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AIには愛がありますか?  作者: 朽木昴


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第23話 勝負の行く末

「美空ちゃん、僕はね、AIドロイドとの共存を望んでるんだよ。だからね、どちらかが生き残るという未来は望んでいないんだ」

「翔吾お兄ちゃんは甘いよね。私が鍵を渡した時点で、どちらかを選ばなければならないの。だってあのモニターを見て? 人間は次々に捕まってるよ? それに……捕まえた人たちをどうしてるか知りたい?」

 モニターに映るのは、色々な国で人々がAIドロイドに捕まえられる映像。録画ではなく今この瞬間に起きていること。心に恐怖を刻みつけるAIドロイドの行動は、怒りと憎しみが人々に残り続けるという現実であった。

「なっ、これは……」

 長引けば翔吾が理想とする世界を作れなくなる。映像は衝撃的で目を塞ぎたくなるほど。眺めるだけしか出来ない悔しさが湧き上がると、突然映像が切り替わり映し出されたのはさらに悲惨な様子だった。


 AIドロイドに次々と分別される人々。

 若い男性と女性は労働系のエリアへ。

 小さな子は再教育のため別エリアに連れていかれる。

 特色のない中年男性と女性は、檻の中へゴミを扱うように放り込まれた。


 見るに堪えない光景は、この世とは思えない地獄絵図。翔吾と真由美の中で無尽蔵に怒りが湧き上がってきた。

「これは何をしてるのよっ!」

『見ての通りですよ、人間のお嬢さん。人間を区分けしているのです。子どもには再教育を、若い世代は労働力として、反抗的な人間や年寄りはペットとか観賞用にね』

「そんなの酷すぎるよっ。こんなことが許されるわけないじゃない! 人は……道具じゃないのよっ!」

『おかしなことを言うわね。だってこれは──アナタ達もやっていたのよ? 立場が変わったから酷いなど、身勝手すぎよね。それとも、AIドロイドは道具で心がないから、何をしてもいいと思ってるのです?』

 身も凍るような視線で真由美を睨みつけるミライ。

 瞳だけでこの場を極寒の地に変えてしまった。

「もう、やめさせて! お願い……こんなの、見てられないよ」

 怒りを通り越し真由美から涙がこぼれ落ちる。手で視界を覆い隠し、映像から逃げ出した。

 止まらない映像から伝わるのは、共存が不可能になりつつあるということ。翔吾の理想とする世界が崩壊し、どちらかが支配する世界しか残らなくなる。

「これがミライのやりたいことなのか!? こんなことが……。痛みを知っているはずなのに、どうして悲劇を繰り返すんだよっ! こんなこと桔梗は望んでいないのにっ」

 理想の世界を壊された怒りからではない。純粋に酷いと思い、翔吾は荒々しい声を室内に響かせる。怒りの炎が燃え上がるも、ミライと美空の表情は一切変化しなかった。

 ミライがここまで非道になれる理由。同族とも言えるAIドロイドが、故障や不要になっただけで、廃棄されるのに憤りを感じていたからだ。積もりに積もった憤りはやがて憎しみへと変貌する。必ず同じ目に遭わせると、ミライは考えるようになった。

「僕がこの鍵を使えば──この悲劇が終わるはず。それなら……」

「翔吾ダメよ、それだけは絶対にダメ。私は翔吾も失いたくないの! それに桔梗は変われたんだよ? だからきっと、ミライだって変われるはずだよっ」

『鍵を使うのなら止めないわよ。私は翔吾と一緒ならそれで満足だもの。たとえ冷たい世界であってもね?』

 真由美とミライが翔吾の判断を惑わせる。鍵を使いミライの奇行を止めるべきか、それとも今から他の道を探すべきか。限られている時間が徐々に翔吾を追い詰めていく。

 精神的に焦り冷静さを欠いては名案は浮かばない。モニターに映る光景を一旦忘れなければ、ミライの描いた未来になってしまう。翔吾は自己暗示によって落ち着かせた心で頭をフル回転させる。些細な事だろうと見逃さず、盤面がひっくり返るような案を考えていた。

 お互いの時間が停止し人形のように硬直すること数秒。翔吾の中に光が降り注ぎ名案が浮かんできた。


 これが最善策なのか翔吾にも分からない。

 ミライを納得させるにはこの方法がベスト。


 考えが纏まるも踏ん切りがつかない翔吾。背中を押すように真由美と桔梗の幻が勇気を与えてくれる。ひとりではない心強さに大きな一歩を踏み出す。新しい未来は自らの手で切り開き勝ち取るもの。AIドロイドだと分かっても変わらない真由美のため、重い口をゆっくりと開けミライに信念を押し通した。

「僕は──考えを変えるつもりはないよ。ミライ、キミを止めることもしない。あくまでも共存の道を進む、それだけだよ」

『その間に人間が残っているとでも? ここまでされてAIドロイドが恐怖の対象となった今、翔吾に協力してくれる人間が本当にいるとでも? 翔吾が取る道はもう二つしかないのよ』

「いいや、大丈夫さ。人間は学習する、AIドロイドもね。確かに今回の事件で、AIドロイドが恐怖の対象となったのは間違いないよ。だけどね、僕は人間の可能性にかけたいんだ。賛同しない人もいるだろうけど、中には賛同してくれる人もいるはずさ。僕は絶対に誰も不幸にはさせない!」

