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AIには愛がありますか?  作者: 朽木昴


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第27話 絶望から救い出した者

「まぁ、知っての通り、武力制圧は不可能でね。それで何かいい案がないか考えている時に、時田くんから連絡があったんだ」

「え、えっとですね、AIドロイドを残す点については僕も同じなんです。ですが、今回の反乱は憎しみと悲しみから起きたもので、今のままで共存できればミライも大人しくすると約束してくれました」

「なるほど……。して、翔吾くんが考えている方法というのは?」

 首相の鋭い視線が翔吾に襲いかかる。一国の主のオーラに気圧されるも、翔吾は勇気を振り絞り自分の考えを伝えた。

「AIドロイドには人と同じように心があるんです。ですから……AIドロイドにも義務と権利を与え、人と同じ扱いにするのはどうでしょうか?」

「AIドロイドと人を対等に、か。ふむ、こうなる前は、そういう考えの人も多少はいたのは事実だ。だがな、今や民意はAIドロイドを強制的に止める方法を望んでいるのだよ。あの恐怖体験は二度起こしてはならないからな」

「それは分かっています! なので試験的に──一部の地域をAIドロイドと人が一緒に暮らせるように出来ないのかと。もちろん時間はかかります、何年、何十年と。いつか世界がそれを受け入れられれば、このような悲劇はきっと起きません」

「つまりAIドロイドは、人と同じように扱って欲しかったと? そうすれば二度と今回のようなことは起きないと断言できるのかね?」

「断言できます。僕の父親は新川所長なんですよ? ミライやAIドロイドに一番詳しいんです。だから──」

 冷静に首相を説得しようと、深呼吸で心を落ち着かせる翔吾。ここが踏ん張りどころで、首に刃を突きつけられても引き下がるわけにはいかない。だが、そんな翔吾の覚悟に水を差す出来事が起きてしまう。

 一本の電話からコール音が応接室に鳴り響く。

 翔吾の中で不安が急激に増殖していった。

「ちょっと失礼するよ」

「は、はい」

「どうした? 今、大事な話の途中なんだぞ。……何? それは本当なのか。そうか、よくやったぞ、それならなんとかなりそうだな」

 電話からの報告で首相の顔つきが鋭くなる。口元には笑みが浮かび、不穏な気配が応接室に漂う。空気が急激に冷たくなり、翔吾の肩に重くのしかかる。


 不安という魔物が翔吾の心をいたぶってくる。

 全身を黒いモヤが覆い奈落の底へ転落しそうになった。


「……どうしたんですか?」

 恐怖に侵食されるも、電話の内容が気になる翔吾。振り絞った勇気で首相に何があったのか尋ねてみた。

「いやぁ、すまない。朗報の電話だったものでね」

「えっ……」

 一気に膨れ上がる嫌な予感が、翔吾の鼓動を大きくさせる。自然と力強く手を握り締め、首相からの言葉を緊張しながら待っていた。

「翔吾君、キミは私に何か隠してたりしないかい? そう、例えば──」

 不安は的中。翔吾の鼓動は際限なく跳ね上がり、隣に座る真由美にも聞こえるほど。


 その続きを聞きたくない──。


 結果は間違いなく翔吾の予想通り。逃げ出したくても、ここで逃げればすべてが水の泡。時間は止まらず動き続け、首相の口がゆっくりと動き出す。激しくなった鼓動は臨界点を突破し、今にも大爆発を起こしそうであった。

「キミが人間ではなかったりとか。しかも新川所長によって生み出されたクローン型AIドロイドで、あのミライの弱点だったとはね」

「なっ……。ど、どうしてそれを!?」

 予想は不運にも的中し、翔吾は激しく動揺する。真実を知るのはごく限られた人しかいないはず。真由美の両親からと一瞬頭を過ぎるも、ありえない話だと翔吾は心の中で首を大きく横に振った。

