第34話「赦せぬ者、救えぬ者」
「キョウヤ!」
「イリーナ!」
2人は互いに駆け寄ると、しっかりと手をつないで互いの存在を確かめる。
「よくやったな! イリーナのお陰だ!」
「ううん。キョウヤがあれだけ1人の人数を相手にできたからだよ」
2人は互いを称えながらも、戦いの緊張から解放されて笑みを浮かべるのだった。
だがそんな2人の近くで、黒焦げになり立ち上がることができない状態のジャスティンが、地を這って逃げようと動き出す。
その様子はすでに生きているのがやっと、といった感じだ。
次第に夜も明ける。
そうなれば、この状態のジャスティンでは日光の直撃に耐えきれないかもしれない。
それがわかっているからか、必死に動こうとしているのだろう。
経矢はイリーナとの話を一度終え、ジャスティンの元へと歩を進める。
「て……め……ぇ……」
喉が焼かれたのか、声は掠れてほぼうめき声のようになっている。
そんな彼を冷たく見下ろす経矢。
「お前たちが俺に聞きたかったように、俺もお前に聞きたいことがある」
経矢は息も絶え絶えのジャスティンに銃を突きつける。
「……ルーベンの目的はなんだ? なぜ、アクアのレリクスを狙う?」
経矢の問いに、ジャスティンは笑みを浮かべようとするがそれはただの表情筋の痙攣になる。
「お前に……教えるわけ……ねぇだろ……。クソガキ……」
焼け焦げた皮膚の下で、かつての復讐相手の男の声が震えていた。
2人の視線が交差する。
冷たい視線のまま、ゆっくりと引き金を引こうとする経矢。
その時だった。
ゆらりゆらり、と2人に近付く影があった。
それはジャスティンが従徒化して連れてきていた、デブロンに住んでいた若い女性だった。
「へ、へへっ……。まだ俺の運は尽きちゃいなかったようだなぁ」
呻くような声で女性を見て笑うジャスティン。
「よぉ、ガキ。俺と……取引しねぇか? その女はまだ……完全に吸血鬼化しちゃいねぇ……。俺の能力で治してやる……から、この場は俺を見逃せ」
ジャスティンのその言葉に経矢は、女性の方に視線を向ける。
「あ? あ……あぁ……」
女性は言葉にならない声を漏らしながら、ふらふらとした足取りで経矢とジャスティン近付いていく。
「悪い話じゃねぇはずだ……。それともなんだ? お前は……まだ助かるかもしれないか弱い女性を……見殺しにするのか?」
彼女のその目は焦点が合っていなかった。
先ほどまで戦っていた吸血鬼たちとは、やはり様子が違う。
彼の言うことは本当なのかもしれない。
「そんな酷いことしねぇよなぁ? それじゃあ人殺しと変わりゃしねぇ……」
自分の助かる方法が見つかり、経矢とイリーナが女性を見捨てるわけがないと確信しているからか、ジャスティンは幾分か余裕が戻ってきたようだ。
(殺して復讐することは簡単だ。だけど、それで救われるのは誰だ? ……みんなはもう、戻らないのに)
その焼け焦げながらも面影のあるニヤケ面を見ているだけで、姉や死んでいった奴隷たち、仲間たちの顔が浮かび、今すぐにでも引き金を引きたい衝動に駆られる経矢。
だが、それを抑えて彼を睨む。
「キョウヤ……」
心配そうに経矢に駆け寄るイリーナ。
復讐に染まりつつある経矢の瞳が、その背中が怖かった。
けれど、それだけの思いを経矢はしてきたのだとイリーナは伸ばしかけた手を、引っ込めた。
「わかってるよ、これは罠かもしれない……」
視線をジャスティンに向けたまま、経矢はイリーナに言葉を返した。
近寄って来た女性は、ジャスティンを虚ろな目で見下ろす。
「へへ、今元に戻してやるぜ……。あのガキどもが俺との取引をするってんなら、な」
無言の女性に、ジャスティンは掠れた声で語り掛ける。
その声にはどこか含みが感じられる。
(へへ……ガキどもが取引に応じたら、俺はコイツの血を吸って少しばかり力を回復……。降参するフリをし、コウモリ化からの高速移動で逃げ出してやる……。俺はまだ、死なねぇ!)
ジャスティンは心の中で、そうほくそ笑むのだった……。
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