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灯火少女シリーズ

灯火たちは星の底で。

作者: たーたん

「だいすき!」


そう言うだけで、パパと「パパたち」は笑った。

だっこして、ほっぺたをくっつけてくれて、


「ああ。いい子だ」


と、頭をなでてくれた。みんなわたしの近くに来てくれる。

それだけでうれしい。胸がぽかぽかする。

だからなんどだって、言うよ。


だいすきって。


* * *


少女は光源だ。この光なき世界において、彼女らの光は必要不可欠だ。

とりわけ、手を握ると、塗り潰された漆黒の暗闇が淡い光で包まれる。

まるで、白いインクが黒い羊皮紙に滲ませるように。

この光がないと生きてはいけない。闇に堕ちてしまうと、どこまでも沈んで行ってしまう。前も後も認識できなくなる。

自分の存在も曖昧となる時、孤独という名の死を迎えるのだ。


光の喪失は、すなわち消滅を意味する。絶えず、灯し続けなくてはならない。


* * *


暗い街は、わたしのような女の子がいっぱいいる。

今日もパパと手をつないで、いっしょにおさんぽ。

前はあまり見えないけど、なんども歩いている道だから、すこしの光だけで歩いていける。


「今日はどこにいくの?」


パパは笑顔でわたしの頭をなでてくれる。うれしいな。心がぽかぽかする。


* * *


なぜ少女が光を放つのか。なぜ暗闇だけが支配しているのか。

我々は大地の奥深くに身を潜め、隠れているのだ。決して見つかってはならない。

しかし、闇の中で生活する為には、光源は必要だった。我々は元来、光を生む者。照らす者として生を賜っている。前者はそれを解決するもの。後者については未だ不明だ。


突如として、急速な陰りがこの星を覆い始めた。光を失った大地や、国が拡大していくと、我々を利用する者たちが現れた。

浅ましい奴らは、我々の力を奪い、道具として利用した。終わる世界になお、奴らが生命体の頂点であると主張し、君臨しようとする。武力を持たない我々は、奴らの圧倒的な攻撃性に耐えうる術を持たない。


ゆえに、我々は地の深くへ身を隠した。

力を抑え、身代わりとして、少女へ光を受け渡している。


少女は器だ。

手を離せば闇に紛れられる。そうすることで見つからずにすむのだ。


* * *


「そろそろ交換だな」

「ああ。今回は長くは持たなかった」

「感情はよくできている」

「感情など不要だ」


パパたちが、私たちと手をつなぎながらおしゃべりしてる。

目のまえで眠っている女の子は、少しずつ光がなくなってきてて、パパたちが悲しんでいるようにみえた。だから、


「だいすき!」


そう言ってパパの手をぎゅっとにぎった。頭をなでてくれた。うれしいな。


* * *


「この子は駄目だ」


男は光を失いかけている光源を抱き、訴えかける。


「交換しなければお前は闇の中に放り込まれるだけ。そこでお前が光を放ってみろ。たちまちやつらが我々を捕らえに来るぞ」

「それでもいい。俺はもう疲れた。こんな闇の中で、何かを犠牲にしてまで生きていたくはない。この子の替えなんて居ない。この子が居なくなるなら、その時は俺も消える。闇の中でこの子と生きていく」


飄々とした男は、もはや光を発しない何かを抱きかかえ、奥の闇へと消えていく。まるで大きな口の中に飲み込まれるように、上下から闇に包まれていった。


最近は、そうして若い同士たちが消えていくことが多い。せっかくの素体を還さず、心中するかのように去っていく。その先に何があるというのか。


今は耐え、この星が完全に闇に覆われ誰もが光を失った時。その時こそ、我々がこの星に君臨し、唯一の命であると証明できるというのに。


* * *


「だいすき」


そういえばパパは振り向いてくれるから。


「だいすきっ」


あれ?

やさしい笑顔で、私を抱きしめてくれるのに。


「パパっ!だいすき!」


どうして、振り向いてくれないの? 大好きだよって、なでてくれないの?


「だいすき!だいすき……だいすきっ」


遠くにいってしまう。やだ。やだ!

