表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/43

第6話「少女の旅立ち ~ジャイヤンの街へ~」

 家に戻ったイリーナは、静かにスミスの看病をしていた。

 町の医者によれば、右脚の傷は深く、失血は酷かったものの、感染症にはかかっておらず命に別状はないとのことだった。

 イリーナが戻って間もなく、スミスはゆっくりと目を開けた。

「……こ、ここは……。イ、イリー……?」

「パパ……!」

 スミスが体を起こそうとした瞬間、イリーナはその胸に飛び込んだ。

「おいおい……どうしたんだい?」

「……よかった……!」

 涙が頬を伝い、スミスの胸元に落ちる。スミスはそんなイリーナの頭を優しく撫でた。

「心配かけてすまなかったね……でも、もう大丈夫だよ」

「うん……」


 2人はお互いに、昨晩の出来事を語り合った。

 スミスは、燃え上がる牧場でオオカミに襲われたこと。そして経矢に救われたことを。

 イリーナは、誘拐されたこと、クアンに乱暴されかけたこと、そして経矢に助けられたことを。

「……そうだ、パパへのプレゼント……!」

 イリーナは慌てて立ち上がり、経矢から預かっていた包みと酒瓶を持ってくる。

「はい、パパ。大変な一日になっちゃったけど……改めてお誕生日おめでとう! あたしとキョウヤから!」

「……ありがとう、イリー。……パパは幸せ者だな……キョウヤにも、お礼を言わないとな……」

 2人は顔を見合わせ、微笑んだ。


 ——だが。

「……キョウヤ、遅いね……」

 イリーナはふと、窓の外に視線を移す。

 そして思い出す。

 最後に彼と交わした、あの言葉を。

『イリーナ、親切にしてくれてありがとうな……。スミスさんにも、お礼を言っといてくれ』

 ……まるで、別れの挨拶のように。

 彼のあの、どこか寂しげな笑顔を思い出し——イリーナは勢いよく立ち上がる。

「まさか……キョウヤ……戻らないつもりなんじゃ……!?」

「なんだって……!? そんな……あいつはなぜ……!?」

 スミスの顔にも動揺の色が走る。


「……探してくる!」

「ダメだ!! 危険すぎる!」

 慌ててイリーナの腕を掴むスミス。

「でも、キョウヤが……!」

「イリー……。あいつの強さは見ただろう? こんな夜でも、一人で生き抜く術を持っている。……でも、お前は違う。今出れば、何があるかわからん。夜の森はオオカミだっている……。あいつは、お前が無事でいることを願ってるはずだ……」

「……うぅ……」

 イリーナは唇を噛み、涙をこらえて頷く。


 夜が明けても、経矢は戻らなかった。

「……あいつは、自分の力が原因で……俺たちの傍にいちゃいけないって、思ってるのかもしれないな……」

 スミスの言葉に、イリーナは何も言えずにうつむく。

「……あたし、キョウヤを……。ううん、なんでもない……。きっと、きっと大丈夫だよね……」

 だがその瞳は、どこまでも不安に揺れていた。


(……キョウヤに……会いたい……)

(助けてくれたのに……。あたし、怖がって……何も……)

(ちゃんと、お礼を言いたい……!)

