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第17話「経矢の故郷を目指して 〜2人の野営〜」

 その日の夜、経矢とイリーナは、町の道具屋で購入した地図を見ていた。

「多分この辺りに俺の故郷があったはずだ」

 経矢は地図の一点を指さしながらそう言った。

 その場所はここからそれほど遠くない。


 経矢が生きていた頃は、山で道が隔絶されていたらしいが、今は開拓が進んで通れるようになっているとのことだ。

 もう何も残っていないだろうと前置きし、経矢はイリーナに、自分の故郷があった場所によってもいいだろうかと尋ねた。


「うん、もちろん。あたしはキョウヤが行きたいならどこにだって行くよ。キョウヤの故郷があった場所ならなおさら行っておきたいし」

 彼女は二つ返事でそう言った。

 経矢の過去について知ることは、彼女自身にとっても意義のあることだと彼女は感じていた。



 翌日、2人は朝早くから出発した。

 昨夜予定を変更したとおり、経矢の故郷跡を目指すことにする。

 目的地までの道のりを確認すると、やはりそれほど険しい道ではなさそうだ。

 食料や回復薬など、準備をして街を出る2人。


「街の人の話では、この辺りに野党や山賊が出ることもあるらしいな。それにゴブリンみたいな亜人種も」

 連れ立って歩きながら経矢は、イリーナに伝える。

「景色を楽しみながら、油断せずいこうな」

 そう付け加えると、イリーナは力強くうなずいた。


 道中で出くわすほとんどが、オオカミやネズミといったありふれた生物たちだった。

 ゴブリンやトロールはおろか、山賊や野盗のような人間の敵すら姿を現さない。

 穏やかな景色が続き、ときおり2人以外の旅人や見回り中の衛兵などと遭遇するのみだった。


 歩き続けているうちに、日が暮れてくる。

 もともと数日は野宿をしながら、歩くことを覚悟していた2人。

 その日の移動は切り上げ、野営の準備を始める。


「イリーナ、このロープを抑えててくれないか?」

 イリーナに指示を出しながら、テキパキと野営の準備を進める経矢。

 くべられそうな枝を集め、火をつけていく経矢と、食材を切って準備するイリーナ。

「キョウヤはやっぱり野営なれしてるんだね。料理も手際いいし」

 そう言いながら器用にパンを薄くスライスしていくイリーナ。


「まぁね。野営は何度もしてたからな。でもイリーナもスゴいよ。その年で料理上手なんだから」

 経矢は手を止めずに答える。

「まぁね! 牧場を継ぐ予定だったから、料理とか家事全般は幼い頃からママに叩き込まれたんだよ!」

 イリーナの言葉には、幼いころの母との思い出から来る寂しさが少しにじんでいた。


「さて、シチューができるまで時間があるし、先に水浴びを済ませるか」

 経矢は替えの肌着などを手早く纏めるとイリーナに告げた。

「イリーナ、近くに小川があるからそこで水浴びしてくる。俺が先に行ってみて、安全そうならイリーナも浴びるといいよ」


 川岸に到着すると経矢は着ているものをすべて脱ぎ捨てた。

「気持ちいい……」

 冷たい水に全身を浸し息を吐く経矢。

「ふぅ……」

 そのまま天を仰ぎ深呼吸をする。

(気持ちがいいな。今日は魔物にも出くわさなかったし順調だな……)

 経矢はそのまま少しの間、冷たくて気持ちのいい水に、身を委ねるのだった。


「よし、あとはもう少し煮込むだけ! キョウヤが戻ってきたらあたしも水浴びさせてもらおうっと」

 イリーナは一人ごとをつぶやきながら鍋を混ぜている。


 ふと、以前宿に泊まった時に浴室から出てきた経矢の体を見てしまった時のことを思い出す。

 細く引き締まりつつも、しっかりとたくましい筋肉に覆われた経矢の体つきが脳裏によみがえり、思わず顔を赤らめる。


(って、何考えてるのあたし! キョウヤは相棒! キョウヤは相棒!)

 そう自分に言い聞かせて邪念を振り払うように頭をブンブン振るイリーナ。

 そして気を取り直して料理に戻るのであった。


 鍋をかき混ぜていると、焚き火の方で木の枝を折る音が聞こえてきた。

「ごめんごめん。気持ちよくて思ったより時間がかかっちやったよ」

 謝りながら戻ってきた経矢の髪は濡れたままだったが乾いていた。

「ううん。気にしないで! もうそろそろできるけど、あたしも水浴びして来るから、火の番頼むね」

 イリーナはそう言うと、着替えを持ってその場を立ち去る。

「了解。いってらっしゃい」

 経矢は手を振って送り出したあと、残った薪をくべるために屈んだ。


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