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第40話「ソニアの残響 ~花と音楽の街~」

 山とは違い、穏やかな平原が続いている。

 整備された街道に沿って進む2人。

「う~ん、いい風!」

 風に揺れる髪を抑えながら、イリーナは深呼吸をしている。

「ははっ、だな。そういえばイリーナ、そろそろ馬に乗りたくなってきたんじゃないか?」

 実家の牧場にいた頃には、毎日のように馬に乗っていたイリーナ。

 経矢と旅をするようになってからは徒歩での旅になっているため、最近は乗馬する頻度がかなり減っている。


「ふふ、こういう天気が良くて、いい風が吹いている時は特にね!」

 弾むような彼女の声。

 実のところ経矢も久しぶりに馬に乗りたいと思っていたのだ。

「今度馬屋を見つけたら、2頭くらい購入してもいいな。それと馬用の道具……鞍と蹄鉄ていてつも必要だな」


 2人はそんなことを話し合いながら、一歩ずつ前へと進んでいく。

 目的地は経矢の故郷があった場所のすぐ南東に位置する小国"ウェーラ"だ。


「なぁイリーナ。一度先にウェーラに寄ってから、俺の故郷がある場所に行ってもいいか? ウェーラには2度寄ることになるけど……。どうしても早く行ってみたいんだよ」

という経矢の提案にイリーナが賛同したため、二度手間にはなってしまうが先にウェーラに寄ることになっていたのだ。


 夜は山で過ごしていたのと同じように、2人で野営をして朝を迎える。

 そして平原を進んでいると、見回りをする衛兵だけでなく、農具を担いだ男性や子供の手を引いて歩いている男女の姿など、人の姿が増えてきた。

 町が近い、という証だ。


「あ! あの建物がそうじゃないか?」

 2人の前方に、町の入り口となる門が見えてきた。その門には"ウェーラの首都、ソフィアへようこそ!"という文字が大きく書かれている。

「うん! 早くいこ!」

 イリーナが経矢の言葉に大きくうなずくと、2人は駆け足で門へと走っていった。

 そして2人は、ソフィアに足を踏み入れたのだった。



「うわぁ~……ここがウェーラかぁ……」

 イリーナが感嘆の声を上げる。

 2人の目の前には、外壁で囲まれた国の中心地ソフィアの町並みが広がっている。

 いたるところに花壇が造られ、様々な種類の花が咲き乱れている。

 町に入ってすぐの噴水広場の近くには、楽団が集まって音楽を奏でる。


「いい音色に、いい香り……。素敵な町だね、キョウヤ!」

 イリーナは、とても楽しそうな表情で経矢に顔を向ける。

「う……うん……そう、だな」

 彼はそう返しながら周囲を見渡していた。

 目を見開き、驚きを隠せないと言った感じで。

 特におかしなところは何もなく、人々も笑顔で行き交っている。

 そんな中で、経矢だけが何か別のものを見るように、目を大きく見開いて周囲を見渡しているのだった。


「ソニア……さん……」

 どうしたのだろう、と心配そうにイリーナが経矢の顔を覗き込むと、彼は絞り出すようにそう言葉を発した。

「ソニアって……え、フィストレーネ王国の……なんで……!?」

 イリーナは目を見開いて驚きの声を上げた。

 だが経矢にはその声が聞こえていないようで、ただただ茫然と立ち尽くしているのだった。

 ——目の前に広がる懐かしい町の風景、花の香り、耳になじむ音楽に触れて……。


「キョウ……ヤ……?」

 目の前に広がるのは、かつて過ごしたあの風景。

 花の香りも、風の温度も――記憶の中と同じだった。

 そして気づけば、頬を伝う雫があった。

 経矢の涙に気付いたイリーナは彼の肩に手を置いて心配そうな表情を浮かべる。

 彼女の手でようやく我に帰った経矢は涙を拭う。


「ご、ごめん……。ここは……フィストレーネ王国にそっくりなんだ……」

 彼の言葉にイリーナは信じられない、と言ったように辺りを見回す。

 彼女が読んだ本では、フィストレーネ王国は人が少ない機械の王国であり、それは効率を求めたソニア女王が国民を国外に追放したり処断したりと、残酷な手段を使って実行したからだと書かれていたのだが、この国はそんな残虐な国家にはとてもじゃないが見えなかった。


「キョウヤの故郷……ここなの?」

 イリーナが恐る恐る尋ねると、経矢は首を横に振る。

「いや……そうじゃないけど……俺の中では故郷よりも故郷みたいなところにそっくりなんだ」

 経矢はイリーナにそう答えると、目を閉じ一度だけ大きく深呼吸をした。

 再び開いた彼の瞳に涙はもうない。


「うん……やっぱりいい町だ。行こう、イリーナ」

 イリーナには想像もつかないが、フィストレーネ王国のことを思い出しているのだろうか。その表情はとても優しかった。

 その表情を見て、イリーナは安心して微笑む。

「うん! いこ!」


 2人はあらためて町の中へと歩を進めていった。

 経矢は1つ1つに目を輝かせるように、町中を見回しながら進んでいく。

 イリーナはそんな彼を見守りつつ自分も町の景観に目を奪われていた。

 ひとしきり見て回る中で、経矢が呟いた。

「各国の目もあるし、表立って祀ってはいないんだな。けど……うん、ここはウェーラだ」

 経矢は小さな石碑に彫られた文字を読むと、何かを確信したようにうなずいた。

 そんな彼の言葉の意味が、イリーナには分からなかったが静かに聞いていた。


「キョウヤって、もしかしてソニア女王に直接会ったことがあるの?」

 イリーナからの問いに、首を縦に振る経矢。

 そして少し沈黙した後に、彼は言葉を続けていく。

「ああ……。奴隷生活から解放された俺が住んだ場所こそ、フィストレーネ王国だったんだ。ソニアさんともその時に初めて会った」

 そう言って経矢はまた辺りを見回す。

 そんな彼の穏やかな表情を見て、イリーナも安心して微笑んだ。


「……今度聞かせてね。ソニア女王のこととか、経矢の住んでたフィストレーネ王国のこととか!」

「ああ、もちろんだ」

 イリーナの申し出に、経矢は笑顔で答えた。


 過去を思い出しても、経矢の心はもう沈まなかった。

 あの頃の涙が、今は前を照らす光に変わっている。

 そう思うと、彼は自然と笑みを浮かべていた。

 そして2人は、再び歩き始めるのだった……。

ここまでお読みいただきありがとうございました!

次回もよろしくお願いします!

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