第38話「光の手を取って」
「う~ん……もう、朝か……」
経矢は泊めてもらった部屋のベッドで目を覚ます。
下の階からいい匂いが漂ってくる。
おばさんたちが朝食を用意してくれてるのだろう。
ふと、イリーナが寝ていたベッドの方を見る。
彼女はすでに目を覚ましていたようで、ベッドに腰掛けて本のようなものにペンを走らせていた。
どうやら旅の日記をつけているらしい。
いつもは寝る前に書いているのだが、今回は夜遅くまで宴会だったため、今になって書いているのだろう。
「あっ! おはよ、キョウヤ!」
経矢の視線に気付いたイリーナは、ニッコリと微笑む。
窓から差し込む朝の陽ざしが彼女の明るい笑顔をさらに、明るく照らす。
「おはようイリーナ。太陽みたいな笑顔だな」
そう言って経矢も笑った。
「え~、どうしたの急に?」
イリーナは頬を染めながらおどけたように笑う。
それは朝日に照らされる彼女の笑顔を見て、つい口をついて出てしまった出てしまった言葉だが、たしかに本心でもあった。
明るく陽ざしのような彼女の存在は、最初に出会った時からこれまでずっと、かつての使命とこれからの生き方をさまよう自分を導いてくれる光のようなものだったから。
「イリーナ……本当にありがとうな」
体を起こした経矢は、急にあらたまったようにイリーナに礼を言った。
「もう、さっきからどうしたの?」
彼女は笑いながら言うが、経矢の表情は真剣そのものだった。
「イリーナがいなかったら俺……ジャスティンとの戦いで、昔の俺に戻ってた……。そうならなかったのは、イリーナがいてくれたからだ。本当に感謝してる」
「キョウヤ……」
彼の熱い言葉に、イリーナは胸を打たれたように真っすぐ彼の瞳を見る。
「ジャスティンの他に、少なくともあと2人幹部が残ってる……。それもアイツより強いヤツだ。そして連中を率いるルーベン……。……また絶対に俺を狙ってくる」
経矢もまた、イリーナを真っすぐ見つめて言葉を紡いでいく。
ジャスティンよりも強い幹部があと2人、と聞きイリーナは息を呑む。
それでも彼女はとっくの昔に覚悟を決めていた。
「ここからは……これまで以上に危険なことに巻き込まれるかもしれない……。だから。だからイリーナ……。あらためて頼む」
そこまで言うと経矢はベッドから起き上がり、イリーナの元へと歩み寄る。
イリーナは経矢の言葉の続きを待っていた。
部屋の空気が、緊張感と静寂で満たされる。
「……これからも俺と一緒に旅をしてくれ。俺の相棒として一緒に戦ってほしい。俺の旅には、イリーナが必要だ。だから……頼む」
経矢はそう言うと、イリーナに向かって右手を差し出した。
それは彼の本心からの言葉であり、決意の証でもあった。
ジャスティンとの戦いで、イリーナの本気の覚悟、本当の強さを知った経矢。
「キョウヤ……」
イリーナは、そんな経矢の手を取った。
そして力強くうなずいた。
「うん! もちろんだよ。あたしの気持ちはずっと変わらない……。あたし、もっともっと強くなるから! キョウヤ、これからもよろしくね♪」
いつものように明るい声でそう言うと、彼女は再び朝日のようなまぶしい笑顔を経矢に向けるのだった。
2人はしばらくの間お互いの手を強く握りしめ、あらためて誓いを胸に刻む。
その握った手の温もりが、朝日よりも確かに経矢の胸を照らしていた。
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