瞬間移動
私達は生徒会室にいた。
「赤佐君に紹介したい人がいて」私は上座に座っている女性に手で指しながら言った。
「私と同じクラスで友達の藍葉 紫さん」
「はじめまして、藍葉紫です」とても緊張した表情で言った。
「はじめまして、赤佐雅寛と言います。よろしくお願いします」彼女の緊張が移ったのか、強張った顔で言った。
私は赤佐君と紫の間に、いつかドラマで見たお見合いで緊張して話せない男女のような独特な空気を感じたので、私から話を切り出した。
「紫、赤佐君に話があるんだよね?」
「はい。どうしても分からない事がありまして」紫は赤佐君の方を見て言った。「愛梛が“赤佐君なら解ける”と言ってくれたんでここに来たんです」
「分からない事ですか?」
「はい。修学旅行の1日目に起きた事なんです」紫が赤佐君にバッグから修学旅行のしおりを取り出し、渡しながら言った。
「この日は京都に着いたら自分達で決めた観光ルートを電車やバスで移動しながら周って、最後は宿泊先の旅館に到着するという日でした。私と愛梛は同じ班で行動してて、観光ルートを全て周り終わって旅館へ向かって歩いている最中に、早川という男子生徒に会いました。彼等の班は“まだ周ってない所があるから”と言って旅館とは反対方向に歩いて行ったんです。
ここからが本題なんですが、旅館から反対方向に行った筈の早川君達の班が私達よりも先に旅館に着いていたんです」
「早川先輩にはなぜ先に着いたのか聞いたんですか?」
「聞きました、でも答えたがらなくて。問い詰めるのもどうかと思ったので、自分で考えてみたんですけど全く分からなかったんです。」困った表情で紫は言った。「今のお話で分かりましたか?赤佐君」
「いえ、今の話だけでは」赤佐君が言った。「いくつか質問をするので答えて頂けますか?」
「はい。何でも質問してください」
「まず気になることが」赤佐君が修学旅行のしおりを見ながら言った。
「しおりのメモ欄に電話番号が書いてあるんですが、これは誰のですか?」
「これは生徒だけで京都の街を散策する時、緊急事態が起こった場合にのみ掛ける先生の電話番号です」
「そうなんですね。すいません、つい気になって聞いてしまいました。では質問始めますね」
「はい。いいですよ」
「藍葉先輩達は旅館まで行くときに寄り道しましたか?」
「いいえ」
「えっと、すみません」赤佐君が言った。「先に聞くべきでした。なぜ藍葉先輩は早川先輩が先に旅館に着いたことが分かったんですか?」
「それは旅館のエントランスで1人でいる早川君を見たからです」
「それで聞いてみたら、先輩が答えたがらなかったんですね?」
「はい」
「分かった!」私は閃いて、思わず大きな声で言ってしまった。「きっと早川君達はタクシーかバスを使ったんだよ」私は意気揚々と言った。
私が突然大きな声で話し始めたので、2人が驚いた表情で私の方を見た。
「それだと何故早川先輩は、旅館のエントランスで1人でいたんでしょう?先に着いたのなら自分の部屋に行ってゆっくり休んでいれば良いのに」赤佐君が私の方を見て言った。
「そうだよね」私は溜息混じりで言った。「考えれば考えるほど分からないよ」
「そうでもないですよ」赤佐君が陽気な声で言った。
「分かったんですか?」紫がハッとした顔で言った。
「はい。恐らくですが」赤佐君が言った。
「早川先輩の班に体調不良を訴える人が現れたんです。それで先生に緊急事態だと電話で伝えて迎えに来てもらったんだと思います。先輩は班のリーダーで、自分が決めた観光ルートのせいで体調不良になってしまったのではないかと、エントランスで1人思い詰めていたんだと思います。だから聞かれても答えたがらなかった」
「なるほどね。確かにそれなら説明がつくね」私は赤佐君の推理に感心した。
「凄いです。何かスッキリしました。ありがとうございました」紫はホッとした顔で赤佐君の方を見て言った。
「いえ、そんなお力になれてよかったです」赤佐君は照れ笑いしながら言った。
「今日は生徒会で忙しいのにありがとうございました。長居したらお邪魔になるので私はこれで失礼します」紫は笑顔で私達の方を見て言った。
紫は席から立ち上がって、生徒会室から出ていこうとしたので私が
「送ってくよ」と言って紫と一緒に出て行った。
「やっぱり愛梛の言った通りだった。赤佐君解いてくれた」
「でしょ?自慢の後輩なんだ」私は笑顔で言った。
こんにちは、aoiです。
最初にこの話を最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
安楽椅子探偵風に書いてみました。
読みにくい箇所ありましたらすみません。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。