表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

 年が明けて冬休みも()わり、小学校は三学期(がっき)になりました。


 三学期(がっき)になってもナナミちゃんは、クラスの女の子たちからこわがられ、男の子たちからはからかわれていました。本当はみんなとなかよくしたいのに、だれもなかよくなってくれません。

 ナナミちゃんは、小学校に入学したときにクラスの全員(ぜんいん)とお友だちになりたいと思っていました。でも今は一人ぼっちで下校する毎日です。


 自分が思っていたのとちがう。自分の思い通りになっていない……ナナミちゃんは何が(わる)いのかわからず、そのことでよけいにイライラしていました。


 ナナミちゃんは家に帰ると、お母さんにただいまも言わず自分の部屋(へや)に入ってしまいました。部屋(へや)のすみには、ナナミちゃんに背中(せなか)()けている大きなクマのぬいぐるみ「モエたん」がいます。


「なによ! お前もナナミのことがきらいだからあっちむいてるのね!?」


 モエたんにあっちを()かせたのはナナミちゃんです。でもそんなことはすっかり(わす)れていました。


「ゆるせない! どいつもこいつもナナミのことをバカにして! お前なんかこうしてやるーっ!」


 大きな声を出すとナナミちゃんはモエたんの背中(せなか)を思い切りけりました。するとモエたんは、一()かべに頭をぶつけた後、ゆっくりとあお()けにたおれてしまいました。その姿(すがた)を見たナナミちゃんは


「何こいつ、弱ーい!」


 と、やり(かえ)してこないモエたんをバカにしました。もちろんやり(かえ)すわけがありません……ぬいぐるみですから。

 するとあお()けになっても表情(ひょうじょう)()えないぬいぐるみのモエたんを見て、ナナミちゃんはさらにいかりをモエたんにぶつけました。


「なんでよー! みんな何でナナミに近づかないのよ!? 何でナナミをからかうのよ!? お前たちなんか、こうして! こうして! こうしてやるーっ!」


 ナナミちゃんは大声でさけぶと、たおれたモエたんをクラスのみんなに見立て、たたいたりけったりしました。すると、ナナミちゃんの心の中にある変化(へんか)()きたのです。


「何これ? スカッとして気もちいい!」


 ナナミちゃんは、モエたんに暴力(ぼうりょく)をふるったことで、クラスの子たちに(たい)してたまった「うっぷん」を晴らし気分がすっきりしたのでした。

 するとどうでしょう、さっきまでイライラして(くら)かったナナミちゃんの表情(ひょうじょう)がぱぁっと明るくなりました。



※※※※※※※



 (つぎ)の日からナナミちゃんは、クラスの子たちからさけられたり、からかわれてもおこったりせず、じっとたえていました。そしてたまった「うっぷん」を、(すべ)てモエたんにぶつけるようになったのです。

 ナナミちゃんは学校から帰るとすぐに、モエたんをなぐったり、けったり、()()ばしたりしました。でも、モエたんはぬいぐるみですから(まった)くやり(かえ)すことはありません。ただひたすらなぐられ、けられ、()()ばされているだけでした。


 そのうち、学校でも変化(へんか)()きました。学校ではおこらなくなったナナミちゃんに、今までこわがって近づけなかったクラスの女の子たちが話しかけてくるようになったのです。そして、からかっても反応(はんのう)しないのでつまらなくなった男の子たちは、ナナミちゃんをからかうのをやめるようになりました。

 こうして、学校ではおこらなくなり友だちが少しずつできたナナミちゃんでしたが、家の中ではモエたんをなぐったり、けったり、()()ばしていました。


 そんなある日、事件(じけん)が起きました。


 ナナミちゃんがいつものように、モエたんを()()ばした時です。とつぜん、


 〝ベリベリッ!〟


 と、大きな音がしたのです。


 何の音だろう? と思って見てみると、モエたんのうでの「ぬい目」が(やぶ)れてしまい、中から白い綿(わた)が少し出ていました。


(あっ、どうしよう?)


 ナナミちゃんは(こま)ってしまいましたが、


(どうせナナミのぬいぐるみなんだし、どうつかってもいいでしょ!)


 そう思ったナナミちゃんは、ぬい目が(やぶ)れて(きず)ついたモエたんを(ほう)ったままベッドに入ってしまいました。

まだ続きます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