第41話「それぞれの誇り、それぞれの使命」
町中を見て回った後、2人は町の北側にある港の方へとやって来ていた。
後日乗ることになるモルディオ行きの船の時間を確認しておくためだ。
出発時刻が張り出されたボードを確認する経矢とイリーナ。
停泊している船には冒険者たちのパーティーが続々と乗り込んでいく。
「あの人たちも、あたしたちみたいに旅をしてるんだよね?」
イリーナの目線の先には、大きな剣を背負った冒険者が仲間と談笑していた。
「ああ、そうみたいだな」
経矢も彼らを見ながらうなずく。
船には女性だけのパーティー、親子のような年齢層で構成されたパーティーなど、様々な人たちが乗船していた。
「それぞれ目的も終着点も異なるんだろうな。危険があることを承知で、それでも冒険者たちはそれぞれの目的のために旅をしてるんだな」
2人の目線の先で、冒険者たちが船へと乗り込んでいく。
「うん。あたしたちにもあたしたちの冒険がある。そうでしょ?」
イリーナは経矢に笑いかける。
そう。自分たちには自分たちの冒険がある。
「ははっ……ああ、そうだな!」
それがどれだけ危険なものになろうとも、イリーナと一緒なら乗り越えられる、そう思う経矢だった。
「すみません……。ちょっと通してもらってもいいでしょうか?」
後ろから申し訳なさそうに声をかけられ、経矢とイリーナが振り向くとそこには若い女性が立っていた。
どうやら船の時刻表を見たいらしい。
2人は脇によって彼女のために空ける。
「ありがとうございます!」
若い女性は丁寧に頭を下げて礼を言うと、2人の間に立って時刻表を眺める。
「まぁっ!? あと数分で出港!?」
女性はボードから離れると、後ろの方に向かって手を大きく振る。
「もうすぐ出港ですよ~! 皆さんは先に乗っちゃったみたいですし、早くしてくださ~い!」
彼女が手を振る先に視線を向ける経矢とイリーナ。
そこにはお嬢様のような衣装に身を包んだ赤毛の女性がゆっくり歩いて来る姿があった。
「そんなに慌てなくても大丈夫ですわよ。あと1分もあれば乗れるでしょうに」
慌てる女性とは反対に、赤毛のお嬢様はゆっくりとした足取りで、周りの景色を見ながら歩いている。
「そんな悠長なこと言ってる暇はないんです~!」
お嬢様のゆったりとした雰囲気に、若い女性は困ったように叫ぶ。
彼女の叫びにクスッと笑うと、赤毛のお嬢様はやっと船に向かって歩き出すのだった。
「あんなどこかの国のお姫様みたいな人も旅をしてるんだね」
イリーナは不思議そうに、そして彼女たちのやり取りを少しおかしそうに見ていた。
「ああ、そうみたいだな。冒険者ってのは立場や身分関係なく、自由に旅がしたい人たちの集まりなのかもな」
経矢は軽く笑いながらそう言った。
少しして船が出港する。
先ほどの2人も含めた多くの冒険者たち、旅をする民たちを乗せた船が動き出した。
と、経矢は船の上の1人の女性が目に留まった。
転んだのか頬に傷を負った少年と、なだめようとするも痛みから少年が泣き止まずにおろおろする若い母親。
そして彼らに歩み寄り、少年に優しそうに声を掛ける杖を持った女性。
優しく微笑み、手をかざしている。
白い光が少年の頬を包み込み、わずか数秒後には少年の頬の傷が消えていた。
治癒魔法を使ったのだろう。
笑顔で飛び跳ねる少年と、頭を下げる少年の母親。
杖を持った女性は優しい笑顔で2人に手を振る。
「治癒魔法かな? やっぱり魔法って便利だよねぇ」
イリーナが経矢の視線を追っていたのか、そう呟いた。
「あ、ああ……だな……」
経矢は杖を持った女性、恐らくは僧侶職の女性から目を離せなくなっていた。
あれくらいの魔法による治癒ならば、この世界では日常茶飯事だ。
だからもちろん、経矢が驚いたのは魔法による治癒ではなかった。
「ね、姉さん……?」
「え?」
経矢が零した言葉に驚き、イリーナは彼の顔を覗き込む。
彼の視線は、杖を持った女性に向けられていた。
(似てる……いや……もちろん別人だ……だけど……似ている……姉さんに……)
500年前に亡くなった経矢の姉に、その女性はとても似ていた。
遠目ではあるものの、彼女の笑顔は経矢にとって忘れられない姉の笑顔と重なって見えたのだった。
「イリーナ……。今日はここに泊まって、明日俺の故郷に行こう」
姉に似た女性を見たことで、かつて短い間ながら姉と暮らしていた故郷に行きたいという思いが強くなったのだ。
彼の言葉から全てを察することができたわけではないものの、イリーナは彼の言葉にうなずいた。
そうして、2人は町の宿屋へと歩を進めるのだった。
汽笛が鳴り、波が陽光を跳ね返す。
無数の冒険がいま、この港から旅立っていく。
それぞれの誇りを抱え、それぞれの使命を果たすために——。
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