通りだ。とても・・・気持ちいい。

 どこまでも続く海の煌き。それは終わりの無いようにさえ思えた。そして自分が、ものすごくちっぽけな存在であることを改めて実感した。

 突然、強い風が凪沙の頬を打つ。今は三月の下旬。朝と夕方はまだ寒さが残っている。

(そろそろ帰るか・・)

 凪沙は身震いすると、海に背を向ける。正直、ずっとここにいたい気分だったが、時間も無いし皆に迷惑がかかってしまう。凪沙は後ろ髪を引かれる思いで歩き出した。

〔ねー。もうちょっとここにいようよ。時間なら少しぐらい遅れても大丈夫だって!!〕

 また“もう一人の自分”だ。今まではこんなに頻繁には出てこなかったのに。

〔ねっ。ついでに海に入ってみない?冷たいかもしれないけど、膝くらいまで。それなら風邪を引く心配もないでしょー?〕

「!!!」

 凪沙は驚きのあまり言葉を失った。今自分は、自分の意思に反して海へ向かって歩き出している。体が勝手に動く・・・怖い!

 しかし不思議なことに、自分は何故か微笑んでいる。そしてついに足が海水に触れた。それは冷たいというより、凪沙には痛く感じられた。しかし自分はそれでも、それを楽しんでいるかのように微笑んでいる。

 きっと周りから見れば自分は、海水に足を入れて楽しんでいる少女にしか見えないだろう。凪沙はそう思った。

 そう思っている間にも、凪沙の足は止まらない。どんどん海の奥へと進んでいく。まるで、海の痛みに似た冷たさを楽しむかのようにゆっくりと。

(ヤバ・・・)

 すでに海水は膝以上に達していた。これ以上進むと、全身が海水に浸ってしまうかもしれない。いまだに体は言うことを聞く気配さえなく、それでも自分は歩みを止めようとしない。

 凪沙は恐怖でいっぱいになった。このまだと・・・海の中に完全につかってしまう。

 その時、波の音以外の何か別の音がかすかに聞こえた。凪沙はとっさにその音を聞き取ろうとろうとする。

 よく聞くと、それは笛の音だった。その音は、とても優しいメロディーを奏でていて、それは凪沙の全身を包み込む。

「-・・・!」

 そして次の瞬間、体が自由になった。やっと普段の自分が戻ってきたのだ。

 凪沙は高鳴っている心臓を押さえながら、ゆっくりと周りを見渡す。笛の音はいつの間にかやんでいた。いったい誰が吹いていたのだろう。見る限り、自分以外に人はいない。

(・・・さむっ)

 自分の下半身が、海水に浸かってしまっている事を忘れていた。このままでは本当に風邪を引いてしまう。そして海から逃げるようにして砂浜まで戻った。




「凪沙!!」

 部屋に戻ると、美春が慌てた様子で駆け寄ってきた。

「あの事聞いた?」

「・・・あの事って?」

「なんか、この近くでの工場で事故があったらしくて、今すぐ帰らないといけないんだって」

「!!」

 凪沙は自分の耳を疑った。・・・今すぐ帰れる?これ以上うれしいことがあるだろうか。“今日が最終日だったらいいのに”という凪沙の願いは叶ってしまったのだ。

「だから凪沙も早く荷物まとめて帰る支度してね!」

「うん」

 よく見ると、皆ほぼ荷物をまとめおわっている。そして部屋の中はいつもより騒がしい。どうやら今すぐ帰れるという事は本当のようだ。

 凪沙の顔に自然と笑みが浮かぶ。そして荷物をまとめにかかった。





 そして合宿が終わった次の日。

 凪沙は見事に風邪を引いた。昨日家に帰ってきて、妙にだるいと思ったら次の日にはこれだ。

 今更だが、少しでも風邪を引きたいと思った自分が馬鹿らしく思えてくる。そして改めて健康へのありがたみをしみじみと感じた。

 凪沙はベッドの中で寝返りをうつと、天井をじっと見つめる。

今年の合宿は妙に運が良かったような気がする。早く帰りたいと思ったら、事故が起きて早く帰れたし、風邪を引きたいと思ったら実際に引いた。そのすべてが不思議なことに、偶然に起こったのだ。

