兄と妹の不穏な会話
私の部屋に二つ上の兄ペレスが鎮座していた。
「お兄様、レディーが留守の部屋にいるなんて些かマナー違反では?」
父に似た兄は《亜麻色の髪に榛色の瞳が美しい人》と誰しも言わしめる顔を妹に惜しげもなく向け優しく微笑んでいた。
でも心から目は笑ってない。
(ああ、お兄様が怒ってらっしゃる)
「お兄様にも私の婚約破棄の事がお耳に入りましたの?」
お兄様の笑顔の奥の目が怪しく光る。
「セリーヌ。私が直接殿下から聞いたわけでは無いよ。殿下に仕える第二補佐のケビンから聞いたんだよ」
私は小さく首を傾げた。それは思いもよらない人物の名前だったから。
「ケビン様は、あのドビッシ公爵家のケビン様ですか?」
「ああ、その通りだよ。常々侯爵家の私がアーノルド殿下の第一補佐なのが気に入らなかったらしいが・・・まさかやっと領地から帰った来たばかりだという自分の妹を殿下に差し出すとはね。今日私と会うや否やセリーヌ嬢と殿下の婚約は破棄されたと嬉しそうに声をかけられたよ」
流石の私も驚きを隠せなかった。
「正式な発表もされていない情報を安易に話されるなんて、ましてや婚約破棄の理由は殿下の浮気だったのですか?」
お兄様はそうだと言うように頷いた。
私は頭痛を少しでも癒そうと右手をこめかみに当てる。
「はぁ、なるほど。理由も仰らない一方的な婚約破棄通告だったので浅はかにも自分の事を責めてしまいましたわ」
お兄様は私を労るように優しく頭を撫でてくれる。
「いつだってセリーヌに非がある訳が無いだろう?殿下との仲を私も考えよう。奴はもって3週間だ」
私はクスッと笑い、
「お兄様、奴とは不敬ですわよ。それにお父様は一ヶ月と仰ってましたわ」
お兄様も笑う。
「父上も甘いな。まぁセリーヌは何も気にせず、事の成り行きを見守り、ただ待っていれば良いよ」
私はお兄様に微笑みつつ思考を巡らせる。
ドビッシ公爵家のご息女・・・たしかミッシェル嬢と仰ったかしら。ご病気だったようで領地で静養していて最近やっとお帰りになったという噂を聞いていた。
私はプラチナブロンドの髪とブルーの瞳でどちらかと言えば細身の躰。でもミッシェル様は雰囲気の強いピンクの髪と赤目なのに豊満な躰をしていて私とは正反対だとアーノルド殿下から聞いたばかりだった。あの時にもう少し気にかけていたら良かったのかしら。
今までは容姿こそ正反対だとだけ思っていたけれど、どうやら内面から全て私とは正反対らしい。
人のモノを奪うとはどういうことなのか知らない年齢では無いでしょうし・・・
知っていて私から奪うのでしょう・・・
世間はそんなに甘いものじゃないのよ。
ミッシェル嬢、あなたはこれから嫌というほど分かるのでしょうね。
・・・そしてアーノルド殿下も・・・
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