第8話「2人の旅路 ~忘れられない声、君の笑顔~」
ギルドに入ると、受付でソラリスに話しかける。
「すみません……依頼の報告をしたいんですけど……」
経矢の言葉にソラリスは驚く。
「あら、早かったのね。……ってあら? そこの可愛い子は?」
ソラリスがイリーナを見て首をかしげる。
「あ、彼女は……」
経矢が説明しようとした時だ。
「あたしはイリーナ! キョウヤの相棒です!」
そう言ってイリーナは腰に手を当てて、胸を張る。
戸惑う経矢だったが、ソラリスは特に気にした様子もない様子だった。
「じゃあイリーナちゃんね? 冒険者登録はお済みかしら? もしまだなら、こちらで手続きをするわよ?」
イリーナは、ソラリスから紙を受け取るとサラサラとペンを動かして項目を埋めていく。
その様子に少し感心したような表情を浮かべるソラリス。
「この辺りであなたぐらいの歳の子が、文字の読み書きが得意なのは珍しいわね。親が教育熱心なのかしら?」
イリーナは、「えへへ……」と照れ笑いをして答える。
「はい! ママがたくさん教えてくれました!」
元気いっぱいに答える彼女を見て微笑むと、ソラリスは手続きを続ける。そして……。
「よしっと、これで登録は完了よ」
そう言ってイリーナにギルドカードを手渡すのだった……。
「やったー!! ありがとう、お姉さん!」
イリーナは嬉しそうに飛び跳ねながら、カードを眺めている。
「イ、イリーナ?」
戸惑う経矢にイリーナは満面の笑みで答える。
「だって冒険者って、なんか嬉しいんだもん!」
経矢はそんなイリーナを見て笑みを零し、ソラリスにお礼を伝えた。
ギルドを出た2人は、町の小さなレストランへと足を運んだ。
そこで食事をしながら、これからのことを話し合う。
「イリーナ、改めて聞くけど本当に俺の旅についてくるのか?」
経矢の言葉にイリーナは力強く頷く。
「もちろん! パパがね、キョウヤを探しなさいって。それから、キョウヤの旅が終わったら、2人で戻って来てまた3人で暮らそうって」
彼女の言葉を聞いて、経矢はスミスの優しい笑顔を思い浮かべる。
「スミスさん……。ありがとう……。必ず、イリーナを無事に帰します」
イリーナは、そんな経矢の横顔を見てつぶやく。
「キョウヤ、ごめんね……。助けてくれたのに……。あの時、キョウヤのこと怖がっちゃって……」
彼女の方を向くと、申し訳なさそうに下を向いており、その表情は曇っていた。
経矢は優しく微笑んで彼女の頭に手をのせる。
「いいんだ、気にしないでくれよ。俺の方も怖い思いさせてごめんな」
イリーナはしばらく黙っていたがやがて顔を上げ、安心したような笑みを浮かべて経矢に言う。
「うん……。ありがとう! ……ねぇ! ところでこのパンふかふかで美味しいね」
イリーナはテーブルに置いてあるパンをパクッと口に含む。
「ああ、そうだな」
そんな彼女の天真爛漫な様子に、経矢も微笑んだ。
それから1週間ほど、宿に泊まりながらギルドの簡単な依頼をこなした2人。
ゴールドもそれなりに溜まり、次の町へと向かう準備ができた。
「この街に来たら、またいつでも顔を見せに来てね! 新しい依頼を用意して待ってるわ」
笑顔で送り出してくれたソラリスに礼を言い、2人は新天地へと向かうことにするのだった。
町を出たところで、経矢が振り返り空を見上げる。
どこまでも青く広がる空には雲一つなく、太陽の光が降り注いでいたのだった……。
「ん~、気持ちいい!」
町を出たところでイリーナが大きく伸びをした。経矢も空を見上げてつぶやく。
「ああ……。いい天気だな」
2人はしばらく空を眺めた後、目的地に向かって歩き出すのだった……。
(この空の下なら、俺の次の使命はなんなのか……。どこかに答えがあるかもしれない――そんな気がした)
目指すはアルセィーマ地方へと向かう船が出る、港町。
経矢はポーチから地図を取り出して広げる。
「確か、この辺りだよな……」
経矢が地図を確認していると、イリーナがのぞき込んできた。
「ねえねぇキョウヤ! このまま真っ直ぐ行けば着くの?」
目を輝かせて聞いてくる彼女に、経矢は笑顔で答える。
「ああ、そのはずだ」
2人はそのまま街道を進んでいき、しばらくすると大きな門が見えてきた。どうやら目的の港町に到着したようだ。
門をくぐり町中へと入ると、そこは多くの人で賑わっており、様々なお店が建ち並んでいた。
「うわぁ~! 見てよキョウヤ! あの建物、すごく大きい!」
そんなイリーナのはしゃぎっぷりに、経矢は苦笑する。
(まあ、ずっと牧場で暮らしてきたんだし無理もないか……)
イリーナは経矢の服の裾を引っ張りながら、気になるお店を指さして言う。
「ねぇねぇ! あそこの店に入ってみようよ!」
2人はまず近くの雑貨屋に入った。店内は広く清潔で、様々な商品が並んでいる。
そんな中で、イリーナが一つの商品を手に取った。
「これ可愛い~!」
彼女が手に取ったのはひよこのぬいぐるみだった。
ふっと思わず吹き出してしまう経矢。
「な、なによぅ!」
と頬を膨らませるイリーナに経矢は謝る。
「ごめんごめん。小さい子供みたいにはしゃぐから、つい……」
