リリヰスの残兵13
「はあ…………。」
富国強兵が長いため息をついた。
九雷子都市将、シヴァ闘神の元へと戻ったあと、一人で何やら考え込んでいると思ったらコレである。
「どったん富国強兵? 作戦会議するんでそ?」
そう声をかけるも、あーとかおーとか、気のない返事がくるだけである。
仕方がないのでさっきまで富国強兵と話していた、イノウエに対する懸念材料について説明することにした。
イノウエタカシではない可能性から始まり、まだ誰にも知られていない立ち回りが存在する可能性にも言及した。
ついでに二人にも心当たりがないか聞いてみる。
「てな感じなんだが、九雷子とタカジンのじいちゃんにも、裏ワザみたいな立ち回りについて心当たりとかあったりしないか?あればイノウエの持ってる可能性を少しでも潰していけるかも。」
そう聞いて、タカジンが腕を組んで中空を見据える。
「裏ワザ?そったらもんがあるだなんて想像したこともなかっぺよ。」
相変わらず何弁だかわかんねえ。
それって毎回やらないと死ぬんか?
まあでも、この反応については予想通りではある。
シヴァ闘家なんてのは戦闘力に極振りの脳筋一家に違いないので、ルールの裏をついた立ち回りなんぞする必要もないのだ。
九雷子はといえば、眼鏡をクイっと上げてスカした後、眉間に皺を寄せながら呟く。
「ルールの隙間だと……? そんな事まで言い出したら、世界はめちゃくちゃじゃないか。」
今まさにめちゃくちゃなんだが。
九雷子が続ける。
「いや、今まさにめちゃくちゃなのは間違いないか。しかし流石にルールに隙間があるというのは俄には信じられないな。何か前例はあるんですか、キョウヘイさん?」
すっかり富国強兵の部下だな。
大穴の方を向いて考え込んでいた富国強兵が振り返り、答える。
「ああ、ある。」
そう言って再び大穴へと視線を向けようとするが、やっぱりやめたと言わんばかりにもう一度こちらを振り向き、思索に耽るのを中断してこちらへと歩いてくる。
「この世界のルールは分かるな?」
富国強兵が誰とも無しに質問すると、九雷子がこれに答える。
「真名再臨により、名前の字義どおりの力が宿りました。そして名乗りには嘘をつけません。これが全員に適用されたルールです。」
「他にも無かったか?」
「他にも……? ルールの隙間、とかいうやつですか?」
「九雷子、お前、改名を試みたことはあるか?」
そう言われて九雷子がハッとした表情をする。
「言われてみれば……! そ、それがルールの隙間か。」
いや違う。そんなわけあるか。
富国強兵も首を横に振り、オレと同じ答えを出す。
「いや違う。そんな単純な話なら、現段階で誰しも挙って最強の名前探しに奔走していることだろう。」
そりゃそうだよ。
オレだって狭間とか残兵とか、そんな雑魚ネームからはオサラバしたかったよ。
でも改名は無理だ。隙間はない。
富国強兵が話を続ける。
「真名再臨の始まりからここまで、改名は不可能だ。これはオレが試したから間違いない。」
そういや家庭裁判所に行くかとかなんとか冗談飛ばしてたな。実際に手続きに行ったのね。
富国強兵が更に続ける。
「しかしマキシマムジョウとの交戦時、あいつの名前が次々と変わるのを無答心索が読み取っていた。どういう方法かは知らんが、与えられた字義は変更可能なようだ。おそらくそういう能力だとは思うが。」
イノウエタカシ本人の能力か、イノウエ陣営の誰かによる能力であるのは間違いないが、あいつらはどうにかしてソレが出来てるってワケだ。
富国強兵がイノウエを指差す。
「イノウエタカシ本人の能力か、イノウエ陣営の誰かによる能力であるのは間違いないが、あいつらはどうにかしてソレができる。」
まずいよなぁコレ。
字義の変更ができるってことは、限られた人員の中でも可能性の幅をグンと引き上げることができるもんな。
富国強兵が続ける。
「字義を変更できるということは、能力者を増やす事ができるのと同じことだ。限られた人数でも可能性の幅は最大化される。」
同意同意。めちゃくちゃ分かるわ。
ていうか何かアレだな。分かる?
情報共有してきたお陰で、富国強兵の考え方が読めるようになってきたのかもしれん。
てコトはアレよ、そろそろ急にオレへと話題降ってくるターンになんのよ。
「狭間残兵、お前の名前を言ってみろ。」
ほらな。
わりと読みやすいっていうか、有能な進行役のテンプレートみたいな事すんのよ。
「オレかい? オレは神に選ばれし、最弱にして唯一の宇宙予言を預かりし使徒、人呼んでビッグバン予言者の」
「そういうのいいから早く。」
「ハザマザンペイです。」
どうだ。読めてたぞ。いやマジで。
流れるようなボケとツッコミのコンビネーションだったろ?
狙ってやったんだよ今の。ホントだって。
そんなオレの気持ちが伝わるでもなく、富国強兵はオレに石を投げつける。
痛いんだが。
「い、石はイカンでしょ!」
「拾え。」
「あ、はい。」
なんなんこの人、こわ。
いや拾うけど。もう一個飛んできたら嫌だし。
「悪いな、当てるつもりは無かったんだが。」
「あ、はい。」
つもりがあってもなくても、人に向けて石を投げたらアカンだろ。
何考えてんだこの異常者? 前言撤回、全く理解できん人種だったわ。
よくよく考えてみたら駅ビルに住むとかホームレスの発想やんけ。
「狭間残兵」
「あ、はい」
「それは何だ?」
は? 何? こわ。コレ?
