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不穏な違和感

「父上と母上は明日お戻りになるのか?」



 ケビンは慌てて手帳を引っ張り出して急いで確認していた。


「はい、殿下!早ければ明日の昼頃にご帰還予定でございます。遅くても夕刻までにはお戻りになられます」



 このケビンとの関係は中々慣れないものがあった。


 こいつが第一補佐官になり来週早々には第二補佐官が新たに就く事になってはいるが、少しずつ私の執務机に未承認の束が積み上がっていた。


 幾ら私が優秀でも周りに恵まれないと支障をきたすのは致し方ない事なんだろう。



 もう少しでミッシェルが来る。

 セリーヌに婚約破棄宣言をしてから毎日執務室に顔を出しに来る。



 執務が溜まり流石の私も苛立ちが募るのを抑えきれなくなっていた。


コンコンコン


 いつもの遠慮がちなノックの音。


 遠慮がちなのはノックの音だけ。


 ミッシェルの訪問が

つい執務の邪魔だと思ってしまう。



ーー恋人なら忙しい私の執務を優先してくれても良いのではないのか?


 ミッシェルは遠慮がちに見える行動をするが図々しく居座る態度は、まるで反比例のようだとある種の疑問が頭に浮かぶ。



 だが抱いた疑問はすぐに打ち消す!



 いつしか《あのセリーヌを捨ててまでも選んだ女なのだから》と自分に言い聞かせている事にも気づいていない。



「アーノルド様、お忙しいのですか?」


 今、心の内に小さな棘が刺さった様な気がした。


(忙しいと思うなら何故毎日顔を出すのだ?)


「ごめんなさい、私どうしてもアーノルド様のお側に居たかったから・・・だから」



「分かった。だが今は本当に忙しいのだ。暫くソファーにでも座り待っていてくれ」


ミッシェルは嬉しそうに頷いてソファーに座った。



 それから私は目に入った書類から片付けていく。


 パラパラと紙をめくる音とペンを滑らせる音だけがする。



 暫くして資料の必要な案件である事が分かり、ここでいつもの癖が出てしまった。


「セリーヌ、ロレイヌ地方のここ数ヶ月の天候の資料を出してくれ」


 本当に無意識だった。



 だが途端にミッシェルの顔色が悪くなり泣いて執務室から出て行ってしまった。


 動揺するケビンに私は余計に苛立ち執務机を強く叩いてしまった。


「はぁあ」


 少し落ち着こうーー



 私は仕方なくセリーヌが使っていた隣部屋へ行き壁一面に並べられた本棚から資料を探す事にした。


 いつ見ても整然として見やすい本棚だ。


 最初に取った本は探していたものとは違っていたがビッシリと書き込みがあった。


 要約されてしまい具体性が無くなった箇所には補足が書かれ古い情報には上書きとして新しい情報が書かれている。それはそれは活きた資料本に私は目を見張った。


 私は徐に目に付いた脈略のない本を手に取り中身を見る。


 やはり書き込みが凄い。それを戻しまた違う本を・・・。


 驚きを隠せなかった。


 どの本をとっても隙が全く無いのだ。



 これ程だった?・・・

 これ程だったのか!?



 どんな努力をしてここまで作り上げたのか。


 セリーヌは入って来た情報から有益なものだけを選び出し、都度精査してやっとこの資料本に載せるに値すると判断したのだろう。



 くるりと本棚を背にして私は跪いていた。


 この圧倒的な・・・私とは明らかに違う知識量と努力の重みに頭を殴られた様にグラリとして足に力が入らなかったのだ。



 私の資質はセリーヌやペレスの支えに成り立っていたというの・・・か・・・・・・?



 私とて決して手を抜いてきた訳ではない!


 刹那、足元がガラガラと音を立て崩れていく様だった。

 真っ暗な闇が私を飲み込もうとするようで・・・

 ただ落ちてゆくような薄気味悪さに私は歯を喰いしばる。



 ・・・そうだ!


 私が悪かった事は改めれば良い!


 先ずはペレスに謝って戻ってきてもらう・・・。



 セリーヌは・・・

 今更だが・・・使えるなら王家に仕えて当然だろう。


 ミッシェルの侍女付き女官にでもすれば良いのではないか?



 私の執務もまた手伝わせても良いだろう。


 そこまで考えてやっとパズルのピースを埋めたような気持ちになりホッとした。






最後まで読んでいただきありがとうございます。

とても嬉しいです。


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そしてこれからの励みになりますので

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