イリーナは頬を赤らめると「もうっ!」と言ってそっぽを向いてしまう。
(イリーナといると沈んだ気持ちが明るくなるな……。危険だと思ったけど、旅についてきてくれてよかったかもしれない)
経矢がそんなことを思いながら、そのぬいぐるみを手に取る。
「……こういうの、俺も昔誰かに買ってもらった気がする……」
経矢はそう呟きながら、手に取ったぬいぐるみを眺める。
……と、同時に彼のとある記憶が蘇る。
『経矢、これ欲しかったんでしょ? 買ってあげるね』
『わぁ! ありがとう、お姉ちゃん!』
まだ幼ない自分と大好きだった姉のやり取りだ。
そして……。
『ねぇ、経矢。星が綺麗だね……。ごめんね、お姉ちゃん重くて……』
『何言ってんの? 姉ちゃん軽すぎだよ。町に着いたらきっと誰かがたくさん食べさせてくれるからね……』
『誰か! 姉が死にそうなんです! 医者を! 食べ物を!! お願いします!! 姉を助けてください!!』
『経矢……ごめんね……。お姉ちゃん……もう……』
「……ョウヤ……キョウヤ? キョウヤ、どうかしたの?」
イリーナの心配そうに呼ぶ声で我に返った経矢は、慌てて首を横に振る。
思わず涙が出そうになり、経矢は必死にそれを堪える。
「な、なんでもないよ! 」
「ほんとに?」
そんな彼に首を傾げながらも、心配そうな表情を浮かべるイリーナ。
経矢は姉との記憶を思い出し、悲しい気持ちになると同時に、今自分と一緒にいるイリーナにはずっと笑っていてほしいと強く感じた。
「イリーナ、これ欲しいんだよな。買ってあげるよ」
経矢の言葉にイリーナは嬉しそうに笑う。
「ほんと!? いいの? あ、ありがとう!」
会計を済ませたぬいぐるみをイリーナに手渡すと、彼女は満面の笑みでそれを受け取り胸に抱く。
「えへへ……ずっと大切にするね!」
経矢はそんな彼女を見て微笑んだ。
この笑顔だけは守り抜いてみせると、彼は誓うのだった。
港に着くと海が見えて来た。イリーナは声をひと際大きくして叫ぶ。
「ねぇキョウヤ! あれが本物の海なんだよね!? 大きいね! すごいよ!」
(そっか、イリーナは海を見るのは初めてなんだ……)
目を輝かせてはしゃぐイリーナ。
「牧場の近くにも川や湖があったけど、海はなかったから!」
そんなイリーナの様子を見て、経矢の心に暖かいものが広がっていく。
「ああ……綺麗だな」
と呟き、経矢も海を眺めたのだった……。
その後、受付の人に話を聞くと船は明日の昼に出航予定らしい。それを聞いて2人は宿をとることにした。
港町には宿がたくさんあり、その中でも比較的綺麗な部屋を2部屋とることが出来た。
「わぁ~! すごい広いね!」
イリーナは部屋の中をぐるぐると歩き回る。
「はは、イリーナって本当に子供みたいだな」
「む~、あたし子供じゃないもん!」
経矢の言葉に頬を膨らませるイリーナ。
「はは、ごめんごめん。じゃあ俺は一旦自分の部屋に行くけど、夕飯は何か外で食べようか?」
経矢の言葉にイリーナは笑顔になって返事をする。
「ほんと!? やった~!!」
2人は夕食を楽しみにしながら、それぞれの部屋へと入っていくのだった……。
1時間後。イリーナはキョウヤの部屋をノックする。返事はなかったが、部屋は開いているようだった。
「もう、キョウヤったら不用心なんだから……」
イリーナが部屋に入ると、シャワー室からシャワーの音が聞こえる。経矢はどうやら部屋のシャワーを浴びているらしい。
(そっか、キョウヤも疲れてるよね……)
そんな経矢を気遣いながらイリーナは、彼の部屋のソファに腰掛けて待つことにした。
「……キョウヤって、時々遠くを見るような目をするんだよね。笑ってるのに、泣きそうに見える時があるっていうか……」
雑貨屋でのできごとを思い返し、イリーナは心配そうに1人つぶやく。
「ふ~さっぱりした」
しばらくしてシャワー室から出てきた経矢は、髪を拭きながら部屋へ戻ってきた。
「あ! やっと出てきた!」
経矢の声を聞いたイリーナが振り返ると、そこには裸の経矢が立っていた。
「きゃああ!! なな、なんてカッコウしてるのよ!?」
イリーナは思わず叫んで、顔を両手で覆う。しかし経矢はそんな様子も気にせずに話す。
「ん? ご、ごめん。まさかイリーナが来てると思わなくて」
そんな経矢に呆れながらも、イリーナは彼に言う。
「もう……早く服着てよね! それから部屋に鍵が掛かってなかったよ? キョウヤは不用心すぎるんだから!」
イリーナの言葉に経矢は頭をかく。
「あははは、気をつけるよ……。部屋に鍵を掛けなかったのはうっかりしてたな。ちょっと待っててくれ」
経矢の部屋から出たイリーナは顔を赤くして、自分の頬を手で扇ぐ。
「……キョウヤったら、ちょっとドキッとしちゃったじゃん……」
程なくして着替えを終えた経矢が出てきた。
「よし、じゃあご飯食べに行こう」
「うん! 行こっ!!」
イリーナは恥ずかしさを隠すために、いつもよりさらに元気よく答える。
2人は宿を出て、町を歩いて行くのだった……。
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