 そして・・・夜に現れた謎の女の子。彼女はただの見間違いだったのだろうか。それとも・・・。

 そして忘れてならないのはあの笛の音。その奇麗なメロディーはまだ凪沙の頭の中にしっかりと残っている。

 よく考えれば、あの笛の音も謎だらけだ。ただ分かっていることは、その笛の音が凪沙を“もう一人の自分”から助けてくれたということ。

 ・・・・いったい何だったのだろう。今年の合宿は何か、が変だ。

 凪沙はそれらの考えを頭の隅に追いやると、再び寝返りをうつ。

 部活の合宿のせいで忘れかけていたが、今は春休み中。当たり前だが、学校はない。しかし凪沙達合唱部にとっては、ぜっこうの練習時間だ。その為、毎日といっていいほど部活はある。

 しかし、今日は昨日の事件のせいもあり特別に休みになったらしい。

 凪沙はこの休みに感謝する反面、合宿で起こった事について悩まされながら一日を過ごすことになりそうだと思った。





 そして次の日。

 凪沙は朝の通学路を一人黙々と歩いていた。風邪はもうずいぶんと良くなったらしい。そして今日から部活動が再開される。

 凪沙の学校は、歩いて二十分の比較的近い場所にある。そして自宅の前にある丘の上の道にそって、凪沙は通学しているのだ。そしてしばらく歩くと、遠くの方に住宅街に挟まれた学校が見えてきた。

 そして丘を挟んで反対側には、野球をするためのグラウンドや、雑木林が広がっている。今朝は早いせいか、人はあまり見当たらなかった。

 けれど、凪沙はこんな朝の時間が大好きだ。朝のすこしひんやりとした空気も、時々頬をなでる風も、どこまでも続く青空も、それらは凪沙の硬くなった心を柔らかくしてくれる、そんな気がするからだ。

 そして凪沙はあっという間に学校の前までたどり着いた。ちなみにこの学校は県立の共学。といっても、なぜか男子より女子の割合が多く、そのせいか凪沙の所属している合唱部も男子は一人もいない。しかしそれは男子が苦手な凪沙にとっては好都合な事だ。

(もう着いちゃった)

 これで朝の散歩タイムはもう終わり。あとは長い部活の時間が始まるだけだ。

「!!」

 その時、聞き覚えのある音色が聞こえてきた。あの時の笛の音だ。

(小さくてよく聞こえない・・・!)

 凪沙は反射的に音のする方へ走りだしていた。・・・自分でも驚くくらいに、この音を聞きたくてたまらなくなっていたのだ。




 凪沙が歩みを止めると、その場所から少し離れた土手の下の方に一人の青年が座っていた。学校からずいぶん離れた場所まで来てしまったが、凪沙にとってそれは全然気にならなかった。

 むしろ、笛を吹いている青年のことが気になって、凪沙は彼をよく見るために目を細める。

 彼の吹いている銀色の横笛からは、あの不思議なメロディーが流れ出ていた。その曲は凪沙の知らない曲だ。しかし、何となくだが、それは外国の曲のような雰囲気を持っているように感じた。

その青年の顔はここからだと確認することはできない。その時、風が彼の茶色の髪を揺らした。その風に乗ってメロディーも聞こえてくるようだ。凪沙は何となくだが、この人はとても奇麗な人なのだろうと思った。

(あ・・・部活・・)

 部活の事をすっかり忘れていることに気づいた。今からでも間に合うだろうか。凪沙は彼のメロディーをずっと聞いていたい気分だったが、彼に背を向けると、もと来た道へ歩き出した。

(あの人に聞かれてるの見つかったら恥ずかしいし・・)

「おい!!そこの人ー!」

 後ろから声をかけられた・・・ような気がした。凪沙はドキリとして一瞬、歩くのを止めようと思ったが、かまわず歩き続ける。きっとさっきのは違う誰かを呼んだのだろう、そう思うことにした。

