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第7話 『記録の鍵 ― 炎の咆哮 ―』



 ——あの花は、冷たいのに、どこか温かかった。

 手のひらの中で淡く光る氷の花が、剛を導くように震えている。

 コウジロウは静かに言った。


「主、その花は“記録の鍵”。

 それを持つ者だけが、凍結の真実へと辿り着けます。

 ただし……その先は、戻れぬ場所です。」


「もう……戻る場所なんて、ないさ。」

 剛は微笑んだ。

 凍りついた街の中心——“記録層の最深部”へと歩みを進める。


 そこには、崩れかけた巨大な円形の広場があった。

 床には複雑な紋様が刻まれ、中央には空に伸びる氷の柱。

 まるで“世界の記録”そのものが封じられているかのようだった。


「ここが……凍結のコアか。」


 剛が花を掲げると、氷の柱が淡く光り出した。

 氷が砕け、そこから一人の青年の影が姿を現す。


「……誰だ?」


 青年は炎を纏っていた。

 紅い瞳、そして剛とよく似た顔。


「ようやく来たか、“もう一人の俺”——」


 剛は息を呑む。

「……俺、だと?」


「俺の名は“カグ”——お前の記録から生まれた、炎の残響だ。」


 カグの声は静かだが、どこか哀しみに満ちていた。

「お前が世界を救おうとしたその瞬間、炎は暴走し、氷がそれを封じた。

 俺はその“暴走の記憶”として、この地に残された。」


「じゃあ……この凍った世界は、俺が作ったってことか……?」

「いや、作ったのは“均衡”。お前の中の炎と、もう一つの氷が互いを封じた結果だ。」


 その時、広場全体が揺れる。

 氷と炎の紋様が交錯し、足元から赤と青の光が走った。

 コウジロウが吠える。


「主、危険です! 記録が崩壊を始めています!」


「カグ! この世界を元に戻す方法はないのか!」


 カグはゆっくりと首を振る。

「戻す方法は一つ。

 “どちらか”を消すことだ。」


「どちらか……?」


「炎か、氷か。

 どちらかが消えれば、世界は再び動き出す。

 だが、選んだ瞬間、お前の存在もまた、変わってしまうだろう。」


 剛の胸の中で、赤い灯が激しく脈打つ。

 思考を掻き乱すような熱。

 “選べ”という声が、頭の奥で響いた。


「……俺は、もう何も失いたくない!」


 叫びと同時に、剛の身体から炎が溢れ出す。

 それは怒りでも絶望でもなく——“願い”だった。


 コウジロウが目を見開く。

「主、炎が……変質している!」


 紅炎は黄金色へと変わり、氷と共鳴を始める。

 凍てついた床が融け、そこから新たな光の花が咲いた。


「これが……俺の答えだ。」


 剛は右手を掲げ、炎と氷を融合させる。

 轟音と共に、広場全体が光に包まれた。

 カグの姿が揺らぎ、消えゆく中で微笑む。


> 「……それでいい。お前はようやく、“均衡の記録者”になったんだな。」




 光が収まった時、剛は静かに立っていた。

 氷も炎も消え、ただ穏やかな風が頬を撫でる。

 その手には、二色に輝く新たな紋章——**炎氷のえんぴょうのしるし**が刻まれていた。


 コウジロウがゆっくりと近づく。

「主……おめでとうございます。

 “炎と氷の均衡”が、ついに一つとなったのです。」


 剛は静かに頷いた。

 けれど、胸の奥では小さなざわめきが消えない。

 ——フィーネの言葉が、今も耳に残っている。


> 『次に会う時、あなたが選ぶのです。

焼くか、凍らせるか。救うか、終わらせるか——』




 均衡は得た。だが、それは新たな扉の始まりだった。






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