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AIには愛がありますか?  作者: 朽木昴


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第4話 静かなる平和は本物なのか

「翔吾ー、床に寝っ転がって何してるの? 翔吾もお風呂に入ってきなよ」

「──!? ま、真由美、なんでそんな格好してるんだよっ!」

 思わず翔吾は大声を上げる。瞳に映りこんだ真由美の姿が大胆すぎた。

 細い素足は白く天使のように美しい。少し湿った髪が色っぽさを増す。バスタオル1枚──真由美が身につけているのはそれだけ。気を許しあっている仲とはいえ、年頃の男子の前ではあまりにも無防備すぎる格好だった。

 冷静だった翔吾の心はパニック寸前。見たい気持ちと見てはいけない気持ちがぶつかり合い、翔吾の心を難解な迷路へと導く。大きく揺らぐ通路を歩き、翔吾は正しい道が分からなくなる。迷走する中で本心が翔吾の暴走を止めた。

 両手で自らの視界を遮る翔吾。

 真っ赤に染った顔を隠すという役割もあり、一石二鳥の選択を取った。

「え? そんなのお風呂上がりだからに決まってるじゃない」

「そういうことじゃなくて、どうして服を着てこなかったんだよ」

「だって、着替えを持っていくの忘れちゃったんだもん。何か問題でもあるー?」

 誘惑するような甘い声。真由美には悪びれた様子がまったく見られない。小悪魔顔で初めて出す声色が翔吾の鼓動の臨界点を突破させた。

「だからって、健全な男子の前でそんな格好は……」

 羞恥心までもが限界を超え、翔吾は咄嗟に顔を背けた。その姿があまりにも新鮮で、真由美にイタズラ心が芽生える。

「えー、それじゃ、ここで着替えるねっ」

「なっ、こ、ここで!?」

「ここは私の部屋なんだし、問題なんてあるわけないじゃなーい」

「ま、待って、僕、お風呂にいってくるね」

 想定外すぎる真由美の行動に慌てる翔吾。目を瞑ったまま勢いよく部屋から飛び出した。跳ね上がった鼓動は止まらず、一直線にお風呂場を目指し走っていった。

 ひとり部屋に残された真由美は、密かに微笑みながら何事もなかったかのように着替え始める。内心は翔吾が動揺していたのが嬉しく、心の奥がくすぐったくて仕方がなかった。

 翔吾がお風呂から戻ると、ベッドの横には布団がすでに用意済み。湯船で落ち着かせたはずの動揺が再び湧き上がってきた。

「あっ、翔吾、もうお風呂上がったんだ」

 翔吾の気配に気づいた真由美は、書いていた日記を途中で中断し、振り向きざまに笑顔で翔吾に話しかけた。

「う、うん……」

「やっぱり男の人はお風呂から出るの早いねー。それで、久々に入ったうちのお風呂はどうだった? なんだか一緒に入ってた頃を思い出すなぁ」

 湯上りで火照った翔吾の全身──いや、真っ赤に染まっていくのは顔のみ。頭の中で浮かんだ昔の思い出。幼い頃に真由美と入った記憶が鮮明に蘇る。ただ、蘇った記憶にいた真由美は、幼い真由美ではなく今の真由美であった。

「そ、そうだね。すごく懐かしかったよ。それにしても、今日は本当にありがとう、真由美に助けられてばっかりだよ」

 脳に刻まれた映像を揉み消そうと翔吾は話題を変える。気心の知れた仲とはいえ、あの妄想は知られたくないというのが本音。心を読まれないよう、仕草や言動に翔吾は細心の注意を払った。

「ふっふっふっ、大丈夫だって、ちゃーんと熨斗つけて返してもらうもーん。あっ、それでさ、私も色々考えたんだけど、AIドロイドが反乱するなんて──やっぱり信じられないよ。別に翔吾がウソをついてるってわけじゃないけど」

「普通はそうだよねぇ。僕もあれは悪夢だったんじゃないかって。でも確かに現実で起きたんだよ……」

「だけど安心していいよ。明日お父さんが、地元の議員さんに話してくれるって言ってたよっ」

「そっか、おじさんには感謝しかないよ。だけど……僕らの知らないところで事態が深刻化していって、気づいたときには手遅れになってそうなんだよ」

「翔吾は気にしすぎなんだからぁ。さっ、もう今日は寝ようよ。そしたらスッキリするはずだよ」


 この日に起きた出来事は本当に現実なのか。

 実は夢か幻であって、目が覚めればいつもの日常が待っているかもしれない。


 暗闇の支配する部屋で、それらが翔吾の頭の中に浮かび上がる。何かの間違いだと信じ、翔吾は心地よい布団へ潜り込む。次第に意識が現実世界から遠のき、深い眠りに落ちたのすら気づかなかった。

