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第3話 『氷花(ひょうか)の少女』



「……あなたが、炎の人?」


その声は、雪のように透きとおっていた。

彼女の髪は白銀に輝き、まつ毛には凍った雫が揺れている。

まるで“雪そのもの”が人の形を取ったようだった。


「俺が……炎の人?」

意味がわからず、言葉が詰まる。


彼女は静かに頷き、抱えていた花束を胸に寄せた。

花弁はすべて氷でできており、息をするたびに淡く光を放っている。


「あなたの中に、暖かい光が見えるの」


僕は反射的に胸に手を当てた。

……確かに、心臓の奥が熱い。

まるで何かが、目を覚まそうとしているような。


「この街を凍らせたのは、私のせい」

彼女はそう言って、微笑んだ。

その笑顔はどこか痛々しく、儚い。


氷核ひょうかくを守るように命じられた。

 けれど……凍らせたくなんて、なかった」


「命じられた? 誰に?」

僕の問いに、少女は小さく首を振る。


「名前は……思い出せないの。

 でも、“あの声”が私の中で囁くの。

 ——凍らせろ、世界を閉ざせ、と」


その瞬間、

足元の氷がきしみ、赤い光が地面を走った。


「主、危険です!」

コウジロウが飛び出し、僕の前に立つ。

その背から淡い光が溢れ、結界のように広がった。


だが、少女の目が悲しげに揺れる。

「止めて……私、もう抑えられない……!」


空気が凍りつく音がした。

一瞬で視界が白く染まり、吹雪の中から無数の氷の槍が生まれる。


「……コウジロウ!!」

僕は思わず叫び、手を伸ばした。


その時——胸の奥で何かが爆ぜた。


掌に、紅い炎の紋章が浮かび上がる。

氷の風が吹き荒れる中、炎がひとすじ、指先に灯った。


「主! それが……炎の力です!」


「どうすればいいんだ!?」


「迷うな、感じるのです! 炎は主の想いに応える!」


少女の涙が一粒、空中で凍った。

その雫に触れるように、僕は手を伸ばす。


——燃えろ。


紅い光が弾け、氷の世界にひとすじの炎が走った。

風が唸り、凍った街が軋む。

氷花の少女は、その炎を見つめながら、静かに微笑んだ。


「……やっと、あたたかい」


彼女の体が、氷の粒になって舞い散っていく。

その中から、一輪の“氷の花”が落ちた。


手のひらにそれを受け取った瞬間、

頭の奥で、再び“声”が囁いた。


> 『……炎の継承者よ。次は、北の塔へ——』




僕は息を整え、コウジロウを見た。

「どうやら……旅はまだ、始まったばかりらしいな」


「はい、我主。

 この凍てついた世界には、まだ多くの声が眠っております」


そして僕たちは、氷の街を後にした。

夜空には赤と青の光が交わり、まるで“炎と氷の契約”を描くように揺れていた。





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