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第4話「悪夢の誕生日 ~殺しという手段~」

 天突ギャングとの事件から3日後、この日は牧場主のスミスの誕生日であった。

 経矢とイリーナはそのお祝いのために準備をしていたのだった。

「パパ! 準備できたよ!」

 イリーナの呼びかけでスミスはリビングにやって来る。テーブルには豪華な料理が並べられていた。

「おお!すごいじゃないか!」

 スミスは驚きと喜びが入り混じった表情で言う。

「へへっ、ママ直伝のレシピを再現してみたんだ! パパの好きなやつだよ!」

 イリーナは得意げに胸を張る。


「キョウヤも手伝ってくれたんだよ?ね?」

 そして経矢の方を向いてニッコリと微笑む。

「うん、まあ……」

 経矢は少し照れながら答える。それを聞いたスミスはますます嬉しそうな顔になり、イリーナのと経矢の頭を撫でた。

「そうか!2人ともありがとうな」

「へへ……」

 経矢は照れくさそうに頬をかく。

「じゃあ食べよっか!」

 2人の言葉にスミスも笑顔でうなずくと、3人でテーブルを囲む。


 その時、イリーナは大きな声で「あっ!!」

 と声を上げる。

「どうしたの?」

 経矢は不思議そうに尋ねる。イリーナは申し訳なさそうな声で答える。

「ごめん、パパ……。ポケーションの酒場のおじさんにパパへのプレゼントとお酒お願いしてたのに、今日もらってくるの忘れちゃった……」

 イリーナはしょんぼりしながら、窓の外に視線を向ける。辺りはすっかり暗くなっている。

「あたし、今から受け取りに行ってくるよ! やっぱり誕生日は今日だもん。ちゃんとお祝いしたいし」

 イリーナは勢いよく立ち上がる。しかしそんな彼女の肩に手が置かれる。

「待ちなさい、イリー」

 スミスの声はとても優しかったが、その目は真剣だった。

「……パパ?」

「もうこんな時間だ。今日は家にいなさい」

 そう言ってスミスは再びイリーナの頭を撫でるのだった。


 2人の様子を見ていた経矢だったが、立ち上がると外へと出る準備をする。

「キョウヤ、お前も今日は外に出ない方がいい。もう夜も遅いんだからな」

 しかし経矢は首を横に振る。

「でもイリーナが用意したプレゼントを受け取りに行きたいんです……」

 経矢の言葉にスミスもため息をつく。そして口を開く。

「はぁ……しかしキョウヤ、もしギャングが来たらどうするつもりなんだ?」

「その時はうまく立ち回ります。それにこの時間なら、連中はどこかで飲んだくれてるはずです」

 経矢は、胸に手を置き自信を持って答える。

「うーん……わかった。だが無茶だけはするなよ? 危ないと思ったらすぐに引き返すんだ」

 スミスの言葉に経矢は大きくうなずく。そしてイリーナに向き直る。

「じゃあ、行ってくるよ」

 経矢が言うと、イリーナも笑顔で応える。

「うん! キョウヤ、ごめんね……。ありがとう! 気をつけて行って来てね!」

 経矢は外に出ると、繋がれている馬に乗ってポケーションの町を目指した。



 馬車で荷物を引いて行くわけではないため、数十分程度でポケーションの町に到着した。

「すみません、おじさん……いますか?」

 経矢は酒場の扉を開けて呼びかけると、店の奥から店主が顔を出す。

「おっ! お前さんが来たか! イリーナが頼んでたプレゼントと酒を取りに来たんだろ? 準備できてるぜ! ちょっと待ちな!」

 店主はカウンターの下から包装されたプレゼントと、酒瓶を取り出す。経矢はそれを受け取ると、代金を支払う。

「ありがとよ! スミスのヤツ、きっと喜んでくれるぜ。……ただ、もう夜だし、オオカミ、それからギャングに気をつけて帰るんだぞ?」

 店主の言葉に、経矢は軽くうなずく。

「はい、ありがとうございます!」

 経矢は店を後にして牧場への帰路についたのだった。


(早く帰らないと……2人が心配する)

 しかしそんな経矢の思いとは裏腹に、ポケーションの町から少し離れたところでギャングたちの集団に遭遇する。

「おっ! 牧場の坊主じゃねぇか」

 リーダー格の男が大声で叫ぶと、他の男達も経矢を取り囲むように近づいてくる。

(くそっ! なんだってこんなところに……!?)

