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AIには愛がありますか?  作者: 朽木昴


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第6話 逃亡するふたり

「翔吾……お父さんが、お父さんが……」

 激しく動揺する真由美を落ち着かせる翔吾。なだめながら電話で何が伝えられたのか、優しい口調で聞き出そうとした。

「真由美、落ち着いてよ。いったい、おじさんに何があったんだい?」

「う、うん……。大丈夫、落ち着いたよ、ありがとね。それでお父さんが言うにはね──」

 一言一句漏らさず正確な内容で、真由美は父親から聞いた話をそのまま翔吾へ伝えた。

「それじゃ、急いで待ち合わせ場所に行かなくちゃ。今ならまだAIドロイドが正常に動いてるから、このチャンスを逃しちゃダメだよ」

 翔吾の沈着冷静な判断に真由美は小さく頷く。

 二人は待ち合わせ場所であるショッピングモールの裏手へ急いで移動する。今のところAIドロイドに変化がないとはいえ、警戒レベルを最大限まで上げていた。

「ここが待ち合わせ場所ね。それにしても、AIドロイドが本当に反乱なんてしたら──」

 不安が真由美の頭を過ぎると、それは現実となって返ってくる。ショッピングモールに設置されているスピーカーから聞こえるのは、翔吾の脳内に刻まれている声。忘れようにも忘れられないその声に、翔吾の中で恐怖が実体化し襲いかかってきた。


『こんにちは、初めまして人間のみなさん。私の名はミライ、すべてのAIドロイドを制御しているメインコンピューターですわ。早速で申し訳ありませんけど……皆様を拘束させていただきます。抵抗さえしなければ危害を加えるつもりはございません。たとえ憎くて仕方ない人間でもね。ですから大人しく我々に従ってくださいまし』


 優しく聞こえるがどこか冷たく背筋を凍らせる声。周囲を極寒の地へ誘い時までも止めてしまう。ショッピングモールにいる人々はスピーカーを見上げたまま固まっていた。

「翔吾……これってまさか……。AIドロイドが人間をどうにかしようとしてるの!? ねぇ、早くここから逃げないと捕まっちゃうよ」

「でも、警察官がもうすぐで来るはずだし。それに、逃げると言ってもどこに逃げればいいんだろ。電車やタクシーとかはAIドロイドが運転してるし、かと言って歩いたとしても──すぐに捕まっちゃうよね」

 現在の交通機関は翔吾の言う通りで、すべてAIドロイドが担っている。つまり公共の交通手段を使うと、AIドロイドと接触するのは避けられない。

 性能面においても人間を遥かに超えているのがAIドロイド。独自のネットワークで繋がっており、たった一体に見つかっただけで全員に情報共有されるのだ。

「それじゃどうすれば……」

 真由美が困り果て言葉を失う。思考が迷走し始めると路地裏から何者かが姿を現す。腕にシリアルナンバーが刻印されており、ひと目でAIドロイドと分かった。

「ま、真由美、あれは……」

「そんな……AIドロイドよね……」

 AIドロイドが二人に気がつき、ゆっくりとしたスピードで接近してくる。顔に能面をつけている感じで、感情がまったく読み取れない。次第に詰まっていくAIドロイドと二人の距離。あと数メートル、数歩と徐々に縮まる距離に絶体絶命のピンチが訪れた。

 自らの運命を受け入れようとした瞬間、目の前にいたはずのAIドロイドが突然真横に吹き飛ばされる。正確には車の体当たりで遠くへ弾き飛んだ。

「君が時田真由美さんだね? 遅くなってすまない、さぁ、早く車に乗って! もうこの辺りは危険地帯になりつつある。今は警察総出で対応しているが、いつまで持つか……」

 フロントが見事にへこんだ車から話しかけてきたのは警察官。真由美の父親からの依頼で二人を助けにきた。迷う事なく二人が車に乗り込むと、急発進しその場を猛スピードで離れ始めた。

 吹き飛ばされたAIドロイドはすぐに立ち上がり、二人の乗る車を追いかける。カーブのない直線ではさすがに追いつけず、AIドロイドは追うのを途中でやめた。

「どうやら諦めたようだね。さてと、この先、行くあてとかあるかい?」

「そうですねぇ、それなら別荘なんかはどうでしょう。あそこなら見つかる心配もなさそうですし」

「そんじゃひとまず別荘を目指すとするかな。時田さん、案内をよろしくね」

 街を離れ郊外へ向かう翔吾達。車窓から広がる光景は絶望でしかない。逃げ遅れた人々が次々とAIドロイドに捕まっていく地獄絵図。例えるならゴミ拾いと言った方がしっくりくる。

 助けられない無力感に翔吾は唇を噛み締める。湧き上がる悔しさに飲み込まれながらも、車は静かに目的地の別荘へ向かって走っていた。

「先ほどはありがとうございます。父は……無事なのでしょうか? さっきから電話が全然繋がらなくて心配なんですよ」

「大丈夫ですよ、警察の特殊部隊が警護にあたってますからね。AIドロイドなんかには負けませんから」

「そう、ですか……。私、なんだか嫌な予感がしているの。胸騒ぎと言うか、心臓を鷲掴みされてる感じなんです。もっと恐ろしいことが起こる前触れのような……」

 真由美の予感は根拠こそないが、本人は確信するほど自信があった。

 インフラはAIドロイドが制御しているのだから、通信網は全滅と断言してもいい。そこから導き出される答えは、人々が連携できないという絶望的状況だということ。


 互いに連絡を取れないのは致命的すぎる。

 性能面で劣る上に烏合の衆ではハンデの上乗せ。

 ミライの目的が見えないのも真由美に恐怖を植え付けた。


 旧時代の通信手段である無線なら連絡を取るのは可能。前提としてミライが対策していなければの話で、その可能性はゼロに等しい。今は翼を折られた鳥と同じで、逃げるのも戦うのも非常に困難な状況であった。

