エリヰトの繁栄4
「もうなんかいいや、肩外れちゃったし。クソ采配のせいで全部めんどくさくなった」
スケール変わっただけでやられること一緒じゃん。世界がどうとかの影響あんまりなくね?オレ。
最高に痛いんですけど。
「ケント、力加減を……いや、とにかくクミトを呼んでくれ。」
「すいません!連れてきます!」
人の肩を外しておいて詫びもせずとか。
民度死んどるやんけココ。
クライシ委員長の統治能力ウンコじゃないですかね。
「動いたら次は当てる。すまないが、肩を治せそうな者が来るまでそのまま待っていてくれないか」
「何を当てるのか知らんけど、どうせ疑わしいとかいってまたやるでしょうが……」
クライシが溜息をつき、説明をはじめた。
「私の名前だが、先程から聞いての通りクライシという。九つの雷子と書いて九雷子だ。名前からある程度わかると思うが、一度に九つまで雷撃を加える事が出来る」
主人公……!
しかも物語中盤以降ぐらいの強さの主人公の能力……!
「先程、目の前で発光したのがそのうちのひとつ。威力は落としたがね。しかしひとつでもくらえば大抵の人間は致命傷以上にはなるんだ」
「もっと平和的に、肩こり治療なんかに活かして生きていく方法とかないのかよ……」
「ん、それもアリかもしれないな。とはいえ世間がこんな情勢では、ひとまずの使い道は武力と電力に力を割いてしまうものでね」
やっぱり主人公レベルの能力じゃねえかクソ。
前世でどんな善行積んだんだコイツ。
「名前を伝えたのは自己紹介をしたかったわけではない。私の事は近隣の勢力には知れ渡っているし、君がキョウヘイ一派と繋がってようが、マキシマと繋がってようが漏洩のリスクは今更ない。」
「んじゃなんで名前なんか……あ、自慢か。この状況から更にマウントか。あるある」
「下手な事をした場合、どんな目に合うか想像して欲しかっただけだ。それに多少は痛み止め代わりの時間潰しにもなったろう」
はあ?
「クライシさん!クミト連れてきました!」
さっきオレの肩を外したケント君が来た。
彼は来世でエメラルドゴキブリバチにでも寄生されたら良いと思う。
必然的にゴキブリに生まれ変わるのだ。
「クミト。すまないが彼の肩が外れてしまってね。治す方は専門外かもしれないが、助けてもらえないか」
専門外の人を呼んじゃったの?
頭大丈夫この人?
「大丈夫ですよ、脱臼程度なら問題ないです」
クミト君凄いね。初対面で脱臼させてくる連中の仲間にいるのは問題だけどね。
クミト君がオレの肩を戻している間、ケント君は仁王立ちでオレを見ていた。
こいつの両親の倫理観ってどうなってんだ。
ここまでオレに対する選択肢全部間違えてんだけど、なんで堂々としてられるんだコイツ。名前は鉄人ケントか何かか?
ヤバいよこいつ絶対。
「さて、肩も治ったところで本題だ」
九雷子委員長も容赦ないね。
「おそらく君への疑念というのは、この状況では拭い去る事が難しい。唯一の真実が立証できるのは自己紹介ぐらいだろう」
そうなの?
「名前を教えてもらえないだろうか」
そういえば、さっき生徒手帳を拾ったな。
名前を教えたところでバカにされて永久にパシリかサンドバッグにされるのがオチだろう。
ここはいっちょ賭けてみようか。
ポケットから生徒手帳を取り出して、ケント君の足元に放る。
ケント君はそれを一瞥し、九雷子の方へ蹴った。
こいつ……!
「生徒手帳か。女子のようだが」
「元の姿さ。漢字変換のせいでこんな姿になったんだ」
「……確認しよう。名前は?」
「ザンペイだ」
!?
あれれぇ〜〜〜??
「ザンペイ?ここには園田毛布子とあるが」
ですよねぇ。
あれれぇ〜〜〜?
「名前が変換されてから、この世界での名乗りは嘘をつけない」
九雷子クゥーン!それ先に言ってぇー!
アタイの信頼性ゼロよー!
「君はこの生徒手帳を使って正体を偽装しようとしたわけか。理由は知らないがこんな小道具まで使う事からしても、思ったより頭が回るようだね」
アンタの手のひらの上で回ってる感じのが強いですけどね。
「しかし、未だに名乗りルールを知らない人間が、この辺りをうろついているのは確かに妙だ。何らかの理由により、ここ2年間について空白がある可能性もあるわけか」
え待って九雷子委員長ってもしかしてめちゃくちゃ頭良くない?
ここまで全部布石?しゅごい。
「クミト」
九雷子の声に合わせて、クミト君がオレの腕を捻り上げる。
「うぉあ痛ァ!!どういう流れェへへコレぇ!?」
「クミトは関節の扱いに慣れている。ケントの時よりも安全に、最大の痛みを供給できる」
「需要ないんですけどォ……?」
痛過ぎて鼻水が出た。
「こちらにはある。君の名前、ザンペイとはなんだ?どういう意味に変わった?」
「残兵……残った兵、残念な兵、どっちか知らねーよ。でもどっちも低カーストだろ!いってーよ!」
「苗字は」
「狭間!狭い間のハザマ!狭間残兵!わかるだろ、九雷子なんて大層な名前ついてんなら、オレの名前の弱さが!いてーんだよ!頼むよ!」
「狭間残兵か。字も分かったのは幸運だな。嘘はつけないが、回答する義務はないから黙殺されることも多い質問だ。クミトのおかげかな」
「ありがとうございます」
「いや早く解放しろよ!」
ようやく拘束を解かれる。
目の前ではケント君が仁王立ちのままニヤニヤ笑っている。
もうコイツは君付けするのやめよう。
ケントに問う。
「なんかおかしーのかよ」
「残兵って凄い名前だな。何かに負けたんか?」
「知るかよ。今がそうなんじゃねえか?まあ世界が変わる寸前、仮想通貨には負けたが」
ケントが一笑した。
しかしあの状況は、残PAYもゼロなので残兵どころか戦没者である。
それにしても、シヴァ闘士や九雷子と比べると、狭間も残兵も抽象的すぎんか。
シヴァ闘士の方は、世界が移り変わった瞬間からああなってたみたいだし、となると名前を自己解釈して超能力等が付与されているわけじゃなさそうだし、オレの能力の解明ってどうすればいいのかしら。
あれ?そういやタカシはどこいったんだっけ。
「オレがこっちに来た直後……2年前になるのか?その時に駅から学校へ一緒に向かってたヤツがいるんだけど。」
「誰かな?……と言っても、ここ2年間で人口はかなり減っているし、よほど特徴的な人物でもない限りは分からないが、ひょっとしたらウチの陣営にいるかもしれないな」
「シヴァ闘士」
「「「!!!!!」」」
一瞬にして3人が、臨戦態勢となる。
周囲の空気が帯電し、ケントとクミトは一歩下がり、ファイティングポーズでオレを囲む。
まあオレはただの残兵なんだが。
「シヴァの関係者だったのか……!」
戦慄する九雷子を見て、胸に不安が広がる。
これまた肩とか外されたりする展開か?




