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年が明けて冬休みも終わり、小学校は三学期になりました。
三学期になってもナナミちゃんは、クラスの女の子たちからこわがられ、男の子たちからはからかわれていました。本当はみんなとなかよくしたいのに、だれもなかよくなってくれません。
ナナミちゃんは、小学校に入学したときにクラスの全員とお友だちになりたいと思っていました。でも今は一人ぼっちで下校する毎日です。
自分が思っていたのとちがう。自分の思い通りになっていない……ナナミちゃんは何が悪いのかわからず、そのことでよけいにイライラしていました。
ナナミちゃんは家に帰ると、お母さんにただいまも言わず自分の部屋に入ってしまいました。部屋のすみには、ナナミちゃんに背中を向けている大きなクマのぬいぐるみ「モエたん」がいます。
「なによ! お前もナナミのことがきらいだからあっちむいてるのね!?」
モエたんにあっちを向かせたのはナナミちゃんです。でもそんなことはすっかり忘れていました。
「ゆるせない! どいつもこいつもナナミのことをバカにして! お前なんかこうしてやるーっ!」
大きな声を出すとナナミちゃんはモエたんの背中を思い切りけりました。するとモエたんは、一度かべに頭をぶつけた後、ゆっくりとあお向けにたおれてしまいました。その姿を見たナナミちゃんは
「何こいつ、弱ーい!」
と、やり返してこないモエたんをバカにしました。もちろんやり返すわけがありません……ぬいぐるみですから。
するとあお向けになっても表情を変えないぬいぐるみのモエたんを見て、ナナミちゃんはさらにいかりをモエたんにぶつけました。
「なんでよー! みんな何でナナミに近づかないのよ!? 何でナナミをからかうのよ!? お前たちなんか、こうして! こうして! こうしてやるーっ!」
ナナミちゃんは大声でさけぶと、たおれたモエたんをクラスのみんなに見立て、たたいたりけったりしました。すると、ナナミちゃんの心の中にある変化が起きたのです。
「何これ? スカッとして気もちいい!」
ナナミちゃんは、モエたんに暴力をふるったことで、クラスの子たちに対してたまった「うっぷん」を晴らし気分がすっきりしたのでした。
するとどうでしょう、さっきまでイライラして暗かったナナミちゃんの表情がぱぁっと明るくなりました。
※※※※※※※
次の日からナナミちゃんは、クラスの子たちからさけられたり、からかわれてもおこったりせず、じっとたえていました。そしてたまった「うっぷん」を、全てモエたんにぶつけるようになったのです。
ナナミちゃんは学校から帰るとすぐに、モエたんをなぐったり、けったり、投げ飛ばしたりしました。でも、モエたんはぬいぐるみですから全くやり返すことはありません。ただひたすらなぐられ、けられ、投げ飛ばされているだけでした。
そのうち、学校でも変化が起きました。学校ではおこらなくなったナナミちゃんに、今までこわがって近づけなかったクラスの女の子たちが話しかけてくるようになったのです。そして、からかっても反応しないのでつまらなくなった男の子たちは、ナナミちゃんをからかうのをやめるようになりました。
こうして、学校ではおこらなくなり友だちが少しずつできたナナミちゃんでしたが、家の中ではモエたんをなぐったり、けったり、投げ飛ばしていました。
そんなある日、事件が起きました。
ナナミちゃんがいつものように、モエたんを投げ飛ばした時です。とつぜん、
〝ベリベリッ!〟
と、大きな音がしたのです。
何の音だろう? と思って見てみると、モエたんのうでの「ぬい目」が破れてしまい、中から白い綿が少し出ていました。
(あっ、どうしよう?)
ナナミちゃんは困ってしまいましたが、
(どうせナナミのぬいぐるみなんだし、どうつかってもいいでしょ!)
そう思ったナナミちゃんは、ぬい目が破れて傷ついたモエたんを放ったままベッドに入ってしまいました。
まだ続きます。