 経矢は内心舌打ちをし、イリーナのプレゼントと酒瓶が入った袋を強く握りしめる。

「ん? その手に持ってるのはなんだ?」

 リーダー格の男が、経矢の手にある袋を指差す。

(しまった……)

 経矢は慌てて袋を後ろに隠すがもう遅い。ギャングたちはニヤニヤ笑いながら近寄ってくる。


「おい! その袋をよこしな!」

 男の一人が経矢に向かって手を伸ばす。しかし経矢はその手を払い除ける。

「やめろっ!」

 経矢の鋭い視線にギャングたちが一瞬怯む。しかしリーダー格の男が大声で叫ぶと、他の男たちもニヤニヤ笑いながら経矢に詰め寄って来た。

「へっ!威勢のいいガキだぜ……」

「いいからよこしな? 痛い目にあいたくねぇだろ?」

 2人の言葉に経矢は袋を強く握りしめる。

「頼む……これだけはどうしても渡せないんだ……」

 経矢は必死に頼むが、ギャングたちは聞く耳を持たない。

「聞いたぜ? 今日はあの牧場のオッサンの誕生日なんだってな。けどよ、残念ながらあのオッサンと嬢ちゃんはもうこの世にはいねぇかもしれねぇぜ? なんでも牧場の方で、騒ぎがあったとか……」

 ギャングの一人がそう告げると、他の男たちも笑い声をあげる。


 経矢は心臓が止まるような思いだった。

「まさか……そんな……!」

 経矢は血の気が引いていくのを感じる。そしてイリーナとスミスの顔を思い出す。

「ど、どういう……意味だ……!?」

 経矢は震える声で尋ねる。ギャングたちはニヤリと笑うと、口を開く。

「へへっ! どうせお前も無事じゃ済まねぇし、教えてやるよ。俺たちは、この辺りのスレッドボックスのリーダーと持ちつ持たれつの関係でな」

 その言葉に経矢の表情はさらに曇っていく。

 それが面白いのか、別の男が言った。

「俺たちがあれだけ騒ぎを起こしてるのに、警備組織が全然助けに来ないのはおかしいと思わなかったのか? 俺たちはな、ハナからグルなんだよ」

 経矢は膝から崩れ落ちそうになる。

(助けなんて最初から来なかったんだ——)

