父と娘の不穏な会話
私は父の書斎の前で一度、大きく深呼吸をした。
扉をノックして父の許しを待つ。
「どうぞ」
穏やかな声に少しホッとして私はそっと扉を開けてソファーにゆっくりと腰掛けた。
「お話があります」
父の時間は有用だ。だから手短に要件だけを言うつもりだった。
父は目処がついた所で席を立ち私の前に座った。
「それで、セリーヌ。話とはなんだい?」
私は父へ真っ直ぐな視線を向けて事実だけを端的に話した。
「先ほどアーノルド殿下より一方的に婚約破棄を賜りました。お父様は聞き及んでいらっしゃいますか?」
父は一瞬驚いた顔をしたが直ぐに表情を戻した。
「私はまだ聞いていないが?それは殿下から聞いただけで王家からの通達では無いのかい?」
「はい。殿下から直接・・・」
「そうか、まぁ国王陛下から直々にとなると我が家総出で王城へ出向くことになっただろうし」
父は両手を膝に置きそれを優雅に組むと瞼を閉じて思案顔をした。
私はただ父の考える答えだけを待っている。
徐に瞼を開けて私を見る父。その凪いだ瞳に何の感情も窺えない。
「セリーヌ、君の考えはどうしたい?まだアーノルド殿下に縋りたい気持ちはあるのかい?」
私は小さく笑った。
「いいえ。元々お慕いする気持ちも無かったので」
いつも私だけが殿下をお支えすることを強いられた関係。労いの言葉すらいただいた事もないーー
口に出したら尚更アーノルド殿下に想いを馳せた事がなかったと如実に実感した。
父も私に同調するように小さく笑う。
「おやおや、それではアーノルド殿下が逆に気の毒になってしまうが」
「お父様、ご冗談を」
「セリーヌ。一ヶ月だ。それで片をつけようか」
「・・・はい。分かりました」
全てを察して私は父の執務室を後にしようとしたが気になる事があったので振り向いた。
「あのう、お父様。お母様には何と?王家との繋がりを楽しみにしていらっしゃったので・・・」
「ああ、そうだね。我が妻は王妃と唯一無二の親友だからね」
「お父様はお母様に言えますの?」
少し間が空いたが返事をくれる。
「大丈夫だよ・・・・・・多分」
父は誰よりも母を愛しているが誰よりも怖がっていた。
私は気の毒そうに父を見て返事をした。
「分かりました。よろしくお願いします」
そして私はいよいよ部屋へと戻る。
(一ヶ月後・・・全てが変わってしまうのね。その時、私は・・・)
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