「情報というのはね、どんなに隠したとしても漏れるものなんだよ? キミを使えばあのミライと取引できるかもしれないんだ。いや、違うな、人質──と言った方が正しいか」

「僕を人質にって……。いったい何を考えているんですかっ!」

「簡単な話だよ。キミを使ってあのミライを永久に停止させ、新しいミライを作るんだよ。ベースはあの使われていない研究所にあるからそう難しい話ではないしな。それに停止させる鍵もあるんだろ? 今は手元にないようだが」

「そんなことまで知ってるなんて……」

「悪いけど、これも人類の──いや、日本のためなんだ。このままキミ達を拘束させてもらうよ。なーに、安心していい、大事な人質だからな」

 タイミングを見計らったように、ガタイのいい黒服達が応接室に乱入してくる。翔吾と真由美は抵抗する間もなく、その男達に別室に連れて行かれ閉じ込められてしまった。


「なんで……。どうしてこんなことになったんだよっ」

「翔吾……」

 薄暗い小さな部屋にたった二人。外から鍵をかけられ脱出は不可能だ。完全に進む道を塞がれ、翔吾の目の前は真っ暗となった。

「くそっ、このままじゃ、AIドロイドが完全に道具化しちゃうじゃないか! AIドロイドだって心はあるし、それに桔梗だって……」

「大丈夫、きっとまだチャンスはあるから、だから諦めないで」

「それはいつだよっ! 1ヶ月しか猶予はないんだぞっ!」

 焦りと動揺から翔吾は真由美に八つ当たりする。絶望に支配され周りが見えなくなっていた。闇に堕ちた翔吾を真由美は怒るどころか、笑顔で優しく包み込んだ。

「焦る必要なんてないよ。私はまだなんとかなるって思ってるもん。諦めたらそこですべて終わりなんだよ? だからね、チャンスが来るのを待つんだよ。そのためには心を落ち着かせておかないとね」

 聖母のように抱き締める真由美。優しい温もりが翔吾の荒んだ心を落ち着かせる。不思議な力があるのか、翔吾から怒りという感情を消し去った。

「……真由美ごめん。僕がAIドロイドだって知られて、少し動揺してたみたい」

「うん、翔吾はAIドロイドだろうと関係ないよ? 私にとって翔吾は翔吾なんだから」

「ありがと、真由美。もう大丈夫だからさ」

 完全に立ち直った翔吾に笑顔が戻る。最悪な状況ではあるが、必ず突破口が残されているはず。翔吾は諦めず反撃の機会を待つ事にした。


 焦っては失敗するだけ。

 チャンスは必ず訪れるに決まっている。

 今は耐えるのが最善策。


 薄暗い闇の中で光が差し込む瞬間を待っていると、トビラの方から鍵が開くような音が聞こえてきた。

「今、鍵の開く音が聞こえなかった?」

「うん、私にも聞こえたよっ」

 二人がトビラの方へ視線を向けると、ゆっくりドアノブが回るのが見えた。人質として翔吾を迎えに来たのだろうか。緊張が一気に加速し、誰が入ってくるのか瞬きせず直視していると、予想外の人物が翔吾達の前に現れた。

「あーっ、翔吾お兄ちゃんだっ。どうして、こんなところにいるのー?」

「えっ……。早苗ちゃん!?」

「なんで早苗ちゃんが首相の家にいるの?」

「ここはじーじのうちなの。探検ごっこしてたんだけど、翔吾お兄ちゃんはかくれんぼしてたのー?」

 無邪気に答える早苗の姿に、翔吾達の緊張は瞬く間に解れた。

「違うよ、僕たちはかくれんぼしてたんじゃないよ。首相──ううん、早苗ちゃんのおじいちゃんに閉じ込められたんだよ」

「何か悪いことでもしたの?」

「してないよ、ミライと和解する方法を持ってきたんだけど、その……僕がAIドロイドと知られて、ミライを脅すために捕まっちゃったんだよ」

「翔吾お兄ちゃんはAIドロイドだったんだー。桔梗お姉ちゃんと同じなんだねっ。でも、脅すとかじーじは酷いよ。桔梗お姉ちゃんみたいに優しいAIドロイドもいるのにっ」

 小顔をフグのように膨らませ、早苗は首相──もとい自分の祖父に怒りだした。その姿は怖いというより可愛らしく、翔吾の口元に微笑みが浮かぶ。笑い声が薄暗い空間を賑わせていると、再びドアが開く音が聞こえてきた。