 何かの物音で翔吾が眠りから目を覚ます。重たい瞼をゆっくり開けると、薄ら動くものが見えた。まだ眠りたい意思を払い除け、その存在を瞳に映そうとする。AIドロイドかと一瞬思うも、想定外の事態に眠気がすべて吹き飛んだ。

「な、な、何してるの真由美!?」

「あっ翔吾、起きたんだね」

「真由美、おはよう──って、うわぁぁぁぁぁ」

 驚きのあまり翔吾は大声を上げる。瞳に映りこんだのは真由美の下着姿。平然と翔吾に挨拶するも、今まさに着替えの真っ最中だった。

「そんなに大声ださなくても──あっ、そっか、寝たフリして乙女の着替えを覗いてたんだね。もぅ、翔吾はえっちなんだからっ」

 恥ずかしがる態度もどこかわざとらしい真由美。いたずらっ子の顔で翔吾の心を大きくかき乱す。トドメの一撃に流し目で魅了してきた。

「ご、ごめん、真由美。覗くつもりなんてなかったんだから。目が覚めたら、その、着替えの真っ最中で……」

「冗談だって、もう、翔吾は真面目なんだからぁ。でも私は、翔吾になら見られても平気だけどねっ。ほら、着替え終わったからこっち向いても大丈夫だよ。それで、昨日よりは元気になった?」

「そういうことは思ってても口に出さないでよ。恥ずかしいじゃないか。だけど、寝たらかなり楽になったよ」

「えへへ、翔吾が元気になって私は嬉しいよ?」

 翔吾の元気な顔が真由美に喜びを与えた。

「ありがとね、真由美。それでさ、家から荷物を運び出したいんだけど、付き合ってくれるかな?」

「当たり前だよ、たとえ来るなって言われても、私は絶対についていくからね」

「助かるよ」

 素早く服を着替えると翔吾は洗面所へ向かっていく。緩んだ気持ちを引き締めようと、冷水で気合いを入れ鏡に映る自分へ自己暗示をかける。


 もう大丈夫。

 恐れる事は何もない。

 自分はひとりではないのだから。


 沈着冷静な普段の翔吾に戻り、リビングへ朝食を取りにいく。最初に待ち構えていたのはAIドロイド。警戒心が芽生えるも、真由美の父親の言う通り変わった様子はない。微動だにせず家族を見守っているように見えた。

 AIドロイドの役割は色々あるが、真由美の家では買い物がメイン。母親が不在の時は料理を任せる事もある。使い方は人によって様々で、家事育児全般を任せる人や、お金稼ぎに複数体保持する人など、人の数だけ存在していた。

 研究所での事件が真新しく心配な翔吾。頭では平気だと理解しているものの、AIドロイドをどうしても警戒してしまう。体が勝手に反応し、無意識でAIドロイドの前を小走りで駆け抜けた。


 誰かの視線を感じる。

 気のせいだと翔吾は自分に言い聞かせた。

 深く考えても仕方がないと忘れようとする。

 翔吾の動きに合わせて、真由美の家のAIドロイドが瞳を動かしていたとも知らずに……。


 テーブルには料理が並びつつある。準備途中なのは明白で翔吾も手伝いに加わった。手伝いと言っても、料理自体は真由美の母親が作っており、盛り付けとテーブルへの配膳が翔吾の役目であった。

「ふわぁー、おはよう」

「来るのが遅いわよ真由美。翔吾くんばかりにやらせてないで、真由美も手伝いなさいね」

「はーい、それくらい分かってるよーだっ」

 小顔を大きく膨らませ、真由美は翔吾と一緒に料理の配膳を手伝う。労働力が2倍になったおかげで、配膳はあっという間に終わりを告げる。タイミングがよかったのか、真由美の父親がリビングに降りてきた。

「翔吾君、昨日はよく眠れたようだね。表情が明るくなっていて少し安心したよ」

「はい、ご心配をおかけしました」

「そうだ、昨日の話──AIドロイドの反乱なんだが、地元議員に話そうかと思っているんだ。何か分かったらすぐに連絡するから、今日一日はゆっくりするといい」

「ありがとうございます」


 これで事態が進展するはず。

 必ずミライの反乱を阻止できるに決まっている。

 研究所に監禁されている父親も救える。

 翔吾は安堵の表情を浮かべ期待に胸を膨らませた。

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