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AIには愛がありますか?  作者: 朽木昴


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第14話 揺れ動く心

『2080年5月14日』

 ミライでも治療どころか原因の解明すら出来なかった。このままでは、翔吾が私のもとへ帰ることはない。妻に続いて翔吾までも失うなど耐えられるはずがない。私は悩んだ、真剣に悩み抜いた末に、あの技術を使うことを決めた。そうすれば翔吾は必ず私のもとへ戻ってくる。そう、どんな手を使ってでも……もう二度と失う悲しみなど味わいたくない。


『2080年5月16日』

 私は次世代AIドロイドの技術を密かに利用し、翔吾のクローンを作ることに成功した。クローン技術はその使用が禁止されているが、そんなことは私にとって些細なことだ。

 あとは、眠っている翔吾の記憶や人格をすべてクローンへコピーすればいい。これでやっと翔吾に会える……。肉体こそ違えど中身は本物の翔吾になるはずだから。

 ただ、問題がひとつ残っている。それはクローン技術を使用したとバレれば、必ず翔吾は殺されてしまう。そうならないためにも、保険として護衛用のAIドロイドを作ろうと考えた。名前は……そう、桔梗。妻が好きだった花の名前をつけよう。彼女に翔吾の護衛とお世話をさせれば安心だろう。


「これって……。つまり今ここにいる僕は──」

「翔吾、しっかりして! 私がいるから、どんなことがあっても、私がずっとそばにいるからっ!」

 翔吾の精神は臨界点を超え今にも発狂しそうなほど。真由美の声かけにも反応せず、深淵の中でひとり彷徨い始める。周囲の音は遮断され何も聞こえなくなってしまった。

 真由美が必死に翔吾を救おうとしている最中、桔梗はただ無言でモニターを見つめるだけ。表情や口には出さないが、心の中では見えない何かと戦っていた。


 この事実だけは翔吾に知って欲しくなかった。

 自ら話すのはプログラムの制御で不可能。

 どういう顔をすればいいのか見当もつかない。

 桔梗は無力な自分に悔しさを覚えた。


 衝撃的な事実は翔吾と真由美を地獄へ突き落とす。心の整理が追いつかないが、無情にも日記は次のページを映し出した。


『2080年5月17日』

 すべての記憶、人格をコピーしたのに翔吾はまだ目覚めない。何がいけないのかまったく分からず、私は頭を抱えてしまった。打開策が見つからないまま、時間だけが無慈悲に過ぎ去っていく。

 そんな中、私はある名案を思いついた。ミライを再び使えば意識が戻るのではないかと。さっそくミライと翔吾を接続させ、翔吾の意識が戻るのを祈るように待った。

 するとミライがすぐに分析を始め、すぐさま不足していたプログラムを翔吾に書き加えた。そう、この瞬間をどれほど待ったことだか。翔吾がついに目覚めたのだ。私は歓喜の涙を流しながら、翔吾を抱きしめて大喜びした。この日は私にとって忘れられない日、もう二度と誰にも翔吾を奪わせない……。


『2080年5月20日』

 ついに恐れていた事態が起きてしまった。副所長が私のやってることに気づいたのだ。奴は事もあろうに、私の大切な翔吾を殺すと脅してきた。さらに、国に報告しすべてを破棄するとまで言い出した。

 私は話し合いを試みるも、奴はまったく聞く耳を持たない。このままではすべてを失う──そう考えた私は、ミライと桔梗に命じて研究所を封鎖し、全職員を口封じのために始末させた。

 これで私と翔吾の間に障害はなくなった。あとは国に報告をすればいいだけ。そう、適当な理由をつけこの研究所も秘密にするように……。


「嘘だ……。こんなのデタラメだ! 僕がAIドロイドだって? 普通に病気もするし、食事も普通に……それなのにっ。桔梗! 何か言ってよ、お願いだから嘘だって言ってくれよ……」

「ごめん……。桔梗からは何も言えないの。唯一言えるとしたら……次世代AIドロイドの研究は最下層で行われてたってことだけ」

「きっとこれは何かの冗談に違いない。うん、そうに決まってる。最下層に行ってこれが嘘だって証明してみせる」

 翔吾の強気な態度は不安の裏返し。空っぽの心で日記が本当なのか調べようとした。

「翔吾、もし事実だったら……。ダメよ、そんなこと絶対にダメ。翔吾は今のままでいいじゃない! たとえ翔吾がなんであれ、私は……」

 真由美が混乱するのも無理はない。本物の翔吾が途中からAIドロイドと入れ替わったなど、到底受け入れられない話。日記の真相を知るのが怖くなり、涙を流しながら翔吾を必死に止めようとした。