「早苗、こんなところで何をしてるんだい。ここは入っちゃダメだぞ」

「じーじなんて嫌いっ」

「ど、どうしたんだい突然……。早苗、私が何か嫌われるようなことでもしたのかい?」

「したのー、だってじーじは翔吾お兄ちゃんをイジメたんだもんっ」

「なっ……。というか早苗、翔吾君と知り合いなのか?」

「うんー、早苗が危なかったときに、翔吾お兄ちゃん専用のAIドロイドの桔梗お姉ちゃんに助けてもらったんだよー」

 首相は早苗が危機一髪で助けられたのは知っていた。だが助けた人がAIドロイドだとは知らされてなかった。ミライへの切り札が愛しの孫娘の恩人だと理解した途端、せっかく描いた計画が水の泡となる可能性が高まる。

 安全策で国益を守るか、孫娘の恩人を取るか、首相は悩みに悩み抜き結論を出した。

「そうだったのか。だがな早苗、翔吾君を上手く使えば、この悪夢のような現実を確実に終わらせられるんだ。何事にも犠牲はつきものなんだよ」

「違うもん、桔梗お姉ちゃんも優しかったし、翔吾お兄ちゃんだって優しいもん。AIドロイドだからって、差別するのはよくないよっ。じーじ、お願いだから他の方法を探して欲しいの」

 究極の攻撃とも言える孫娘の潤んだ瞳。誰であろうと防ぐ術は存在しない。心に甚大なダメージを負った首相は、愛しの孫娘の意見に従いざるを得なかった。

「分かった、だからそんな目で私を見ないでおくれ」

「ホントに!? じーじだーいすきっ」

 嬉しさのあまり早苗は自分の祖父に飛びつく。甘える姿が微笑ましく翔吾達に安らぎを与える。まさに孫娘無双で翔吾達はこの窮地を乗り越えられた。

「──コホン。それでだな、愛しい孫娘のためだ。翔吾君の案とやらを聞こうではないか」

「は、はいっ! 僕が考えているのは、どこか隔離された村でAIドロイドと人が助け合って暮らすことです。これなら、AIドロイドを道具として見る人がいないと思うんです」

「なるほど。隔離された……うーむ、それなら人工島を作りそこを特区とすればよいか。ただし条件がある」

「条件ですか……?」

 先ほどとは違い不安は一切感じない。翔吾は飲める条件なら出来るだけ飲むようにした。

「まずは今回の反乱だが、すべて新川所長に責任を負ってもらい国外追放とする。でなければ国内だけでなく、他国にも説明がつかんからな」

「……はい。分かりました」

 一瞬悩むも翔吾は首を縦に振った。真実を知ってからは、本当の父親でないと情が薄れていたからだ。

「次にAIドロイドだが、特区以外にも従来通り普及させる。これも国益のためだ、理解してくれ。それと万が一に備えミライを停止させる鍵は預かるからな」

「それも分かりました」

 翔吾の計画が成功すれば何も問題はない。失敗は考えておらず、翔吾の顔は自信に満ち溢れていた。

「最後だが、特区で今回のような事が起きたのなら、私の計画を進めるからな。ミライを完全に停止させ新たなミライを作り、AIドロイドに安全装置をつけるという計画だ」

「それで構いません! 必ず平和な特区にしてみせますっ」

「そうか……。そこまで覚悟しているなら特区の設立を認めよう。だが勘違いするなよ? これは愛しの孫娘の頼みだから聞いてやるんだからな」

「ありがとうございます!」

 首相の決定に翔吾と真由美は手を取り喜びを分かちあった。奇跡と断言できる大逆転劇は、残りの人生の運をすべて使いきったからかもしれない。ようやくスタートラインに立て、待ち受けるのは苦難の数々。それでも翔吾は何ひとつ心配していなかった。

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