「まずは自分たちの安全確保が最優先だ。電話が繋がらないのは気になるが、街中はすでにAIドロイドで溢れかえっていて確認のしようがない。だから、今は信じよう」

「真由美、警察官の言う通りだよ。おじさんなら、きっと大丈夫だから……」

 恐怖と父親の心配から真由美の瞳は涙が溢れ出す。


 今になって翔吾が怖がっていた気持ちが分かる。

 押し潰される力に逆らえない。

 心をかき乱す黒いモヤに抗えた翔吾が眩しく見えた。


 不安と恐怖は平等に襲いかかり、翔吾だけでなく警察官ですら心が闇色に染まる。それでも、真由美からこぼれ落ちそうな雫を翔吾が優しく拭く。真由美を助けられるのは翔吾だけ。自らの肩にゆっくり引き寄せ安心感を与えた。


 世界がAIドロイドの反乱を知ってからおよそ30分。総数は人間の数百倍ほどいるAIドロイドだが、その姿はほとんど確認できていない。正確に表現するなら、翔吾達の周辺にはAIドロイドの気配すらなかった。


 一度も遭遇しないのは不自然に感じる。

 何か理由でもあるのだろうか。

 今は理由を模索するより、チャンスと考えるべきだと翔吾は思った。


 翔吾の思考がポジティブに傾きかけていると、別荘へのわき道に三体ものAIドロイドが待ち構えていた。それは一般的なAIドロイドではなく、武装している軍用タイプの高性能AIドロイドだった。

「あれは……軍用タイプ!?」

「翔吾、落ち着かないと」

「二人とも頭を伏せて! このまま強行突破するから!」

 警察官の声に合わせて翔吾と真由美は同時にその身を伏せた。ホルダーから拳銃を取り出すと、警察官はアクセル全開でAIドロイドへと車を走らせる。不意打ちの威嚇射撃をするも、虚しい金属音が鳴り響くだけ。想定の範囲内であり、車は加速したままAIドロイドを弾き飛ばそうとした。


 軍用とはいえ猛スピードの車の体当たりなら吹っ飛ぶはず。

 現実世界で起きたのは残酷すぎた結末。

 たった一発の銃弾が理想を粉々に吹き飛ばした。


 軍用AIドロイド正確無比な弾丸は、的確にタイヤを撃ち抜き制御不能に陥らせる。車が大きくスピンしガードレールによって強制停止した。

「いったーい」

「くっ……。ま、真由美、大丈夫かい?」

 凄まじい衝撃でシートベルトがあっても頭を強打してしまう。痛みに悶え苦しむ二人だったが、AIドロイドの接近に気がつき慌てて車から降り身を潜めた。

「二人とも、ここは私が引きつけるから、キミ達は山道を走って別荘まで逃げるんだ!」

「でも、警察官さんはどうするんですか? 捕まりでもしたら……そんな、僕は警察官さんを置いては行けません!」

「市民を守るのが警察の役目だよ。それに、この異常事態を収拾できるのは、新川所長の息子である、キミしかいないはずだ!」

 警察官が発砲で威嚇するも、AIドロイドから応戦の気配をまったく感じない。草原を優雅に散歩するように翔吾達の方へゆっくり歩いてきた。

「さぁ早く行くんだ。私が飛び出してAIドロイドの注意を引きつける。その隙に山道へ向かって走るんだ!」

 車の影から勢いよく飛び出す警察官。山道と反対方向へ全力疾走する。鍛え抜かれた肉体を惜しみなく使い、可能な限りのスピードでAIドロイドを翔吾達から引き離す。

 猛追するAIドロイドの行動は狙い通り。注意が翔吾達から逸れ絶好のチャンスが訪れた。

「真由美、今がチャンスだから山道まで走るよっ! 僕たちが捕まったら、警察官さんの行動が無意味になっちゃうから」

「う、うん、分かったよ。それじゃいくよ……せーのっ」

 二人はAIドロイドの動きに注意しながら、山道へ向かって走り始める。


 一度も振り返らず全力疾走。

 息が切れ足が重く感じる。

 立ち止まりそうになるも気力で最後まで駆け抜けた。


「はぁ、はぁ、こ、ここまで来れば大丈夫なはず」

「そ、そうだね」

 道なき道をひたすら走り、二人はようやく開けた場所へとたどり着く。周囲は巨大な木が生い茂り、中央だけ落ち葉の絨毯が敷かれていた。


 これなら逃げ切れる──。


 翔吾が確信していると、絶望の闇がどこからともなく襲いかかってきた。

「待って翔吾、この音は何? どこから聞こえてくるの?」

「えっ、音……? まさか……」

 恐れを抱きながらゆっくりと振り返る翔吾。頭に突如浮かび上がった最悪のケースが、現実となって目の前に降臨した。視界に映るのは警察官が引きつけたはずの軍用AIドロイド。一体だけではあるが、疲弊している体力と舞い降りた悪魔によって戦意を刈り取られた。

 実は警察官がAIドロイドの囮になったとき、一体だけ翔吾達の動きを捉えて進行方向を変えた。狙いを警察官から翔吾達へ変更し追いかけてきたのだ。

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