 二人のやり取りを静観するしかない桔梗は、悔しさから拳を強く握り締める。罪悪感とでも表現すべきか、胸に感じる痛みが桔梗を苦しめた。

 混沌に陥るこの状況で、翔吾は突然地面に拳を叩きつける。怒りからなのか、悲しみからなのか、それともそのどちらでもないのか。自分でも分からない感情に支配された。


 きっとこれは悪夢。

 今までの出来事すべてが悪夢に違いない。

 自分がAIドロイドなどありえない話で、認めたくない想いが強かった。

 仮に事実なら真由美は今までと変わらず接してくれるのか。

 口では『何があっても』と言ってくれても、心がついてくるかは別問題。

 翔吾の中で築き上げてきたモノが壊れようとしていた。


「翔吾お兄ちゃん、美空はね、翔吾お兄ちゃんが大好きだよ。たとえこの話が真実だったとしても、美空は翔吾お兄ちゃんを絶対に見捨てたりしないからね」

 誰もが混乱する中、急に美空が大人びた声で話しかけてきた。雰囲気すらも異なり、違和感を覚えながら三人が一斉に美空へ視線を向けた。

「だから翔吾お兄ちゃん、確認しに行こう? 大丈夫だから、美空がずっと一緒にいるからね」

 天使の笑顔で美空が翔吾のもとへ駆け寄ってくる。

 声こそ大人びているが、仕草そのものは年相応であった。

「わ、私だって翔吾を見捨てたりしないよ。翔吾とずっと一緒にいるのは私なんだからね!」

 子ども相手に真由美はなぜかムキになる。明確な理由は自分でも分からないが、心の中で特大の警告音が鳴り響く。ただその音に反応しただけで、口にしないと二度と翔吾と会えない気がした。

「……ありがと。最下層に行ってみよう。そこでこれがデタラメだって証明しようよ」

 真由美と美空を信じた翔吾は覚悟を決める。迷いが吹っ切れ清々しい顔で最下層へと向かい始める。ただ桔梗だけは悲しげな表情で翔吾を見つめていた。

 最下層への移動はエレベーターを使用する。途中で止まる恐怖はあったが、果てしなく続く地下への階段に心を折られた。選択肢がひとつに絞られ、仕方なくエレベーターを使うしかなかった。

 恐怖心と戦いながらエレベーターに乗り込む翔吾達。最下層へのボタンを押すと、エレベーターは不気味な音とともにゆっくり動き始めた。

「このエレベーター……。途中で止まったりしないよね……」

「そのときは、この桔梗が翔吾様と美空様を最下層まで連れていくから安心してね」

「えっと、桔梗さん? あのー、誰かひとり忘れてませんか? こんな不気味なエレベーターでひとりとか、寂しすぎるんだからぁぁぁぁぁ」

「冗談だよ、真由美様」

 本当に冗談なのかと涙目になる真由美。信じたい気持ちはあるものの、心の奥に湧いた不安は簡単に消せない。精神的なダメージは日記を見た時に匹敵するものだった。

 いつものコントだと思い、翔吾は真由美をまったく心配していなかった。それよりも今の翔吾の頭を支配しているのは、美空の両親がどこにいるのか。カードキーを持っていた事実。自身がAIドロイドだと知っている可能性も高い。


 すべては美空が持っていたカードキーから始まる。

 それさえなければ、翔吾がAIドロイドだと知る事もなかった。

 しかし記録が事実だと仮定した場合、生き残っているのは翔吾の父親、ミライ、桔梗だけ。美空の両親はどうやって生き延び、そして彼らはいったい何者なのか。様々な疑問が残る中、エレベーターは最下層へ静かに到着した。


 トビラがゆっくり開き、出迎えてくれたのは薄暗い空間。足元には配線で描かれた芸術的な模様が広がる。翔吾達はコードに躓かないよう、慎重な足取りで奥へ進んでいった。

「何かの実験室みたいな感じだよね。翔吾、怖いなら手を握ってあげようか?」

「真由美様、足が震えてるけど、怖がってるのは真由美様の方でしょ」

「そ、そんなことないよ。うん、翔吾は昔から怖がりだからね。そうだよね? 翔吾っ」

「え……? 真由美、こういうときは素直になろうよ」

「真由美お姉ちゃんは大きいのに怖いの? 美空は翔吾お兄ちゃんに手を繋いでもらってるから平気だよ」

「うぅ……。怖いものは怖いんだから、しょうがないじゃないのっ!」

 開き直りという名の逆ギレで声を荒らげる真由美。美空が繋いでる手とは反対側の手を握る。その力は恐怖からかいつも以上に強かった。

 薄気味悪いホールを歩き続けていると、奥に薄い青色に光る物体が見えてくる。それは翔吾を手招きしているようで、自然と物体がある方向へ足が向いてしまった。

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