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AIには愛がありますか?  作者: 朽木昴


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第25話 未来への道

「大丈夫、翔吾?」

「うん、大丈夫だよ。安心したら力が抜けただけだから」

「そっか、それじゃ私が部屋まで連れてってあげるね」

 真由美の癒す声が翔吾を優しく包み込む。力が戻る不思議な声。翔吾は自らの足で歩けるようになり、真由美の部屋へと向かった。

「翔吾、どうやってミライに認めさせよっか。1ヶ月って長く感じるけど、色々考えると短いよね」

 部屋に戻り休むかと思いきや、二人はすぐにミライをどう納得させるかの話し合いを始めた。

「実はね、なんとなく頭の中にはイメージがあるんだ。でもそれを実現させるには、いくつもの障害を乗り越えないといけないんだけど……」

「障害? 何かしらの案はあるんだねっ。さすが私の翔吾だよ」

 翔吾の頭の中にあるイメージは非常に難易度が高い。実現するには翔吾と真由美だけでは不可能。最低でも大人である真由美の父親の力が必要であった。

「僕が考えてるのはね、小さな隔離された村みたいなところで、AIドロイドと人が助け合いながら暮らせたらいいなって」

「いいじゃない、翔吾らしい案だよね」

「ありがと、真由美。でもね、大きな問題があって、まずあの悪夢を体験した人たちが協力してくれるかなって。それに……国に認めてもらわないことには始まらないんだよね」

 この難題を乗り越えなければ、ミライとの約束は守れない。最初からイバラの道だと理解していたが、具体化していくと難しさが浮き彫りになっていく。翔吾の中に諦めるという選択肢は存在せず、問題を1つずつ解決していく事にした。

 小一時間ほど考えるも進展はなし。出だしから大きな壁にぶつかるが、挫折ではなく真由美の父親に相談する、というポジティブ思考に切り替える。タイミングは夕食後がベストで、二人は時間までしばしの休息を取った。


 真由美と一緒なら困難な道も乗り越えられるはず。

 この計画は絶対に成功させる必要がある。


 全人類という大きな重しは捨て、AIドロイドのため、桔梗の想いを無駄にしないため、そして翔吾と真由美の未来のために前へ進み続けようと決めた。


 1階に降りると翔吾が真っ先に気になったのはAIドロイドの存在。視線を入口へ向けるもその姿はない。AIドロイド研究所に戻った可能性が高く、自己解決で納得し翔吾の心を覆っていたモヤは痕跡を残さず消えた。


 ミライはAIドロイドを破壊されたくなかった。

 子どものような存在だからこそ、人間の前から去るよう命じたと思える。


 心が完全に解放され爽快な気分となる翔吾。すでに用意されている夕食が楽しみで仕方がなかった。

 テーブルに並ぶ豪華なご馳走が翔吾の食欲を唆る。真由美の母親が冷蔵庫にあった食材だけで作ったもの。家族との再会と翔吾への愛情が込められていた。

 家族団欒での食事は久しぶり。

 それこそ遠い昔の出来事のように感じる。

 笑いが絶えない夕食に心の底から喜びが溢れ出し、翔吾は満面の笑みを浮かべた。

「おじさん、夕食後にお話があります。今後のことで相談に乗って欲しいんですが……」

「大丈夫だよ。それに、可愛い翔吾君の頼みは断れないからなぁ」

 真由美の父親は優しい笑顔を浮かべ、翔吾の頼みを快く聞き入れてくれた。内心気が気でなかった真由美も、その笑顔に緊張が解け胸を撫で下ろした。

 楽しかった夕食が終わりを告げ、後片付けを始める翔吾と真由美。新婚生活のような後ろ姿は、これから訪れる苦難を忘れるくらい幸せそうであった。


「それで、相談というのは何かな?」

 テーブルを囲むのは真由美と真由美の父親を入れた三人。ほんの少しだけ重い空気が流れる中、翔吾は自ら考えた計画を話し始めた。

「はい、おじさん、実は──」

 特定の場所を作りそこでAIドロイドと一緒に暮らす──真由美に話した内容を翔吾はそのまま伝える。夢物語のような案にも関わらず、真由美の父親は真剣な眼差しで耳を傾けた。

 時間にして十数分、真由美の父親はその間ひと言も喋らなかった。

「なるほど……。少し考えさせてくれ」

 目を瞑り翔吾の情報を頭の中で整理する真由美の父親。自ら協力できそうな事が何かを考える。情報をいくつかに分解し、直接協力できるもの、間接的に協力できるもの、翔吾にしか出来ないものに分けた。


