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ナナミちゃんの目の前に現れたのは、うでの付け根のぬい目がほころびて中から白い綿が少し出てしまった、青くて大きなクマのぬいぐるみ……モエたんでした。
桜の木とラジオと手紙は、自分たちを大切にしなかった人間に「フクシュウ」しようとしていました。ナナミちゃんも、モエたんをなぐったりけったり投げ飛ばしたりと、全く大切にしていませんでした。フクシュウされても仕方ありません。
「モ……モエたんも……ナナミをゴミばこにすてる気なの?」
ナナミちゃんはこわくて足がガクガクふるえていました。するとモエたんから思いもよらない言葉が返ってきました。
「え? そんなことしないよ! ボク、ナナミちゃんのことが大好きだもん」
モエたんの「大好き」という言葉にナナミちゃんはおどろきました。
「何で? ナナミは……モエたんにいつもひどいことばかりしてきたんだよ!」
「いいんだよ、ボクのことをなぐったりけったり投げ飛ばしても」
「どうして!?」
するとモエたんは、黒くてまん丸な目をぱちくりさせて言いました。
「だって……そのかわりナナミちゃんは、今までクラスの子たちに一度も暴力をふるわなかったよね?」
「あっ!」
ナナミちゃんは自分でも気がついていませんでした。ナナミちゃんはおこりんぼうですが、どんなに頭にくることがあっても、決してクラスの子をたたいたりすることはなかったのです。
本当は、自分をからかってきた男の子たちをたたきたかったのですが、クラスの子に暴力だけはいけないと思い、ナナミちゃんはずっとガマンしていました。
「でも……かわりにモエたんが……」
そこでナナミちゃんは、そのたまった「うっぷん」をモエたんにぶつけていたのです。モエたんはぬいぐるみ……たたいても痛くないからだいじょうぶだと思っていました。
でも、本当はモエたんも傷ついていました。モエたんのうでの付け根がほころびたとき、ナナミちゃんは初めてそのことに気がついたのです。でも、モエたんは生き物ではなく「物」だから痛くないだろう……と知らんぷりをしていました。
「いいんだよ、それでナナミちゃんが笑顔になれば……ナナミちゃんの幸せはボクの幸せなんだ!」
モエたんは、ナナミちゃんのことが大好きです。そのことでナナミちゃんが明るい顔になれば自分も幸せ……そんな思いで、モエたんはナナミちゃんの暴力にたえていたのです。
「ごめんなさい! モエたん……ごめんなさい!」
モエたんの言葉を聞いて、ナナミちゃんの目からぽろぽろとなみだがこぼれ落ちました。ナナミちゃんはそんなモエたんの気持ちにやっと気がついたのです。そしてモエたんに悪いことをしたと反省しました。
「もうモエたんをたたいたりしないから……ごめんなさい! でも……」
ナナミちゃんには、まだひとつ気がかりなことがありました。それは……
「どうしたらおこらないでいられるの? どうしたら……からかわれないの?」
ナナミちゃんは、モエたんに暴力はふらないと約束しました。でも今のままではクラスの男の子たちからからかわれて、それに対しておこっている毎日が続いてしまいます。どうやったらクラスの子たちに、からかわれないでいられるのでしょうか? ナナミちゃんにはそれがわかりませんでした。
するととつぜん、辺りが停電したように真っ暗になりました。しばらくすると森の中に月の光が差しこみ、ナナミちゃんの周りが遊園地に変わっていました。森の中にあるとても小さな遊園地です。しかもナナミちゃんとモエたんは、いつの間にか小さなメリーゴーランドの中にいました。
ナナミちゃんはメリーゴーランドの木馬に乗っていました。ナナミちゃんがおどろいて周りをキョロキョロ見回していると、となりの木馬に乗っていたモエたんがナナミちゃんにこう言いました。
「それはね……笑いとばせばいいんだよ」
まだ続きます。