第39話「笑顔の別れ、風の始まり」
朝食ののち、出発の準備をしている経矢とイリーナ。
そんな2人をマギーとダニー、おばさんはもちろんだが村人たち総出でお見送りしてくれる。
保存食や保存飲料、回復薬など、2人の旅に役立つものをたくさんプレゼントしてくれた。
「この香草を袋の中に入れておくわ。くっさい料理を食べる時に使ってね」
おばさんがそう言って、経矢にハーブの入った小袋を手渡した。
「ありがとうございます!」
経矢はお礼を言うと、それを腰のベルトポーチにしまった。
「私からはこれを……。ユーレイドレシア内海で使える船の回数券です。……命を助けてもらったのに、こんなものですみません……」
マギーが申し訳なさそうに差し出したのは、このユーレイドレシア地方内で使用できる船の回数券だ。彼女はそう言っているが、あと10回ほどはただで乗ることができるため、旅をしている経矢たちにとってはありがたい品物だった。
「いえ、ありがたいです。こんなにいい物をありがとうございます!」
経矢はお礼を言って、マギーから回数券を受け取った。
「これでまたたくさん船に乗れるね!」
イリーナは船旅が気に入ったのか、経矢から預かった回数券を嬉しそうに掲げる。
「僕からはこれを……。本当は僕が協力してあげたいんだけど、君たちは旅を急ぐだろうし……。師匠の方がいいもの作ってくれそうだからね」
最後に、ダニーが何かの書類……手紙のようなものを経矢に手渡した。
「これは紹介状……。武器・防具2品……無料製作!? ——ほ、ほんとに! 本当にいいんですか!?」
経矢はダニーから渡された紙を見て驚きの声を上げた。
「僕の師匠は名の知れた鍛冶屋なんだ。きっと君たちの旅に役立つものを作ってくれると思う」
ダニーからそう聞いて、経矢は頭を下げた。
「ありがとうございます! この紹介状……ありがたく使わせてもらいます!」
経矢の礼の言葉を聞いて、ダニーとマギーは顔を見合わせて嬉しそうに笑った。
「師匠はモルディオの首都のシェコってとこに住んでる。有名な人だから、町の人に聞けばすぐに分かると思うよ」
「モルディオに行くには、港町から船に乗ってください。先ほどの回数券が役に立つと思います」
経矢は2人の説明を聞きながら地図を広げて、場所の確認をしていた。
すると村人の1人が経矢の地図に印を付けてくれた。親切にルートも書き込んでくれた。
「この辺りから一番近い港って言ったら、"ウェーラ"だな。あと1日とちょっとくらい歩けばすぐに着くだろうさ」
その村人の言葉に、経矢は目を見開いた。
「ウェーラ? ウェーラがあるんですか?」
経矢の言葉に、村人は驚いたように他の村人たちの方を見る。
「あるっていうか……なんていうか……。昔からある国だからなぁ」
彼らにとって、ウェーラという場所は生まれた時から当然のようにある近隣の小国だった。
いや、彼らの両親や祖父母はおろかその何代も昔の時代からウェーラという国は存在していた。
彼らにとっては経矢が何に驚いているか分からなかったのだ。
しかし経矢にとっては、とても懐かしい響きだった。
「それじゃあキョウヤさん、イリーナさん……本当にありがとうございました」
マギーが感謝の言葉を伝えながら頭を下げるのと同時に、その場にいた全員が2人に向かって頭を下げた。
「皆さん、お世話になりました!」
「たくさんいただいて、ありがとうございます!」
経矢とイリーナも皆に合わせて頭を下げるのだった。
そうして、村の入口で出発する2人に村全体で手を振る村人たちを後にして、彼らは歩き始める。
村の鐘の音が、朝の空に響いた。
経矢とイリーナは振り返らずに歩き続ける。
風が彼らの背を押すように吹き抜け、遠くで誰かの“いってらっしゃい”が聞こえた気がした。
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