表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/9

第8話 『二つの記録者 ― 終焉の選択 ―』


 光の奔流が静まり、世界は再び息を吹き返していた。

 凍てついていた街は融け、流れる水音が生を取り戻す。

 だが、剛の胸の奥には重い痛みが残っていた。


 カグが消えたあと、残されたのは“空白”――

 まるで、何か大切な記憶を失ったような感覚。


 そんな剛に、コウジロウが静かに声をかけた。

「主……目覚めた力、“炎氷の印”は均衡そのもの。

 しかし、世界の根はまだ揺らいでいます。」


「どういうことだ?」


「均衡は保たれた。だが、“終焉の鍵”が動き始めたのです。」


 その言葉と同時に、空が鳴った。

 赤と青の光が交わる雲の裂け目から、一人の影が降り立つ。

 白銀の衣をまとい、瞳は淡く輝く二色――赤と蒼。


> 「ようやく見つけたわね……“均衡の記録者”。」




「……フィーネ?」


 剛は息を呑んだ。

 そこに立つ彼女は、以前出会った“氷の女”とは違っていた。

 その存在は二つの光を内包し、まるで“別の彼女”のようだった。


「私はもう一人のフィーネ、“創造記録者”。

 炎と氷、始まりと終わり……その全てを記す者。」


 その瞬間、彼女の背後に広がる光景が変わる。

 空が裂け、巨大な記録の書が現れた。

 そこに刻まれたのは、世界の誕生と滅びの連鎖――。


「この世界は、元々“記録”で出来ていた。

 感情も、記憶も、生命さえも。

 そして、その記録を維持するために“炎と氷”という二つの意思が作られたの。」


「じゃあ……俺たちは、そのために……?」


「そう。あなたは“炎の記録者”。

 そして私は“氷の記録者”。

 私たちは何度もこの世界を作り直してきた――“終わり”を迎えるたびに。」


 剛の胸が締めつけられる。

「……そんなことのために、あの街の人々まで……?」


 フィーネは目を伏せた。

「彼らも記録の一部。けれど、あなたが“覚醒”したことで、流れが変わった。

 この世界は今、初めて“記録の外”へ動こうとしている。」


 空が軋む音がした。

 光と闇の裂け目から、巨大な影がゆっくりと姿を現す。

 それは形を持たない“虚無”――記録を喰らう存在ヴォイド


 コウジロウが低く唸る。

「来ましたか……記録喰い《ヴォイド》。主、覚悟を!」


 剛は炎氷の印を握りしめる。

「この世界が記録で出来ているなら……俺が書き換える!」


 フィーネが一瞬、驚いたように目を見開く。

「書き換える……? そんなことをすれば、あなた自身が消える!」


「構わない。もし俺が“記録の中の存在”でも、

 “記録を超えて生きたい”と願った、この心は本物だ!」


 次の瞬間、剛の身体が光に包まれる。

 炎と氷が混じり合い、彼の背中に二枚の光翼が現れた。

 コウジロウがその足元に寄り添い、静かに頷く。


「行きましょう、我主。

 今度こそ、終焉を“始まり”に変えるために。」


 ヴォイドの咆哮が響き、空が裂ける。

 剛は一歩踏み出し、光の翼を広げた。


 世界の記録が震え、書き換えられていく。

 そして、フィーネは涙を浮かべながら囁いた。


> 「ならば――あなたの記録を、わたしが見届けましょう。」




 炎と氷、創造と終焉。

 二人の記録者が交わる瞬間、世界は再び白に染まった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