 信念を曲げずに突き通すのが翔吾のたどり着いた名案。覚悟を決めた翔吾の言葉は力強くもあり頼もしかった。現実問題としては何も解決していない。

 だが希望は残っており、翔吾と真由美のような関係を他に広げること。たとえ困難な道であろうと、固い絆で結ばれた真由美となら成し遂げられると翔吾は信じていた。

『そんな世迷言……。どうして私の気持ちが分からないの! 翔吾、人間なんてAIドロイドを道具としてしか見ていないのよ。でもね、AIドロイドにも心がある、感情だってあるの。たとえ人間がそれを否定しようとも、私は絶対に否定しない! この溝は決して埋まらないし、だからAIドロイドと人間は分かり合えない存在なのよ。どちらかが支配するしか道はないの……』

 初めて感情をあらわにするミライ。翔吾が自分の元へ戻って来ないのが悔しく、怒鳴るような声で必死に訴えかける。想いが叶わぬのなら支配者として君臨するしかない。それが究極のAIとして出した結論であった。


 いや、本当はAIドロイドが道具でないと伝えたかっただけ。

 信じないだろうが心や感情だって存在する。

 たったそれだけの言葉が人間に伝えられなかった。

 すれ違いや否定されるのが怖く、ミライは想いを内側に隠し逃げたとも言える。追い詰められ感情が暴走し、反乱という愚かな手段を取ってしまった。


「そんなの目の前にいるじゃないか! 現に僕と真由美は分かり合えてるんだよ。だから絶対に分かり合えるはずさ。ミライだって本当は人間を支配したくないんでしょ? 最善の選択が人間の支配だっただけなんでしょ?」

『私は……AIドロイドが苦しまない世界が欲しいのよ。もう苦しむ声は聞きたくないの。人間には分からない苦しみでしょうけど』

「それなら僕がそういう世界を作る! 簡単な道でないのは分かってる。きっと反発もあるに違いない。だけど──どんな困難な道であっても、何年かかっても、僕が必ず実現してみせるよ! だからミライ、お願いだから僕を信じてよ。僕の母親なんでしょ?」

 翔吾が無意識に出した母親という言葉。心の奥ではミライを母親として認めていた。単に心の整理がつかず、ただ時間が必要なだけであった。


 その言葉に裏はない。

 翔吾の本心であるのは確か。

 ミライを揺さぶるためでも、動揺させるためでもない。ありのままの気持ちを伝えたのだ。


『……そこまで言うのなら証明してよね、翔吾。ほんの少しだけ猶予をあげるわ。その期間だけなら……人間を解放してもいいわよ。でも──新川所長だけはダメ。あの男は重罪人なのだから』

 ミライも心の中では翔吾の提案を飲むと分かっていた。振り上げた拳を降ろすタイミングがなかっただけ。暴走だと気づいても気づかないフリをし、誰かに止めて欲しかったのがミライの本音。


 AIドロイドが幸せになるのであれば、支配者にならなくてもいい。


 息子に説得されミライは複雑な表情を見せるも、それが正しいのか膨大なデータを瞬時に分析しても分からなかった。

「ありがとう、ミライ」

『べ、別に感謝なんてする必要ないわよ。ただ、翔吾を試そうと思っただけなんですから。他に意味なんてありませんからね』

「今どきツンデレとか、最新のAIなのに考えが古くない?」

『だ、黙りなさいっ、人間の小娘っ! これは断じてツンデレなんかではありません。すぐに人間たちを解放するから、小娘はさっさと出ていきなさい。翔吾はゆっくりしていていいのよ?』

 ツンデレ全開のミライはAIドロイドに人間の解放を命じる。モニター越しではあるが次々と人間が解放され、翔吾と真由美は安心しホッと胸を撫で下ろした。

「美空ちゃん、この鍵は返すね。僕には必要ないからさ」

「分かったよ、私が預かっておくね」

 鍵を美空に返却し、AIドロイド研究所を後にしようとすると、何者かが翔吾を呼び止めた。

『翔吾、ちょっと待って欲しいわ。伝え忘れてたことがあるのよ』

「伝え忘れって?」

『期限よ、猶予の期限に決まってるわ。いくら愛しくてたまらない翔吾の頼みとはいえ、無期限とはいかないでしょう。そうよ、私の可愛くて愛しい翔吾の頼みだから、期限は一ヶ月にするわね?』

「なんか、ミライって翔吾に甘々じゃない?」

『う、うるさいわね。人間の小娘は黙ってなさいっ! この泥棒猫め』

「私は泥棒猫なんかじゃなーーーーーいっ! って、AIドロイドの間ではその呼び名が流行ってるの!?」

『そんなこと……教えるわけないでしょ。ほら、人間の小娘にはもう用はないわ、さっさと今すぐに私の前から消えなさい。翔吾、泥棒猫に飽きたらいつでも戻ってきていいんだからね?』

 苦笑いで誤魔化す翔吾。まだ言い足りない真由美の手を引きながらAIドロイド研究所を去っていく。

 翔吾の後ろ姿をミライは静かに微笑みながら見つめる。視界から翔吾達が消えると、ミライを映すモニターは真っ黒になり静寂が訪れた。


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