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囚人食  作者: いもたると


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6/7

 無力感に苛まれながら彼のことを見ていた私は、おかげで、これはやってはいけない、ということを学習することとなった。

 父には口答えしてはいけない。

 大人しく、従順でなくてはいけない。

 学校の成績も良く、父から好かれる自分でなければならない。


 兄は反面教師として、私に家庭内処世術を身に付けさせた。

 そのおかげで私は父に殴られることはそれほど多くはなく幼少期を過ごすことができた。

 とはいえ、今から見ればそれは十分に児童虐待であったのだけれど。


 ただ、そんなことはそれほど重要な問題ではない。

 肝心なのは、兄によってこの世のタブーとペナルティを散々学習させられてきた私は、彼のように巨人に立ち向かう無謀さを発揮することが出来なくなってしまった、ということなのだ。


 私は籠の中の鳥になってしまった。

 それは母が父と離婚して、巨人がいなくなった後にも続いた。

 もう自由に羽を伸ばしてもいいはずなのに、鳥は籠から出られなかった。


 多少、話を兄に戻すと、家の中で反乱分子であった彼は、その後、家の外の世界に安住を見出すようになった。

 彼は勉強もスポーツもたいしてできないくせして、人付き合いだけは達者である。

 この点、勉強だけは人並み優れてできたのに、人付き合いが苦手な私とは対照的だが、兄は友達も多く、成長するにつれて、家の中にいる時間が少なくなっていった。

 家の中で父を怒らせるだけ怒らせて、自分はプイと外に出ていってしまうから、徐々に私は彼のことを自分勝手な奴だと思うようになった。


 この人は父に似ているのだ。

 そう思うようになった。

 自分勝手で怒りっぽくて、暴力的な父。

 その血を色濃く引いているのが兄だ、と思っていた。


 母は男たちの犠牲になっている、そう強く感じた。

 だからこそ、私は母の味方でなければならない。

 母を助けなくてはならない。

 そういった信念が醸成されていった。

 それはやがて、自分に課された制約へと膨らんでいく。


 両親が離婚して、家の中に父がいなくなってからも、兄の無責任さは相変わらずだった。

 生来の人付き合いの良さ。

 そこそこに尖った性格。

 後先考えることの出来ない、想像力の欠如。


 それに複雑な家庭環境を加えていいものなのかどうか、私にはわからない。

 それは環境というより、本人の資質だと思うからだ。


 少しだけやさぐれた色を帯びていた兄は、地元の中学に入ると、悪い仲間たちと付き合うようになった。

 お決まりのパターン。

 まるで絵に描いたようなお決まりなパターンで、彼は少しだけ不良っぽくなり、少しだけ不良っぽいことをするようになった。


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