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囚人食  作者: いもたると


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2/8


 ここのところずっと食べている。

 それなのに、私の脳内にはちっとも幸せホルモンは生成されない。

 気分も精神も安定しない。

 なぜ栄養にならないのだろう?

 このモデルたちは、仕事終わりでクタクタに疲れてしまっているから、もうエネルギーが残っていないのではないか?


 私は、不健康にガリガリに痩せたモデルの姿を思い浮かべた。

 そうだよな。

 あんな体で健康なはずはない。

 私はただ機械的に、そのモデルたちを口に入れ、咀嚼し、緑茶で喉に流し込んだ。


 これは作業である。

 私がこの世に生を受けて三十と五年、一日に三回ずつ続けてきた、苦痛な作業。

 嫌でもやってくる、義務的労働クギョウ


 それは私に、牢獄にいる囚人に出される食事を思わせる。

 牢屋ここにいる限り、一日3食は保証され、雨を凌ぐ屋根もある。

 だが、自由はない。

 食事メニューを選ぶことはできない。

 その窮屈な部分から目を背けるために、心を無にして、作業を続ける。


 これはおいしいのだろうか?

 料理というものは、おいしいものなのだろうか?

 私にはわからない。

 その間、この人は私の向かいに座って、同じものを食べる。

 それなりにおいしそうに、誇らしげに、まるで犬のように。


 この人、つまり、私の母だ。

 彼女はテレビ番組の料理コーナーを長年担当している料理家である。

 美人ではないが、親しみやすい風貌と気さくな人柄。


 明るく元気な、情に厚い下町のおっかさんのイメージで、視聴者の心を掴んでいる。

 主婦層から一定数の信者ファンを獲得していて、彼女のSNSにはそれなりの数のフォロワーが付いている。


 若くして結婚したが、夫の家庭内暴力に苦しんだ末、離婚。

 その後、趣味の料理の腕を活かして料理家の道へ進み、女手一つで二人の子供を育て上げた。


 ちなみに二人というのは、もちろん私と、五つ上の兄。

 兄は、母の後を継ぐ形で料理家の道に進んでいて、そのこともあって、世間からは賢母の象徴のように思われている。


 不幸な結婚生活にもめげず、子供たちを育て上げた、シングルマザーの鏡。

 だが世間の人たちは、私のことを知らない。

 ウィキペディアにも、兄のことは書いてあるが、私のことは書いていない。

 世間的には、私はいないことになっている。


 その母が、自分の子供たちを食べていた。

 彼女が生み出した、彼女のために働いてくれる、かわいい料理モデルたち。

 娘の目の前で繰り広げられる、親による子の捕食シーン。


 それはまるで曲芸のようにも見える。

 食べるというより、飲み込むといったほうが適当だ。

 私は唾液の分泌が少ないせいか、食べるのに時間がかかるタイプだ。

 口の中でよく噛んでからでないと飲み込めないし、多くの場合、水分の手助けを必要とする。

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