だからなんどだって言うよ。パパがふり向く魔法のおまじない。

心がぽかぽかする、あったかいことば。

なんで、どうして。どうしてこっちを見てくれないの。いやだ、やだよ。


「だい……すき――」


* * *


後ろから声が聞こえる。交換の限度を終えた残骸だというのに。残った力を振り絞るように光を放っている。何かを喋り、私に訴えかけてきている。

新しい光源の前に立つ。額に手を当てると、私の体の一部が光に向かって流れるように失われていく。発光する器は、虚ろな眼差しで見つめてくる。

光を与えるたび、何かを失っているようだ。いつしか私の感情も、この闇と一緒に、何もない暗黒の海へと堕ちていってしまうのだろうか。


光を与えたはずの光源が崩れる。


……ああそうか。


私自身ももう、何も残っていないのだ。

私は使ったはずだ。最後の感情を、あの子の体へ。

そうして笑ってくれたじゃないか。


それが何よりも眩しかったはずなのに。


* * *


目の前でパパが泣いてる。

少しずつ暗くなってきて、まっ黒な闇がはやく食べさせろってパパに近づいてる。


「だ……き……!」


あぶないよ。はやく逃げて。でももう声が出てこない。出たとしても、もう私のおまじないはパパにはもう聞こえない。伝えたいけど伝えられない。


――わたしが生まれたとき、パパはこういった。


「我々は暗闇に染まってしまった。この闇の中に逃げた時点で、我々はもう、戻れなくなっていたんだ。君は希望だ。我々が失ってしまった、感情という名の光だ。君達は器なんかじゃない。我々を導く、灯火だ」


* * *


パパの目から、光の粒が零れ落ちる。

私は少女に抱きしめられていた。目の前で、力を与えられなかった少女も私に寄り添うように体を預けている。

パパがくれたんだ。私が与えた。

意味なんてわからないけど、パパの全てがわたしの中に流れてくる。


私は、例え大勢の仲間が近くに居たとしても、闇の中では孤独だった。無限に広がる終わりのない闇が耐えられなかった。微かでもいい、光が欲しかった。

そんな都合のいい理由で、我々は作り出したんだ。

とてもじゃないが、この冷たく、寂しい、虚無の中でなんて生きてはいけない。

我々の感情を紛らわせる、都合のいい道具が欲しかった。


二人の影をそっと包み込む。残された私の力を全て二人に分け与える。

最初からこうすればよかった。我々はすでに終わっているのだ。


我々を迫害する者が居るように。我々もまた、迫害できる何かを欲した。強者から弱者へ。弱者から、より弱者へ。

この考えに至った時点で、終わりは見えていた。


せめて、この二人だけでも、この闇を照らし続けてほしい。

わがままかもしれない。この先は、終わることがない夜の星だとしても、どうか照らしてほしい。新しい光を、進むべき希望の道筋を。


* * *


私の目にはパパの光が宿ってる。

彼らが見ていた孤独、逃避、崩壊。体の中へ流れてくる。彼らは寂しかった。満たす弱いモノが欲しかった。

いつしか、それすら忘れ、ただ、闇雲に徘徊していただけだった。


でも、私は受け取ったよ。

パパたちの想いも悲しみ。寂しさと、ほんの少しの希望もね。

そして、手をつないだ先にいる、もう一人の女の子が持つ小さな灯火も。

女の子は虚ろ気な顔だったけど、私を見て微笑んでいる。


「だいすき」

「うん、私も大好きだよ」


私たちは歩き出す。

パパの体が大きな光を放って、私たちをあっという間に追い越していく。


裸足で感じる草と土の柔らかさ。

地面が泣いているように、潤いで満ちていた。

思わず駆け出した。女の子も転びそうになりながら、でも、嬉しそうに付いてきてくれる。


パパの方を振り返ると、もう居なくなってしまっていたけど。

パパが示してくれた光は、空気を反射し、貫いて、どこまでも伸びていく。


ここは大地の奥深くでも、闇の街なんかでもなかった。

気づいてた? パパ。

ここは、私たちの大好きな、星の真ん中だったんだよ――


まばたきをする間に、その光はそっと消えてしまったけど。ぎゅっと手を握ると、暖かな光で私を照らしてくれる。胸がぽかぽかしてくる。


果てしなく続く闇の先が、どんなに暗く澱んでいたとしても。

きっと大丈夫。私は独りじゃない。


私たちは星の底から抜け出してみせる。そして、新しい光を見つけに行くんだ。


「だいすき」って魔法の言葉。


ほら、聞いたら――あなたも、胸がぽかぽかしてきたでしょ?

だからなんどだって、言うよ。


私たちが光れば、星も、あなたも笑ってくれるから。


あなたに灯った、だいすきな灯火で、私たちを照らしていてね。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。


灯火少女シリーズとして、

同じ世界線ですが、別のお話があります。

よろしければそちらもご覧いただけると幸いです!


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短編 純文学 一話完結 灯火シリーズ 終末 幻想 少女 切ない 闇
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