落ちぶれた人間
「まだいるわ、あの子……」
「ほら、見ちゃいけませんよ。早くいきましょう。」
道端に、女とも男ともつかない、くすんだ青髪のみすぼらしい子供が座り込んでいた。
その子供は物乞いをするでも眠るでもなく、ただ虚ろな目を開けて空気を見つめている。
「…おい。」
男が、立ったまま子供に声をかけた。
驚いた様子を見せた子供はどこかへ逃げ出すのかと思いきや、ただ頭を抱えて蹲る。
どうしようもないと悟った男は、やれやれといってそのまま立ち去った。
…
その子供は、ある日突然現れてからは、来る日も来る日も、全く同じ場所に居座っている。
仮に野良猫だったならば愛でられていたのかもしれないが、話も通じない小汚い子供とあっては、見ていて気分の悪いものである。
飯はどこで食っているのか、親はどうしたのかなど、何もかもが謎である。
ただ、邪魔であることは確かだった。
「…おい、そこのお前。いい加減どいてくれ。うちの売り上げが落ちて困ってんだ。」
男は、この子供の"持ち場"のすぐ近くで露天商をしている者だ。
この子供が居座るようになってからというもの、多くの人間はその通りを避けるようになっていった。
露天商の男は寡黙で我慢強い男だったが、さすがにしびれを切らしていた。
だが、男が何と言おうとも、その子供は前と同じように頭を抱えて蹲るのみ。
男は舌打ちだけを残して、店へと戻っていった。
男は渋々、次の日から他の通りへと露店を移した。
…
今日はいつもより、人の往来が多い。
国の重役を決める、選挙の日だからである。
この日は決選投票の日だった。
国民は全員一斉に役所へと押しかけ、二人の候補者のいずれかを選別する。
道は限りなく混雑し……普段は人々が避けているこの通りも、たくさんの人々で溢れかえる。
そしてこの日にも、相変わらず子供は居座っていた。
もともとこの子供の存在を知っていた者は冷ややかな視線や言葉を浴びせ、知らなかった者は、それを見て状況を理解し、忌避感を露にする。
それでも、その子供はじっと座っているのみであった。
…
…
…
…
選挙の次の日。
みすぼらしい子供の姿は、忽然と消えていた。
…
そしてさらに二週間ほど経過し、選挙の結果が出る。
金髪の候補者が当選し、青髪の候補者が敗戦した。
…その後、子供が目撃されたときには、今までのぼろぼろの布切れではなく、代わりに小奇麗な服と煌びやかな装飾に身を纏っていたそうだ。
まあまあありきたりなやつです。