【終わりに】
以上が世間で『スケープゴート殺人事件』と呼ばれている事件を、当事者であるぼく自身の視点で書き記した記録だ。
これで冒頭に述べた〝ぼくが犯した罪〟というのを理解して頂けたと思う。己の頭脳を過信し、不要な捜査を行った結果、ぼくはかけがえのない友人と、同情すべき犯人の二人を死へと追いやった。
警察署で事情聴取を受けたぼくはそこで、自分が犯した全ての罪を自供した。真理花を強引にスキー旅行へ連れて行った事。事件が発生した際、捜査と称して殺人現場へ立ち入った事。その捜査に真理花を付き合わせたため、いち早く真相に辿り着いた彼女が口封じに殺される原因を作った事。間違った真相に辿り着き、真犯人の卯月さんを自殺に追い込んだ事……
しかし、ぼくの聴取を担当した警察官は笑いながらこう言った。
「きみの犯したって罪ってやつが、向こうだとどう扱われるかなんて知らないが、ここにはきみの罪を裁く法律なんてありはしないよ。気にするな」
そう言われても、ぼくの気が晴れる事はなかった。それ所か、更に暗雲が立ち込めた。
ぼくは罰されたかった。それでも、ぼくを罰する者や法は、この世のどこにもないのだ。
家に帰り、インターネットを用いてあの事件を調べた所、世間ではぼくが事件の元凶として認知されているらしかった。暴漢に襲われそうになった少女が起こした事件……半ば事故を、自己顕示欲の強い頭のおかしな大学生が散々引っ掻き回した結果、その大学生の友人と犯人の少女が死ぬ事となった――と。
その記事に付けられた読者のコメントには、ぼくの断罪……果ては死を求めるコメントが数多溢れていた。ぼくの功罪は大きい。何らかの方法で責任を取らなくてはならない。お金も、大した社会的地位もなく、謝罪も受け入れられないとするなら、ぼくがそれを取れる方法は……卯月さんと同じやり方しかないだろう。
真介。
入れ違いになって会う事が叶わず、何度も電話を受け取ったものの、ぼくは今回の件を恥じて、それに出る事が出来なかった。
きみは妹を死に至らしめたぼくの事を、決して許してはくれないだろう。だがそれでも、最後にもう一度だけ、きみと顔を合わせておきたかった。
――これ以上くどくど記しても仕方ない。そろそろぼくは筆を置こう。
借りたままになってしまったものの、真理花が面白いと言った『神座町のカラクリ屋敷』を、この手記を書き始める前に読み終えた。
もし叶うのであれば、向こうで彼女と感想会をするとしよう。
弓嶋魁




