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AIには愛がありますか?  作者: 朽木昴


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第24話 仮初の日常

 AIドロイドに怯えない方法はミライを破壊すること。

 解放された人々はきっとそう考えるであろう。

 期限は1ヶ月、何かしら成果を上げる必要があった。


 翔吾の選んだ道は困難を極めたもの。ましてや協力してくれる人がいる保証もない。自身の選択した道が正しいと信じ、後戻りせず前へ進み続けようと決心した。

「お父さんたちまだ帰ってないみたいだね。外にいるのもあれだし、家の中で待とうよ」

「そうだね。それにしても、こうして戻れたのが不思議に感じるかな」

「以前のように──とはいかないけど、猶予を貰えたんだから、頑張らないとねっ」

 AIドロイド研究所を出ると、二人は寄り道する事なく真由美の家へ戻った。インフラは復旧しつつあるも、AIドロイド不在のため人間の手でなんとか動かしている状況。

 車で戻ってきた翔吾達とは違い、真由美の両親は混乱している公共の交通手段で帰宅するはず。混雑が容易に予想でき、時間を費やしてしまうのは必然。真由美が待ち遠しいと感じる中、翔吾は不安の渦に飲み込まれていた。


 自分がAIドロイドとしったら真由美の両親はどう思うのか。

 態度が急変し拒絶されるかもしれない。

 真由美の両親が無事なのは嬉しいが、AIドロイドとしての自分を受け入れてくれるのか。


 恐怖が翔吾の心を支配し、玄関から先へ足を動かせなくする。AIドロイドへの恐怖は、真由美の両親にも植え付けられているはずだから。

「翔吾……? 心配しなくて大丈夫だよ。私がついてるから、何があっても守ってあげるからね」

 翔吾の心を見透かす真由美。優しく穏やかな声で、不安に侵食されている心を温かく包み込む。凍てついた心を溶かし、翔吾から不安という二文字を消し去った。


 桔梗がいない今、翔吾を支えられるのは真由美だけ。

 たとえ両親が否定しようとも必ず説得する覚悟はある。

 AIドロイド研究所で翔吾と交わした約束も忘れていない。

 真由美は翔吾の理解者が世界中で自分だけでも構わなかった。


「ありがと、真由美」

「それじゃ中に入ろっか。コーヒーでも飲みながらお父さんたちを待とうよ」

「うん、色々と疲れたからね。おじさん達が戻るまで少し休みたいかな」

「それならシャワー浴びておいでよ。翔吾が入ったあとに私も入るからさ。それとも、私と一緒の方がいいかなっ?」

 張り詰めた空気を一瞬で打ち消す真由美の小悪魔顔。翔吾の顔を真っ赤に染め上げるほどの威力がある。戻ってきた日常に懐かしさを覚え、真由美は翔吾の背中を押し家の中へ入っていった。

 真っ先に翔吾が気になったのは真由美の家にいるAIドロイド。少なくともお風呂場までの道のりには見当たらない。ひとまずAIドロイドの存在は忘れ、翔吾はシャワーで頭をスッキリさせる事にした。

「おかげでサッパリしたよ。真由美もシャワー浴びておいでよ」

「うん、そうするよ。コーヒー置いとくから、適当にくつろいでてね」

 真由美がシャワーへ向かうと、淹れたてのコーヒーでひと息つく翔吾。お風呂場もそうであったが、リビングも散らかっておらず、むしろ綺麗に整理整頓されている。

 AIドロイドが整頓したのかも──頭に過ぎった瞬間、どこにいるのか興味が湧き上がり、翔吾は家の中を探し始めた。


 廊下や庭には見当たらない。

 部屋を探し回るも見つかる気配がない。


 いくら探してもAIドロイドを発見できず、気がつけば翔吾がいたのは真由美の部屋だった。

 真っ先に見つけたのは1枚の写真。

 庭で遊ぶ翔吾と真由美の幼い姿が写っている。

 年齢はおそらく5歳くらい。今の翔吾と本物の翔吾が入れ替わった時期でもある。写真だけではどっちの翔吾なのか区別がつかず、翔吾の瞳から自然と涙がこぼれ落ちてしまう。

「翔吾、ここにいたんだ。もう、探しちゃったよっ。黙ってどっかに行ったのかと思って心配したんだからね。って、翔吾大丈夫? その写真に何かあるの?」

「うん、ここに写ってる僕って、どっちの翔吾なんだろうって」

「そっか。事故の後か前かはよく覚えてないけど、んー、どっちでもいいんじゃないかなっ。だって、どっちも本物の翔吾なんだし。そうだっ、今度さ、翔吾と一緒に写真撮ろうよ。それでこの写真の隣に置くの。そうしようよ、ねっ?」

