第29話「紅蓮に燃ゆる夜会、秘密のパーティーへの誘い」
吸血鬼たちは距離を詰めてきている。
経矢はイリーナの方を向いてうなずいた。
「さっきの予定どおり、イリーナは灯りを切らさないようにしながら麻痺弾で援護してくれ。少しでも相手の動きを封じられれば十分だ。俺はナイフに炎の魔法を宿して攻撃してみる!」
「わかった! 炎が効きそうならあたしも射撃で援護するから! 頑張ってね!」
経矢はイリーナの言葉に再度うなずくと、ナイフを構える。
そして深呼吸をしてから吸血鬼たちに向かって跳躍する!
灯明に照らされた夜の山に動く、1つの影を経矢は捉える。
「ふふ、一番乗りね」
女性吸血鬼の1人が、経矢を見て白い牙をむき出しにしながら笑う。
経矢は彼女と視線を合わさずに、一瞬で背後に回るとナイフを振るう。
その刃に、彼の魔力から作り出された炎の魔法が宿る。
「せりゃああっ!」
その一撃が女性吸血鬼の体を裂くと同時に、彼女の体は炎に包まれる。
「!? ぎ……ぎゃああっ!!」
やはり、と経矢は思った。
普通の吸血鬼よりも明らかに効きは悪いが、間違いなく聖属性に次いで弱いとされる炎属性の攻撃は彼女の体にダメージを与えている。
炎は攻撃した後も炎上し続けることで、継続ダメージを与えることができる。
再生力を持つ吸血鬼にはうってつけだろう。
女性吸血鬼はその場で熱さと痛みに暴れまわるが、やがて力を失い地面に倒れ伏す。
灯りに照らされた他の吸血鬼が一瞬たじろぐのが、経矢にはわかった。
吸血鬼になったことで恐怖のような感情は無くなったか、残っていても極端に薄まっているであろう彼女たちだが、炎で焼かれる仲間の姿は生存本能に訴えるものがあったようだ。
「イリーナ! こいつら、炎が通じるみたいだ!」
経矢は離れたイリーナに叫ぶと、再び女性吸血鬼たちへ肉薄する。
彼の言葉を受けたイリーナはライフルに持ち帰ると、太い木の枝に銃を固定する。
「わかった! 狙撃で麻痺させるから!」
イリーナは、吸血鬼たちが経矢に対して数で勝負しようとしていたのを見て、目を光らせた。
大きな銃声と共に発射された麻痺弾が、吸血鬼の一体を撃ち抜き、痺れさせる。
経矢はすぐさま炎を宿したナイフでその吸血鬼を切りつけ、炎上させる。
背後から経矢に迫ろうとする別の吸血鬼に、またしても正確に麻痺弾を命中させるイリーナ。
銃声はイリーナからの合図でもある。
次の敵を麻痺させたから攻撃お願い、という合図だ。
その連携でもって、すでに半数近くの女性吸血鬼を討ち取った経矢とイリーナ。
「くっ……何なのよ、こいつら!」
1人の吸血鬼が、経矢の炎を宿したナイフで切りつけられて炎上する、と同時に彼の放った回し蹴りで仲間の吸血鬼たちのところへと弾き飛ばされる。
炎に包まれた吸血鬼は、他の吸血鬼たちにとって自分たちすら焼き殺しかねない危険なものになっていた。
「こ、こっちに飛んでくるわ!」
1人の吸血鬼が叫ぶと、残った吸血鬼たちは炎から逃げるように後ろへと下がっていく。
「おいおいおいおい……。俺の可愛い子ちゃんたちにひでぇことしてくれるなぁ」
次々とやられていく女性吸血鬼たちを見て、ジャスティンは腕を組みながらため息をつく。
それは大切な女性が傷付けられることに怒りを覚えているわけではなく、自分の所有物を傷つけられたことに対する怒りだった。
「……それ相応の報いは受けてもらおうかぁ!」
ジャスティンはそう言い終えると、手をパンパンッと叩く。
すると混乱状態に陥っていた残りの女性吸血鬼たちは、正気を取り戻したかのように彼の元へと戻り、跪く。
まるで飼いならされたペットのように扱うジャスティンに、経矢たちは不快感を覚える。
「いいねぇ! 従順で可愛いぜぇ」
そう言って手を広げながら笑うジャスティンを見て、女性吸血鬼たちは頬を赤く染めて潤んだ瞳で彼を見つめる。
「紳士淑女の節度ある夜会はお終いだ。ここからは秘密のパーティー……血と肉を求めあう激しい夜を過ごそうぜぇ」
ジャスティンはそう高らかに宣言すると、胸元から短い杖を取り出す。
「大人の逢瀬に灯りなんざ野暮ってもんだ……。お互いの体温、息遣い、手触りさえ感じられりゃあ最高の夜になる!」
ジャスティンの言葉を女性吸血鬼たちは、うっとりとしたような表情で聞いている。
「おいガキども! このレディたちが"恥ずかしいから灯りを消して♡"だそうだ。へへ、興奮するだろぉ?」
経矢たちを挑発するようなジャスティン。
彼が杖を取り出して何をしようとしているのか気付いた経矢は、後方のイリーナに向かって叫ぶ。
「イリーナ、あいつは明かりを消すつもりだ!」
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