どう見てもお前の投げた石やんけ。
何よ、何なのよこの人。あ、ヤバい、そろそろ回答しないともう一回同じ事を聞いて威圧してきそう。
「もう一度聞くぞ。それは何だ?。」
「お前が投げた石ですけど。」
お前って言ってやったわ。
聞いたかコラてめー。やられっぱなしのオレじゃねえぞオラ。
「そうだな、石だ。」
「??????」
えー無理。急におかしくなってるって。
さっきからこの人おかしいですって。
「狭間残兵、お前は自分のことを石だと思ったことはあるか?」
「あ、はい。」
「!?…………あるのか?」
「いやごめんないです。急に意味わからん質問来たから思わず返事しちゃっただけ。」
「じゃあお前は自分を石だと思ったことはないわけだな。」
「ないデース。」
「よし。」
何もよくないが。
「じゃあ次。その石の名前を仮にビッグバンザンペイ……いや、略してバンペイと名付けよう。」
なんやねんソレ。
BANペイって、アカウント追い出されたみたいな名前になっとるやんけ。
「いいか?」
「あ、はい。」
何もよくないが。
「じゃあそのバンペイをこう、胸のあたりで持ってみてくれ。」
「あ、はい。」
石を胸のあたりに持ち上げる。
「そうだ、それでいい。」
何もよくないが。
何で路傍の石を掲げて記念写真みたいなポーズせにゃならんの。
私が発見しましたみたいな。
「では今から狭間残兵に呼びかける。お前はバンペイを通して会話をしてくれないか。要はお人形ゴッコだ。」
「あ、はい。」
「お前の名を名乗れ。」
「アタイ、バンペイ」
あれま凄い。
クソ簡単に名前を欺けるじゃん。
「待て、それは石の名前だろう。石ではなくお前だ。お前の名前は何だ?」
「アタイ、狭間残兵」
あれれェ〜〜〜?
おかしいぞ、もうアタイの嘘がめくれちゃった。
でもコレ凄くね? 質問の傾向次第では、名前聞かれてもやり過ごせるってことやん。
「どう思う?九雷子?」
名指しされた九雷子が答える。
「なるほど。相手がこの方法を知らなければ、名前を聞かれても嘘でやり過ごせる可能性がありますね。」
「そうだ。じゃあ次に、狭間残兵」
なんでまたオレやねん。
「狭間残兵、聞こえているか?」
「あ、はい。」
「今度はお前に対し、狭間残兵かを問う。それに対して嘘をついてみろ。」
「あ、はい。」
じゃあバンペイとでも名乗っておくか。
ていうかバンペイって、番兵って書くとオレより強くね?
え? オレってもしかして小石よりも弱くね? マジ?
「狭間残兵か?」
「さあな、そんなやつ聞いたこともねえや。いいかい坊や、オレの名前は狭間残兵だ。」
ヤダーーーー!
めちゃくちゃ正直者ーー!
謎の恥ずかしさが込み上がるオレを見ながら富国強兵が説明する。
「…………というわけだ。」
トイウワケダー!?
そりゃどういうワケだー!?
「どういうわけだ?」
シヴァ闘神が眉をひそめて呟く。
なるほど全然聞いていなかったようだ。おとなしかったもんな。
横から九雷子が早口で説明する。
タカジンじいちゃんはフンフン言っているが、おそらく生返事である。
2割も伝わってりゃ御の字だな。
九雷子がタカジンじいちゃんに説明しているのを横目に、富国強兵が近づいて来た。
オレの目の前まで来ると、石を指さして話しかけて来た。
「どうだ?」
「ん? ああ。こんな方法があるとは知らんかったわ。知ってたら初見の頃の九雷子を欺けてたかもしれん。」
「そうか、それは良かった。」
良かったのか?
ていうか、確かに画期的な方法ではあるけど、戦闘が始まったらすぐに使えるようなものではないよな。
この難所を脱して、その後の政治的もしくは戦略的なターンに移ってから使えるようなものだ。
「まあ、この戦闘のさなかに使えるような方法ではあるまいよ。」
富国強兵がそう言うのを聞いて、やっぱそうだよなと返す。
てことは、オレに石ぶつけただけのイベントじゃね?
「とはいえ狭間残兵に石をぶつけただけの行動だと思われるのも癪だからな、もうひとつ先の話をしようか。」
そう言うと、富国強兵はオレを誘って九雷子達と少し離れた場所に移動した。
「ここなら聞こえないだろう。」
「どういうこった?すげえ裏ワザでも教えてくれんのか?」
「そうだな、さっき話したやつ。オレの切り札だ。」
「おお、切り札。」
引っ張りやがってこのヤロー。
早よ言えってんだよ待ってたぜチクショー。
「そうだ、切り札だ。」
ゴクリ。
本当に生唾を飲み込むことってあるんだな。
急に辺りの空気が引き締められたかのように感じる。
九雷子達の話し声も全く聞こえなくなり、富国強兵の口元に全集中力が注ぎ込まれる。
「いいか、狭間残兵。」
「ああ、ドンと来いだぜ。」
緊迫感を増していく空気の中、富国強兵が囁く。
「オレは富国強兵ではない。」