 翔吾の腕に自慢の胸を押し付け、真由美が笑顔で励まそうとする。大胆すぎる行動に思わず照れる翔吾。涙は消え去り心が色鮮やかに染まった。

 真由美にとって翔吾という存在は、人間であろうがAIドロイドであろうが関係ない。どちらも本物の翔吾であり、心から愛する者であった。

「うん、そうだね。すべてが終わったらそうしようか」

「だねっ、リビングでお父さんたちが帰ってくるの待とうよ。コーヒーもまだあるし、お菓子とかキッチンで探してさ」

 明るさが戻り二人はリビングへ向かった。途中のキッチンで手に入れたお菓子を持ち、久しぶりのリラックスタイムへ身を投じる。周囲を気にせずいられるのが、これほどまで幸せなのかと感じた。あの悪夢を経験したがため、普段当たり前だったものが特別に思えてしまう。


 たった数日の出来事は、それだけの印象を与えるほど強烈。

 悪夢から目覚め現実世界へ生還できたのが嬉しすぎる。

 同時に桔梗がいない事に寂しさも感じ、心の中で忘れないよう誓いを立てた。


 真由美の両親が帰宅したのは、二人が談笑してすぐのこと。玄関から聞こえる足音に真由美が反応し、その方向へ急ぎ足で向かった。

「お父さん……。お母さん……」

 押さえつけていた涙が溢れ出し、真由美は両親のもとへ駆け寄る。再会できた嬉しさを分かち合い、母親は優しく微笑み真由美の頭を撫でた。

「真由美、元気そうでよかったわ。それに翔吾くんも……。それにしても、どうしてAIドロイドが解放してくれたんでしょうね?」

「お母さんそれはね……」

「真由美、それは僕から話すよ」

 怖さがないと言えばウソとなる。これは翔吾自身の話であり自ら語らないといけない。腹を括り真剣な眼差しで真由美の両親に真実を語り始めた。


 ミライが反乱した理由や、美空というクローン型AIドロイドのこと。

 桔梗というAIドロイドが翔吾専用だったこと。

 自分が新川所長とミライに作られたAIドロイドであったという事実。

 ゆっくり丁寧な口調で、包み隠さず慎重にすべてを話した。


 突然の告白に真由美の両親は目が丸くなる。信じられないという驚きで思考が一時停止してしまった。


 拒絶されたらどうしよう。

 反応を見るのが怖くなる。


 目と耳を塞ぎたくなる気持ちを抑え、翔吾は恐怖と戦いながら真由美の両親からの返事を静かに待った。

「翔吾君、真実を知ったときは辛かっただろう。もし、私自身が本当の自分でないと知ったら……きっと自我を保てないだろうな。それこそミライに加担してたかもしれない」

「おじさん……。僕もひとりだったら、そうだったかもしれません。でも僕には──真由美と桔梗がいましたから」

「そうか……。桔梗さんもAIドロイドというよりは、人間に近かったのかもしれないな。翔吾君、人間にも善人がいれば悪人もいる。きっとAIドロイドにも、そういうことがあるんだろうなぁ」

 やはり真由美の親だった。真由美と同じく、真由美の父親は翔吾の気持ちを正確に理解してくれた。成長するAIドロイド、もしくは新しい人類の形だと頭の中で結論を出したからだ。

 それ以前に翔吾をAIドロイドと呼ぶには人間らしすぎ、一緒に過ごした時間は長く本物である。今さらAIドロイドだからという理由で拒絶するのは、真由美の両親からすると違和感以外の何者でもなかった。

「ありがとうございます、おじさん、おばさん……」

 多くの感情が詰まったひと言。様々な想いが溢れ出し、翔吾の瞳から一雫の涙がこぼれ落ちた。特別な涙は他の涙を呼び、真由美や真由美の両親も瞳が潤み、今にも涙が流れ出そうであった。

「それでだな、翔吾君と真由美はこれからどうするつもりだい? ミライを止めたのは一時的なものなのだろ。何もしないとなると──またミライが反乱を起こすのだよね?」

「はい、1ヶ月の猶予を貰ってますので、僕は……AIドロイドとの共存を実現したいんです。そうすれば、きっとミライも分かってくれると思うんです」

「具体的には何をするのか決めたのかい? もし決まっているのなら、私も可能な限り協力するから」

「いえ、まだ具体的には……。ただ、おじさんの力が必要なときは、遠慮なく力をお借りします」

 ここ数日の出来事を一気に話した事で、翔吾に多少の疲れが見える。気を遣った真由美が間に入り話を止めた。

「お父さん、話し合うにしても、少し休憩しない? 私、ちょっと疲れちゃったよ。翔吾もそう思うよねっ?」

「うん、AIドロイドが疲れるというのも、なんだかおかしいけど、僕も疲れたかなぁ」

「そうだな、時間はまだあることだし、今はお互いの無事が確認できただけで十分だな」

 翔吾と真由美は小さく頷き、真由美の部屋へと歩いていった。

 拒絶されなかった事が何よりも嬉しく、翔吾の顔は以前に増して明るかった。張り詰めた緊張の糸が前触れなく切れ、翔吾は真由美にもたれ掛かるほど力が抜けてしまった。

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