第20話「風と陽ざしに包まれて ~故郷への道程~」
「昨日と同じで山の中だけど、今のところ特に危険はなさそう」
イリーナの言葉通り周りにいる生き物といえばウサギやリスなど小型の動物ばかりである。
「油断は禁物だけどな。いつ山賊が出るか分からないし」
「そうだね。警戒は怠らないようにしないと」
そんな会話を交わしながら2人、は街道を歩き出すのだった。
しばらく歩き続けていると、前から荷馬車を引く商人たちの一団がやって来るのを見つけた。
経矢たちが道を譲ろうとしているところへ向こうから挨拶される。
「おはようございます。もしやあなたたちは、この先の峠を越えるおつもりですか?」
「ええそうですけど」
経矢はそう答えると、しばらくの間商人たちと話をする。
彼ら曰くこの先の峠で落石や土砂崩れが発生し、通行できなくなっているというのだ。
数日前の、巨大な隕石のようなものが落下した影響によるものらしい。
商人たちは諦めて引き返してきたところ、とのことだった。
「どうしよう、キョウヤ?」
商人たちの話を聞いたイリーナは、経矢に尋ねた。
彼の故郷に行く方法は他にもあるそうなのだが、一番早くたどりつく方法はその峠を越えることだと、昨日の夜に話をしていた2人。
「大丈夫だよ、イリーナ。俺は飛べないけど、跳べるだろ?」
経矢は迂回をせずに進むことを選ぶようだ。
イリーナは彼の言葉に従う。
彼女の脳裏には、ルーベンたちから逃げる際に、上空高く一気に跳び上がった経矢の姿が思い出されていた。
「そうだね! じゃあ、このまま進もっか!」
こうして2人は、迂回することなく峠を進むことにしたのだった。
「そ、そうですか? ならばどうぞお気を付けて。まだ地盤が緩んでいる可能性がありますゆえ……」
商人たちは心配そうにしつつも、それ以上は引き留めることなく2人を見送ってくれた。
「そちらもどうかお気を付けて!」
経矢は彼らに手を振りつつ別れの挨拶をすませ、イリーナと再び歩き出した。
道は徐々に傾斜がきつくなり、山の奥深くへと続いていく。
道幅も狭くなってきたのでイリーナは経矢の後ろからついていくことにした。
「イリーナ、疲れてないか? もう少し上まで登ったらお昼にしよう」
経矢は後ろを歩くイリーナにそう声をかける。
「うん! 大丈夫、もう少し頑張れるよっ」
元気のいい返事をするイリーナだったが、その表情は少し険しい。
山歩きに慣れていないこともあったが、問題は他にもあった。
本来ならある程度歩きやすく舗装されている道が、発生した土砂崩れの影響で足場が非常に悪くなっていたのだ。
「はぁ……はぁ……(体力には自信あったんだけど……。これぐらいで疲れちゃうなんて情けないなぁ……)」
息を切らしながら、心の中でつぶやくイリーナであった。
ふと前を歩く経矢が立ち止まる。
何かに気を取られたように、前を見て立ち尽くしている。
「キョウヤ? どうしたの? ……あっ……」
心配したように、彼の顔を覗き込もうと近づいたイリーナは、彼の視線の先にあるものを見て、息を呑んだ。
そこには、自分たちの遥か下に広がる美しい自然の景色や小さな町などだった。
まだ山頂ではないものの、すでにかなり高いところまで登っていたらしい。
「綺麗だね」
イリーナは無意識に呟く。
「ああ、本当に……」
彼女の言葉に、景色に視線を向けたまま静かにうなずく経矢。
眼下に広がる景色に、ただただ圧倒されていたイリーナと違って、経矢の瞳にはわずかに悲しみの色が含まれているように、イリーナには思えた。
「キョウヤ……」
どこか悲し気な様子の経矢が心配になり、声をかける。
彼女の心配そうな声に我に帰った経矢。
イリーナに笑顔を見せた後、少し開けた場所へと歩を進める。
「少し休憩するか。もうお昼近くのはずだからな」
そう呟いて近くの岩陰に腰をかけた経矢はイリーナにも座るように促すと、流通している魔具の1つである、携帯用のアイテムボックスを取り出した。
2人は並んで座ると、美しい景色を見ながら昼食の準備をする。
「さっきの商人たちの話だと、もう少し行ったところで道が2つに分かれるらしいな。1つは山頂へ続く道、もう1つが例の落石で通れない峠へと続いている道だ」
経矢は、イリーナに説明しながらサンドイッチを頬張る。
「うん、まだまだ先は長そうだね。キョウヤは疲れてない?」
イリーナは経矢を気遣いながら尋ねた。
しかし彼は首を横に振り、大丈夫だと答える。
「俺は大丈夫だよ。それよりイリーナの方が心配だな」
「あたしは大丈夫! まだ全然平気だから」
笑顔で答えるイリーナだったが、経矢はその頭をポンッポンッと優しく撫でる。
「無理しなくていいぞ。これ食べ終わったら、ここで1時間くらい昼寝でもしていこう。風と陽ざしが気持ちいいし、疲れも取れるさ」
そう言って微笑む経矢につられて笑顔になるイリーナ。
「そうだね。ありがとうキョウヤ! じゃあ遠慮なくそうさせてもらおっと」
イリーナはそう言うと、勢いよくサンドイッチを平らげるとそのまま草むらに寝ころぶ。
そんな彼女の隣で、経矢も横になった。
「ほら、どうだ? 気持ちいいだろ」
「うん! 最高だね!」
2人はしばしの間、自然の中に身を委ねる。
風の匂いや草木の揺れる音、鳥や虫たちのさえずりを聞きながら、ゆっくりとした時間が流れていく。
あまりの気持ちよさに、イリーナはすぐに睡魔に襲われてしまった。
「すぅー……すぅー……」
経矢の隣で、イリーナは小さな寝息を立て始めた。
そんな彼女の寝顔を見て微笑む経矢。
そして彼もまた、ゆっくりと目を閉じるのだった。
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