第2話 『氷の街と赤い灯』
——光が、ゆっくりと消えていく。
気づけば、僕は雪のような白に包まれた街の中央に立っていた。
見渡す限り、すべてが凍りついている。
車も、建物も、人も——動くことなく、氷の彫刻のように静止していた。
「……ここが、俺の世界なのか?」
声に反応するように、冷たい風が頬を撫でた。
その風すらも、すぐに凍りついて落ちる。
隣を歩くコウジロウが、ゆっくりと辺りを見回す。
「この街は、時の流れが止められておる。
凍結の中心地——“氷核”の影響だ」
「氷核?」
「世界を凍らせた根源。主がそれを溶かさねば、再び時は動かぬ」
僕は息を呑んだ。
そんな大層なものを、自分がどうにかできるはずがない。
でも——胸の奥で、何かが微かに燃えている。
「……どうすればいい?」
コウジロウは一歩前に出て、凍りついた街灯を見上げた。
その灯の中に、赤い光が微かに瞬いている。
「見えるか、主よ。あれが“炎の残滓”だ」
確かに、そこだけが赤く揺らめいていた。
氷の中に閉じ込められた炎——。
手を伸ばした瞬間、
頭の中に“声”が響いた。
> 『──たすけて』
耳ではなく、直接脳に届くような感覚だった。
あまりに突然で、思わず後ずさる。
> 『……たすけて、だれか……』
震えるような、か細い少女の声。
その声は、凍りついた街の奥から聞こえてくる。
「コウジロウ、今の……聞こえたか?」
「……いいえ、我には何も」
パグの瞳が、不安げに細められた。
「主にだけ聞こえた“声”ならば、それは炎の導き。
凍てつく世界が、主を試しておるのかもしれぬ」
「試す……?」
再び、声が響いた。
> 『……来ないで……そこにいたら、凍る……!』
次の瞬間、地面に走る亀裂。
氷が砕け、白銀の街の中心から、青白い霧が噴き出した。
その中に——
一人の少女が立っていた。
髪は雪のように白く、瞳は薄い青。
その手には、凍りついた花束を抱えている。
> 「あなたが……炎の人?」
彼女の問いに、言葉を失った。
その瞳の奥には、確かに“人ではない何か”が潜んでいた。




