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第35話「復讐の先で ~吸血鬼ジャスティンの最期~」

 ジャスティンが視線を従徒化させた女性に戻すと、彼女はすでに彼の目の前にいた。

 いや、仰向けになっている彼の体に馬乗りになっていた。

「おいおい……そんなに待ちきれねぇのか? いけない娘だぜぇ……」

 相変わらず余裕の笑みを浮かべるが、女性に話しかけるが彼女は何も応えず……。

 曇った瞳に、わずかに“光”が戻った。

 その瞬間、彼女は人間に戻った。


「……よくも……よくも!!」

「な!?」

 先ほどまで黙っていた女性が突如叫んだ。

 ジャスティンの目に映った彼女に瞳は、人間性を取り戻していた。

 経矢もイリーナも突然のことに、呆気に取られている。

 

 胸元から取り出したナイフを、ジャスティンの喉に胸に突き立てる女性。

「お、お……い……やめ……ぐふっ……」

「この……悪魔! 化け物! ……よくもっ!!」

 もうほとんど身動きの取れないジャスティンはすでに、女性を撥ね退ける力さえ残されていなかった。


 馬乗りになり、目に涙を浮かべ何度もナイフを振るう女性。

 先ほどまで従徒として、彼女の体も心も蹂躙(じゅうりん)し、彼女自身の手で結婚したばかりの夫を刺させたジャスティン。

 正気に戻った彼女の怒りが憎しみ、悲しみがその一撃一撃に籠められているようだった。

「く……そ……が……」

 ジャスティンは自身にナイフを振るい続ける女性を見ながら、小さくつぶやく。


 女性の剣幕に一瞬、後ずさりするイリーナ。

 一方の経矢は、怒りと憎しみで戦っていた自分の姿と重ねていた。

 500年前、彼女と同じような殺し方をしたことがある相手の記憶がよみがえる。

 かつて平和に暮らしていた自分と姉は、強制的に奴隷にされた。

 目の前の女性は、自分と同じようにジャスティンという男に奴隷にされていた。

 彼女の行動は誰も責められない、と経矢は思った。


 それでも……。

 正気を失ったように、ジャスティンにナイフを突き立て続ける女性の手を、経矢が掴んだ。

「もういい……。もう大丈夫です。……もう、死んでます……」

 ジャスティンの瞳孔は開かれ、ピクリとも動かない。

 肉体を激しく焼かれ、血も多く失ったことで、再生力が大きく落ちていたジャスティンは女性のナイフによる攻撃ですでに息絶えていた。


 経矢の声で我に帰った女性の手から、ナイフが滑り落ちた。

「うぅっ……うっ……ぐすっ……」

 女性は顔を覆い、肩を震わせて嗚咽(おえつ)する。

 彼女の涙は、怒りでも復讐でもなく、奪われた“人間”の証だった。

 そんな彼女を優しく抱きしめるイリーナ。



「……もしかしてだけどイリーナ。最初に彼女に撃ち込んだ銃弾って……」

 女性の背中を擦るイリーナに、経矢は気が付いたように声を掛ける。

 彼女は、小さくうなずいてその先を続けた。

「うん。港町で吸血鬼が出たでしょ? あの時に疾病治療薬を買っておいたんだけど、治療薬入りの弾丸もお店の人に勧められたんだ。手に持って飲めない状況とか、離れた仲間を治療するために持っておいた方がいいってね」

 そう言ってコートを広げて見せるイリーナ。様々な種類の弾丸が収められている。

「彼女がまだ人間らしさを少し残してる気がして……。賭けみたいなものだったんだけど、上手くいってよかった」

 イリーナは経矢に向かって微笑むのだった。


 今回は彼女が用意していた銃弾と、それを扱う彼女の銃の腕前、何より状況に応じて銃弾を使い分けてサポートしてくれたことが大きな助けになった。

 彼女の用意していた治療薬入りの弾丸おかげで、ジャスティンによって吸血鬼になりかけていた女性を救うこともできたのだ。

「ありがとうな、イリーナ」



「ありがとうございます……」

 女性はイリーナに礼を言う。

 まだ辛い表情をしているが、次第に落ち着きを取り戻してきた。

 経矢はジャスティンと、彼の部下の吸血鬼たちの遺体を一か所に集めた。

「森は少し焼けちゃうけど……」

 取り出したナイフで重ねた遺体の周辺の地面に円を描いていく。

 一周したところで、ナイフの刃先から火が放たれて吸血鬼たちの体を焼却していった。

 焼け焦げたジャスティンの遺体を見つめる経矢。


 復讐相手の二度目の死。

 今回最後に止めを刺したのは経矢ではないが、一度殺したはずの憎い相手が目の前でまたこうして死んでいる。

 再会時の余裕からは想像もできないほど、悲惨な姿になったジャスティンに哀れみや同情は一切抱かなかった。


 だが……。

 それと同時に、爽快感や達成感のようなものも感じない。

 あるのは言い表しようのない空虚な感覚。

 それは、かつて復讐を遂げた時は感じたことのないものだった。

 心が何も感じないことが、何より怖かった。

 復讐相手を倒したというのに、怒りも、涙も、もう出てこない。


「復讐……か……」

 経矢は誰にも聞こえない声で、静かに呟くのだった。

 

 東の空が朱に染まり始め、焦げた匂いを優しく包み込んだ。

 それは、夜明けと共に訪れる激闘の終わりを告げているようだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました!

次回もよろしくお願いします!

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