3
その日の夜、ナナミちゃんは不思議な夢を見ました。
雪で白くなった山があります……見たこともない山です。その山のふもとにあるまっすぐな一本道を、ナナミちゃんは一人で歩いていました。
すると道ばたから
「シクシク……シクシク」
と、泣き声が聞こえてきたのです。
「ないてるのは……だれ?」
ナナミちゃんが声をかけると、一本の木がふり返りました。
「私は……桜の木です」
答えたのは桜の木でした。桜の木なのですが花も葉っぱも落ちていて、それが桜の木だと言われてもナナミちゃんはピンときません。
「何でないてるの?」
ナナミちゃんが桜の木に聞くと、桜の木は言いました。
「人間がひどいんです! 私が春に花をさかせると人間が集まってきて、私の下で食べたり飲んだり大さわぎをして、最後はゴミを捨てて帰ってしまうのです」
「えっ?」
ナナミちゃんはドキッとしました。去年の春、家族でお花見をしたからです。
「だれも私の花をほめてくれません。たまにほめる人がいたと思ったら、私の枝を折ってそのまま持ち帰ってしまうのです! とっても痛いんですよ」
ナナミちゃんは桜の木を見ることができませんでした。実はお花見のとき、枝を折って持ち帰っていたのです。
「それに……人間は花が散るとすぐに、見向きもしなくなります! それどころか私の葉っぱに害虫が付いたり、秋になって葉っぱが散ると人間は私をじゃま者あつかいするのです! 人間はひどいんです!」
「あっ、そう……それじゃあバイバイ」
ナナミちゃんは、いても立ってもいられなくなってその場をはなれました。
※※※※※※※
「ザザーッ! うわーん……ザザーッ」
ナナミちゃんが再び一本道を歩いていると、今度は雑音に交じった泣き声が聞こえてきました。
「ないてるのは……だれ?」
ナナミちゃんが声をかけると、道ばたから黒い箱のようなものが出てきました。
「オレは……ザザーッ、ラジオ……ガガガッ……ピーッ……だよ!」
答えたのはラジオの受信機でした。でも雑音がひどくてよく聞き取れません。
「何でないてるの?」
ナナミちゃんがラジオに聞くと、ラジオは言いました。
「ガガガッ……オレは、見ての通りこわれかけているんだ。ザザッ……こわれかけてるけど修理すれば使えるんだよ。でもオレは捨てられてしまった! 今はテレビやインターネットがあるから必要ないって……ガガガッ……」
「あっ……そうなの?」
ナナミちゃんは困ってしまいました。なぜならナナミちゃんもテレビやインターネットばかりしていて、ラジオはほとんど聞いたことがなかったからです。
「ガガッ……それに、どうしてもラジオ聞きたいときはスマホやカーナビにオマケで付いているから……ザザーッ、オレみたいなラジオ聞くためだけの機械はじゃまだって……だから捨てられたんだ。ホント、人間って勝手だよ……なぁ、教えてくれよ! 本当の幸せって何だ? ガガガッ……ピーッ!」
「そんなのわかんないよ! じゃあね」
ナナミちゃんはその場からにげるように立ち去りました。
※※※※※※※
「えーん、えーん」
ナナミちゃんが再び歩きだすと、またまた泣き声が聞こえてきました。
「もうっ、ないてるのはだれなの?」
ナナミちゃんが声をかけると、今度は紙が出てきました。
「ボッ、ボクは手紙だよ」
答えたのは手紙でした。でもなぜかクシャクシャに丸められています。
「何でないてるの?」
ナナミちゃんが手紙に聞くと、手紙は言いました。
「ボクの仲間が読まれずに黒ヤギさんと白ヤギさんに食べられちゃったんだ……ひどいよ! でも人間はもっとひどい! 昔はみんな便せんに書いていたのに、今はメールで送るから紙に書かなくなったんだ」
「あっ……そう」
ナナミちゃんも手紙を書いたことがありません。年賀状もSNSで送りました。
「本当はメールという言葉、郵便物って意味だからボクたちもメールなのに! でも手紙だと書き出しが難しいからってあきらめて、ボクはゴミ箱に捨てられちゃったんだ……勝手だよ」
手紙がそう言うと、いつの間にか桜の木とラジオもやってきました。
「人間は勝手だわ!」
「モノを大切にしない人間はゆるさないぞ!」
「そうだ! 人間に『フクシュウ』してやろう!」
桜の木とラジオと手紙が人間に『フクシュウ』すると言い出したのです。
「まずはナナミをゴミ箱に捨てましょう! あなたは花見で枝を折ったわね?」
「お前はラジオなんか聞いたことがないだろ?」
「手紙だって……書いたことないよね?」
ゴミ箱に捨てると言われてナナミちゃんはビックリしました。すると、桜の木たちがナナミちゃんにおそいかかってきたのです。
「たっ……たすけてえーっ!」
ナナミちゃんは全力でにげました。
しばらく走ると大きな森が見えてきました。ナナミちゃんが森へにげこむと桜の木たちは追ってこなくなりました。
「ふぅ、たすかったぁー」
ナナミちゃんはホッとして森の中を進みました。すると目の前に、青い色をした大きなクマのぬいぐるみが現れました。
モエたんです。
すでにお気付きだと思われますが……この回は遊んでおります(笑)。
まだ続きます。