第32話「闇に浮かぶ五つの光」
(しまった……まだ話の途中だった……)
と感じた経矢だったが、暗闇の中で動く5つの光が見えた。
それぞれ黄色だったり、青色だったり、赤色だったり……。
夜の闇の中にあって不自然な色の光を放っている。
はっきりとではないものの、どういう動きをしているのかも予測できた経矢。
「んんっ? なんだぁ? あいつら光ってねぇか?」
ジャスティンは、自身の部下である吸血鬼たちが様々な色に発光していることに首を傾げた。
イリーナが使用したのは、ペイント弾の1つ。
弾の中に入っている染料は暗闇の中で発光し、付着したものの位置を伝える。
元々は牧場でのオオカミの夜襲に備えて、イリーナの父スミスが用意していたものだった。
旅に出る前に、もしかしたら冒険中の狩りなんかにも役立つかもとイリーナが持ってきていたのだ。
「なるほど、そういうことか! ありがとなイリーナ!」
経矢はそれだけ言い残すと、凄まじいスピードで吸血鬼たちに接近していく。
先ほどと違い、周囲は夜の闇に包まれている。
しかしこれまた先ほどまでとは違い、相手の位置が経矢には丸わかりだ。
経矢はその光を、希望の光ではなく“討つべき印”として見据えた。
(ふふ、バカな子……。ヤケになって気配だけで攻撃してきたのね)
自分に向かって来た経矢を見て、吸血鬼の1人は口元に笑みを浮かべる。
「いいわ、美味しく吸ってあげる!」
真正面から突っ込んできた経矢を抱擁し、噛みつこうとする彼女だったがその一撃は軽々と躱される。
「な!? 躱したというの!?」
驚く彼女の胸に、経矢の手にした炎を宿した刃が突き立てられる。
火花が散り、影が燃える。
「がっ! な、なぜ……!?」
肉体を焼かれながら叫ぶ吸血鬼。
「お前たちの位置はイリーナのおかげで手に取るようにわかる。場所さえわかれば……」
経矢は視線を青色に光っている次のターゲットに向ける。
(放出——! 全速転身——。火力増強——)
少し離れた位置で炎に包まれる同族に、唖然としている別の吸血鬼だったが……。
「え——」
瞬きを終えた瞬間、目の前に経矢の姿があり、一瞬で胸に炎の刃を突き立てられた。
「う、そ……」
彼女は痛みを感じる間もなく、炎の熱によって焼かれていく。
赤い光が、彼女たちの輪郭を縁取る。
それは彼女たちが、かつて人として生きていた証を照らす最後の光だった。
発光する標的が、夜空の星のように浮かぶ。
「あの……ガキ……め……」
3人目、4人目と秒単位で炎に包まれていくのを見て、ジャスティンはかつて経矢と戦った時の記憶がよみがえっていた。
召喚したスケルトン、ゴースト、調教したアンデッド合わせて数十体が、目の前で一瞬にして壊滅させられた。
今まさに目の前で同じことが起きていた。
赤く燃える光の中で、彼の頬がわずかに引きつった。
それは恐怖——彼自身も気付かぬうちに遠い昔に失っていた感情だった。
「ありえねぇ! ありえねぇ! ……クソ!」
経矢に向けて魔法を放とうとするジャスティンだが、彼の近くがイリーナの灯明弾によって照らされる。
ハンドガンから連射で放たれた灯明弾は、ジャスティンを取り囲むように照らす。
「ちっ! うっとうしい光だなぁ! あぁっ!?」
苛立ったように、暗転の魔法で光を消していくジャスティン。
(パパの教えが、あたしの中で光になってる——)
イリーナの引き金を引く指に、迷いは無いのだった。
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