4-2 報酬は大金貨十枚
メイディの作った魔導具は、失敗作であった。学生の知識では、本当に空を飛ぶ魔導具を作れるはずがなかったのだ。
そんな危ういものに身を任せた馬鹿な王子と浮気相手は、爆発の勢いに飲まれて四散し、骨すら見つからなかった。
……と、いうのが、後日広まるストーリー。
第一王子は死に、第二王子が即位する。「もしかしたら生きているかもしれない。探そう」という者はいなかった。あの無茶苦茶な第一王子が帰ってきても、ややこしくなるだけだからである。だから、追手も、捜索隊も出なかった。
第一王子の婚約者だったミアは、飛空演劇団に入団した。ラグシル公爵は新たな貰い手を探したようだが、当のミアが団長に心酔した様子を見せるので、婚約者に名乗りを上げる者すらいなかった。たとえ打診しても、断られたであろうが。
どれもこれも、未来の話。
魔導具が爆散した大きな炎を見下ろして、夜の闇の中を、ふたりの影が漂っていた。
「うわ……すごい爆発。中の人、大丈夫だったかな」
「ミアが爆風を防ぐって言ってたろ。あいつが居れば、怪我人は出ねえよ」
メイディもアレクセイも、あの爆風に巻き込まれておきながら、怪我ひとつしていない。
死んでしまったことにすれば追われない、と提案したのはミアだった。アレクセイを疎ましく思っている国王が、骨を探すはずもない。「死んだ」ことになったほうが、都合が良いのだから……と。
魔導具に細工をしたのはメイディだ。元々、特待生の卒業研究は、卒業パーティで発表されることになっている。完成した空飛ぶ魔導具の、速度の調整を壊しておいたのだ。魔導具が燃え尽くすほどの、強烈な火の魔法も仕込んだ。
晴れてふたりは「死んだ」ことになり、アレクセイは自由になる。全ては、予定通りだった。
「お前に頼んで良かったよ、メイディ」
赤く燃え上がる魔導具の残骸を見下ろしながら、アレクセイが呟く。彼はそのまま、横抱きにしたメイディの髪に顔を埋めた。
「……照れるって」
吐息を感じると、胸が跳ねて、恥ずかしいような気持ちになる。耳を薄く染めたメイディが咎めると、アレクセイは小さく笑った。
「棒読みは卒業したんだな」
「随分前にね。恋ってどんなものか、ちゃんと、わかったから」
いつでも相手のことを考えてしまって。
相手の幸せを願って。
触れ合うと、嬉しくて。
相手のためなら、何でもしたくて。
いつまでも一緒にいたいと願う、そんな気持ち。
それは、胸の奥から湧いてくる、温かな感情。
「アレクが恋を教えてくれて良かった」
「……お前がずっとそう言えるように、俺がしてやるよ。だからさ。俺と一緒に、来てくれ」
アレクセイはそう言いながら、ポケットを探る。取り出した中身を、メイディの薬指に通した。
星の光に照らされて、きらりと光る金色。彼の髪と同色の指輪が、細い指に添えられる。
「報酬はこれでいいか? 大金貨十枚分の価値がある」
「もちろん。一緒に行くよ」
メイディは、アレクセイの顔を見上げる。自由を得た彼の顔は、今までで一番、すこやかに見えた。
反射する指輪の光が、星々に紛れ込む。寄り添うふたりは、王都の空へ消えていくのだった。
本編はここで完結となります。番外編として、もう何話か更新します。