 特定の場所なら用意するのは可能。

 国への認可はかなりの権力を持つ真由美の父親ですら無理である。そこまでの道であれば、開通させるのは出来る。その先は翔吾次第で、信じて待つしかない。

 協力してくれる人なら、自社の人間に特別手当つきで募集すれば集まるはず。


 考えが纏まり真由美の父親がその内容を優しく伝えた。

「翔吾君、すべてとはいかないが、私が協力できることはいくつかある。ただ──最後は翔吾君の力が必要になってくる」

「ホントですか、おじさん! 僕はなんだってしますよ」

「そうか、それならAIドロイドと暮らせる場所は私が用意しよう。そこで暮らす人も、少人数ならなんとかなるかもしれない。問題は国に認めさせることだ。さすがに私でも無理な話だが、首相へのアポなら取れる。どうだい? 説得する自信があるなら取り次いでみるが……」

「首相を説得……。分かりました、なんとか説得してみます」

「分かった、それならアポを取ろう。だが知っての通り、AIドロイドへの恐怖心が残ってる以上、説得はかなり難しいぞ?」

 日本の首相は絶大なる支持と権力の塊。昔からAIに尽力し、結果的に競走を勝ち抜けた。国内の経済が大きく潤っただけでなく、他国から支払われる莫大なお金で貧富の差を完全になくす。おまけに大規模な減税政策まで手がけ、日本を世界一の富豪国へ導いた実績があった。

 つまり説得さえ出来れば、翔吾の計画は成功が約束される。問題はAIドロイドが恐怖の対象となった今、AI派に近いとはいえ首相が簡単に首を縦に振るとは思えない。

 駆け引きが重要となり、言葉ひとつ間違えただけで取り返しがつかなくなる。それでも翔吾は大きく頷き、自分の覚悟を意思表示した。


 その日の夜、翔吾は真由美の部屋で話の切り出し方を考えている真っ最中。何事も最初が肝心であり、慎重に言葉を選ばなければならない。カーペットに横になると、天井を見ながら考え、目を瞑りまた天井を見る。何度繰り返しただろうか、目を開けた瞬間、映るはずの天井に代わり真由美の顔が突如現れた。

「なっ……。ま、真由美!? ビックリするじゃないか」

「もうー、さっきから怖い顔して考えすぎだよぉ。ひとりで考えないで一緒に考えよ?」

 真由美に引っ張られ体を起こされ、翔吾はその場にそのまま座った。真由美もベッドに可愛く座り、二人で首相とどう話すか議論を始めた。

「日本はAIドロイドの恩恵で裕福なんだし、すべて破棄するのはないと思うんだよねー」

「確かに翔吾の言う通りだけど、それならAIドロイドとミライはどうするつもりなんだろ?」

「考えられるとすれば、感情に制限をかけたり、個々のAIドロイドに緊急停止できる仕組みを取り入れるとかかなぁ」

「それってAIドロイドに自由がなくなるってことじゃない!」

 完全に道具化するという意味が真由美を怒らせる。荒らげた声で感情を爆発させた。

「お、落ち着いてよ、真由美。僕の理想はあくまでも今のままでの共存なんだ。だから、AIドロイドが安全だと証明できればいいかなって」

「んー、そうだねぇ、AIドロイドにも権利が必要とかは? あー、でもAIドロイドを道具としてしか見てなかったら意味がないかぁ」

「権利、か。AIドロイドを新しい種族として認めてもらえればいいんだけど……。今回の反乱は道具扱いされたのが原因なんだし」

「頭が固い人だったら絶対に認めないだろうねぇ」

「うーん……。人がプログラミングしてるとはいえ、コミュニケーションを取れるのに。あっ、それならさ、AIドロイドにも義務を与えるのはどうかな? もちろん、義務に対して権利も与えるんだ」

「でも人が作ったものに義務を与えてくれるかなぁ」

「人だって植物の品種改良とか動物の交配とかしてるじゃない。だからさ、人が作ったものが道具とは限らないと思うんだ」

「うん、翔吾の言う通りだよね。あとは情熱を込めれば、きっと頑固な人でも納得するはずだよっ」

 二人は夜遅くまで話し合いを続けた。もし桔梗がこの場にいたのなら、AIドロイドの立場から意見が出たかもしれない。だが、いない事実を変えるのは不可能。心の中に桔梗を感じながら、翔吾と真由美はいつの間にか倒れるようにベッドで眠ってしまった。


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