 第一ここは学校からも離れていて、家も反対の方向にある。凪沙に声を掛けてくれる人はいるはずがない。

「無視すんなよー。制服を着た人!!」

 凪沙は驚いて肩越しに振り返った。制服を着た人・・・間違いなくそれは自分の事だ。

 いつの間にかその青年は凪沙の後方に立っており、目が合うとニヤリと奇妙な笑みを浮かべる。

「どーも!」

「・・・・」

 凪沙は内心で少し戸惑いながら、黙って彼の右手に視線を移す。そこにはあの銀色の横笛が握りしめられていた。そしてよく見ると、その笛は所々に傷や錆がついており、とても古いものであるように感じた。

「俺の笛の音聞こえた?」

 彼はそう言いながら、ジーンズのポケットに横笛をしまい込む。

「はぁ・・・・」

 凪沙は彼の言葉に適当に相槌を打つと、踵を返して歩き出す。顔はいい?が、怪しい人だと凪沙は思った。あまりかかわらない方が良さそうだ。背中に嫌な視線を感じながらも、凪沙は歩き続ける。

 それでも彼は以外にも、声をかけてくることも凪沙を追ってくることもなかった。




 凪沙は学校の正門の前まで来ると、歩みを止めた。

逃げるようにしてここまで来てしまったが、不思議なことにあの笛の音は、凪沙の心を引きつけてやまなかった。もう一度聞いてみたい・・・凪沙はそう感じた。

(もう完全に遅刻だ・・・)

 凪沙は昇降口の時計を確認して深いため息をつくと、重い足を引きずりながら音楽室へ続く階段を上り始めた。



「おはよー!凪沙!」

 二階まで階段を上ると、後方から声をかけられた。踊り場にいた美春は一段飛ばしで階段を上がり、凪沙の隣で歩みを止める。

「おはよう」

 凪沙は美春の顔を見ると、返事を返す。そして内心でかなりほっとした。どうやら遅刻組みは、凪沙だけではないらしい。

「美春が遅刻なんて珍しいね」

 凪沙は美春に何気なく問いかけた。実際、美春が遅刻をする事なんて今まで一度もなかったはずだ。

「え!?私、遅刻なんてしてないよ?」

「・・・はい?」

 凪沙は予想外の言葉に、思わず自分の耳を疑った。昇降口にある時計を確認したとき、確かに部活開始から十五分以上はたっていたはずだ。

「あれ~?連絡網回って来なかった?今日、一時間送れて始まるんだって」

「あ・・・そうなんだ」

 凪沙には普段から携帯を開く習慣があまりない。それに昨日は、一日中ベッドの中にいたせいで着信音が鳴っても気づかなかったのだろう。開始時間が変わったのも知らなくて当然だ。

 これで一応、遅刻はまぬがれたことになる。一安心だ。

(何か際最近、妙に運がいいような・・・)

 合宿の頃から、何となくだが凪沙にとって運がいいことばかり起こっているような気がする。運が悪い事は続くと聞くが、運がいい事も続くものなのだろうか。

「凪沙~!早くー!」

 気がつくと、階段の一番上で美春が手招きしていた。

「せっかく早く来たんだから、一緒に自主練しようよ!」

「うん」

 凪沙はそう答えると、美春の後に続き階段を上り始めた。できる限りこの運が長続きするよう祈りながら。




 凪沙は部活が終わると、すぐに学校を後にした。残って練習をしていってもいいのだが、凪沙にとって練習より家でくつろぐ事のほうが重要だったのだ。

 朝より騒がしくなった通学路を歩いていると、またあの笛の音が聞こえてきた。凪沙は思わず歩みを止める。またあの怪しい青年が吹いているのだろうか。

曲は朝と同じもののようだ。凪沙は知らないうちにこのメロディーを聞くことが大好きになっていた。

 そしてゆっくりとその音に向かって歩き出した。


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