 ——そう強く願うようになったイリーナを見て、数日後。

 スミスはある決断を下した。


「イリー。キョウヤを、探しに行きなさい」

「……え?」

「お前は、あの子に会いたいんだろう? 俺もだ。もう一度、感謝を伝えたい。……ただ、無理はするなよ」

「でも……パパはまだ……」

 うつむくイリーナの頭を優しく撫でてやるスミス。


「パパのことは心配するな。幸いここの町人たちは、みんな助け合って生きてるからな……。牧場の火事だって、みんなが消してくれたんだ」

 その言葉を裏付けるように、玄関のノックが鳴る。

 開けると、そこには近所の人々が立っていた。

「牧場とスミスさんのことは任せな?」

 隣人のグレンが大きな手でスミスの肩を叩く。

「ほらイリーナちゃん。道中これ食べていきな?」

 近所のおばさんは焼きたてのパンをイリーナに差し出す。

 ——その優しさに、イリーナは涙をこぼしながら頭を下げる。

「みんな……ありがとう……。パパのことお願いします」


「……さて。行く前に、お前に託すものがある」

 スミスはイリーナに肩を貸してほしいと告げ、地下室へと向かう。

 古びたケースを開くと、そこには磨き抜かれた銃と、謎の金属製の円筒が収められていた。

「……こ、これって……!?」

「……パパが昔、大切な人から託されたものだ。お前なら、きっと使いこなせる。……何があっても、生きて戻ってくるんだぞ」

 その言葉に、イリーナは力強く頷いた。


 イリーナは、経矢がこの町やポケーションの町で情報を集めていたことから、大きい都市へと向かった可能性が高いと判断した。

 そして、そこへと向かう予定の町人夫婦の馬車に同行させてもらうことになったのだった。

「キョウヤ、待っててね」



 一方の経矢は2日ほど歩き続け、その後オオカミの群れから馬車の御者を助けたお礼にと馬車に乗せてもらい、ワシアミーゴ州最大の都市ジャイヤンにたどり着いていた。

「本当にタダでいいんですか?」

「もちろん! 君がいなければ今ごろはオオカミ共の腹の中だったよ。これぐらい安いもんさ」

「ありがとうございます! またどこかで!」

 馬車を見送った経矢は、ジャイヤンの街並みを眺める。

「ここがジャイヤンか……。やっぱり人が多いな……」


 街を歩く人々の数は、コーダやポケーションの町とは比べ物にならないほど多く、建物や道も整備されているためとても栄えている印象だ。

 しかしそんな街にもギャングがはびこっているようで、町のいたるところに手配書が貼られている。

(まずは情報と金を集めないとな……。まずは冒険者ギルドか酒場に行ってみるか……。これだけ大きい町ならきっとあるよな……)

 しばらく歩いていると、「冒険者ギルド」と書かれた大きな建物が見つかった。


「ここか……」

 中へ入ると、そこにはたくさんの冒険者がいる。皆、クエストボードを眺めたり、仲間と集まって情報交換をしたりしている。

「ハァ~イ♪ ここに来るのは初めてでしょ? 冒険者登録はもうどこかの冒険者ギルドでお済みかしら?」

 受付の女性が経矢に声を掛ける。彼女は、金髪の綺麗な女性だった。

「え、えっと以前してたんですけど、手帳も印も失くしちゃって……」

 経矢は咄嗟にそう答えた。

「あら……それは大変だったわね! じゃあ、まずは改めて登録からしましょうか?」

 女性は優しく微笑むと、経矢を受付のカウンターまで案内する。そして彼女は、経矢に冒険者登録用紙を渡す。


 彼女の指示通りに書き終えると、すぐに冒険者手帳と印を受け取ることができた。

「はい、これであなたも冒険者よ。これから頑張ってね! さっそく何か受注してみる?」

「ありがとうございます。じゃあ、早速何か受けてみようと思います」

(情報を聞いて回りたいところだけど、今夜の宿代くらいは稼いでおかないとな……)

 経矢は、女性からいろいろと情報を聞き出し、まずは簡単な薬草採取のクエストを受注したのだった……。



「さてと……」

 2時間後。経矢は近くの森にいた。

「これで全部か?」

 経矢の目の前には大きな袋があり、その中にはたくさんの薬草が入っている。

(まさかこんなに早く終わるなんて思わなかったな)

 経矢は、女性から聞いた薬草の群生地に向かい、手当たり次第に採取していたのだ。

(それにしてもここは静かでいいな……。……少し休むか)

 経矢は近くの切り株に腰を下ろして一息つく。

(……復讐を忘れて生きる……イリーナとスミスさんと一緒なら、それが出来ると思った……。でも違ったんだ……)

 経矢は空を見上げる。

(……俺は、復讐を捨てられない。あの時の姉さんの顔が、今も頭から離れない。憎い相手は……)


「ふぅ……ん……?」

 ふと、経矢は森の奥から何か獣のうなり声のようなものが聞こえた気がした。

「まさか……オオカミか!? 」

 経矢は立ち上がり、周囲を見回す。すると奥からゆっくりと巨大なクマが姿を現した。

(グリズリーか……!? デカすぎるだろ……!)

 クマは真っすぐに経矢を見据えている。ゆっくりと後ずさりしながら距離を取る経矢。クマはなおも、彼をじっと見ている。……が、経矢の方に敵意が無いことを悟ったのか、クマはまた森の方へと歩み去って行く。

「ふぅ……。この辺りの小さい山にもあんなに大きいクマがいるのか……」

 経矢は、集めた薬草を手にギルドへと戻るのだった。



「お疲れ様♪ はい、これ報酬。薬草採取にしては、かなりの量を取ってきたみたいね?」

「そうみたいですね」

 経矢は報酬を受け取ると女性に伝える。すると女性はハッとした顔をする。

「そういえばまだ名前も教えてなかったわね? 私はソラリス・バートンよ」

「俺は……経矢です」

 経矢が答えると、ソラリスは優しく微笑む。

「キョウヤくんね! そういえば、キョウヤくんはこの町の人じゃないわよね?」

「はい。情報を集めながら旅をしていてこの街に」


 経矢がそう答えるとソラリスは微笑みながら言う。

「そう……もし何か情報を集めてるんだったら、酒場の"パラダイス"に行ってみるといいかもね。あそこはいろんな情報が入ってくるから」

 ソラリスはそう言って笑う。

「……ありがとうございます。酒場か……行ってみようと思います」

 経矢がお礼を言うと、ソラリスはまた優しく微笑んだのだった……。

「それじゃ、またいつでもいらっしゃい。困ったことがあれば私に声をかけてね?」

ここまでお読みいただきありがとうございました!

ジャイヤン

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