「スレッドボックスのクアンさんは、あの土地の所有権を欲している。そして俺たちはそこで、お互い利益を生むビジネスを始める。あのオッサンと家畜は邪魔なんだよ」

 男たちは愕然とする経矢をゲラゲラと笑い飛ばす。

「ま、あの嬢ちゃんの方は、もしかしたらクアンさんが高く買ってくれるかもしれねぇがな、ギャハハハ!」

 その言葉に経矢はもう止まっている余裕はなかった。

「くそっ……!! イリーナ! スミスさん! 牧場に急がないとっ!」

 経矢は怒りに震えながら、イリーナのプレゼントと酒瓶の入った袋を大事に抱えて馬を全速力で走らせる。

「おいおい逃がすと思うのか! それに今さら行ったところで、もう遅いぜ!」

 経矢の後をギャングたちが追いかける。

「イリーナ! スミスさん! 無事でいてくれ……!」

 経矢は必死で馬を走らせたのだった。

 その時だった。追ってきたギャングたちが一斉に銃を構える。

「死ねよ、ガキ」

 その言葉と共に男たちの銃から火花が吹く。

 耳をつんざく破裂音が、夜の闇に響き渡るのだった。



 一方、経矢が家を出た少しあとのスミス宅では……。

「おい、スミスさん! あの炎、あんたの牧場があるあたりじゃないか!?」

 血相を変えた町人が、スミスの家に駆けこんできた。

「何!?」

 スミスは驚き、すぐにイリーナと共に牧場がある方角を見ると、そこには明るい光が輝いていた。

「……まずい!」

 スミスの顔が青ざめる。

「パパ! どうしたの?」

 イリーナが不安げに尋ねると、スミスは大きく深呼吸をする。そして意を決したように口を開く。

「……イリー、牧場が……燃えている」

「え!?」

 イリーナの顔が青ざめる。


「パパ! 早く行かなきゃ!」

 イリーナは駆け出そうとするが、スミスに止められる。

「……いや、駄目だ。俺1人で行く。危ないからイリーは家にいなさい」

 そう言って、スミスは拳銃を2丁手に取り、背中にライフルを背負うと玄関に向かった。

「でも! パパ1人じゃ危険だよ!」

 イリーナも自分の銃を持って後を追う。

「いや、駄目だ。お前まで危険な目に合わせたらいけない……だからここにいてくれ……。キョウヤが戻ったら、一緒に隠れているんだ、いいね?」

 スミスの真剣な眼差しに、イリーナは言葉を詰まらせる。

「わかった……」

 やがてイリーナが小さく返事をすると、スミスは優しく彼女の頭を撫でる。

「必ず帰って来るから……。いい子にしてなさい」

 そしてスミスは夜の町を駆けだして行くのだった。



 スミスが牧場についた時には、すでに炎は牧場一体に燃え広がり、牛や羊が逃げ惑っている。可哀そうなことにすでに炎に焼かれてしまった家畜もいるようだった。

「くそっ! どうしてこんなことに……」

 スミスは燃え盛る牧場を見ながら唇を噛む。

 だがそれだけではなかった。生き残った家畜たちを、この機を逃さんとばかりにオオカミたちの群れが迫い回している。

「くそ! 家畜たちを守らねば……しかしこのままでは炎が……」

 そんな葛藤に苦しむスミス。

 油断した彼の背後から二頭のオオカミが飛び掛かる。間一髪で気付いたスミスだったが、完全に避けることはできず左肩を一頭のオオカミに噛まれて体制を崩してしまう。

「しまった——!!ぐあっ!!」

 さらにもう一頭のオオカミがスミスの右肩に牙を立てる。肩から血が流れる。しかし、それでもなおスミスは必死に銃を構えて発砲する。その一発は一頭のオオカミの頭に命中し絶命させたが、もう一発は外れてしまう。そして二頭目のオオカミの牙が、スミスの右脚へと突き立てられるのだった。


「うあああっ!! くそぉ! 離せぇ!」

 スミスは痛みを堪えながら銃を撃つ。しかしオオカミの激しい動きと痛みに邪魔されてどれも外れてしまい、オオカミを引き離すことができない。

地面に片膝をつきながらも引き金を引こうとするが、出血が視界を妨げる。

 その間にも炎は燃え広がり、スミスの牧場はさらに窮地へと追い込まれていく。

「くそっ……リーサ、俺もここまでか……。キョウヤ、イリーナ……」

 スミスは薄れゆく意識の中で亡き妻、そして残してゆく最愛の娘イリーナと、大切な家族の一員となったキョウヤへの想いを胸にその場に倒れ込む。

「……くそ……このままだとキョウヤもイリーも……」

 薄れゆく意識の中でもなんとか立ち上がろうとするスミス。

 最愛の娘のイリーナが怯えた顔でギャングたちに連れ去られる姿を想像し、このまま死ぬわけにはいかないと思うものの、彼の思いとは裏腹に出血により意識がだんだんと遠のいていく。

 二頭目のオオカミは止めを刺そうとスミスに迫る。


 突然銃声と共に二頭目のオオカミが倒れる。そしてそこに現れたのは……

「スミスさん!」

 経矢だった。彼は肩で息をしながら銃を構えている。

「あぁ……キョ、キョウヤか……。お前銃、銃撃てたんだな……」

 燃え盛る牧場、そして息も絶え絶えのスミスを見て経矢は状況を察した。

「その話はあとで! スミスさん! すぐ手当を!」

 経矢は急いでスミスの元へ駆け寄ると、自分の服の一部を破り、肩と足の傷口を止血する。

「キョウヤ……す、すまない。……家畜たちは……」

「大丈夫です! オオカミは全部俺が殺したので……。火の手が及ぶ前に奥の小屋に移動させます」

「そうか……」

 スミスはそれを聞いて安心したように微笑むと、そのまま気を失った。



 その数分前——。

「死ねよ、ガキ」

 その言葉と共に無数の銃声が、夜の闇に響き渡る。

 キョウヤは馬を巧みに走らせてそれを躱す。

「……もう二度と、人を殺すまいと思った……」

 経矢は取り出したナイフの感触に、かつての自分の影を感じて震える。

「でも、今は……――迷ってる時間はない。スミスさんを、イリーナを守るためなら……っ!」

 その言葉と同時に、馬からギャングの1人に飛び掛かり、取り出したナイフでその喉元を掻っ切る。

 そして銃を奪い取ると、他のギャングたちを正確な一撃で射殺していく。

「な、なんだよ……お前……」

 リーダー格の男が震える声で言い終わる頃には、

「死ねよ、クズ」

 銃声が夜を裂いた。その後すぐに、夜の静けさが戻る。

 経矢は眉をひそめ、血の匂いに顔をしかめた。

「……結局、こうなるのかよ」

 彼は静かに呟いたあと、深く息を吐いた。

「でも俺は……もう逃げない。今度は……この手で守るために撃つ」


 その後、家畜たちを無事避難させた経矢は燃え盛る牧場を後にし、スミスを家に連れて帰ると、町の医者に診てもらうことにした。

「イリーナ! イリーナ!! スミスさんが……! イリーナ!!」

 町医者にスミスを任せて、何度もイリーナの名を叫ぶが返事がない。

「イリーナ、頼むから返事をしてくれ! 無事なのか!?」

 経矢は必死に叫ぶが、返事が返ってくる気配はない。家の外に飛び出した経矢は、辺りの家の人たちにイリーナのことを尋ねて回る。

 誰1人として明確な行方を知る者は居なかったが、イリーナと思われる少女の叫び声と男たちの怒鳴り声が聞こえたという。

 経矢はふぅ~と息を1つ吐くと、精神を集中させる。

 イリーナの気配、そして声を感じ取った。

「こっちか!」

 経矢は馬を走らせ、イリーナの気配のする方角へと向かうのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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