リリヰスの残兵12
イノウエタカシかすら定かでは無くなってきた敵に対し、ネガティブな推測が積もってきている。
仮に全部推測どおりだった場合、ひょっとして既に詰んでいるのではないだろうか。
うーむ、さすがにそんな事は有り得んか。
いや、有り得んか? ひょっとしたら、もっとドギツイ予想も付かない真事実が出てくるんじゃねえの?
自慢じゃないがこれまでの人生から察するに、オレの運のステータスは限りなくゼロに近い。
人望も知能も体力もほぼゼロみたいなもんだが、運はそれの一回り下だ。
そんな事を考えていると、富国強兵が問いかけてきた。
「狭間残兵、お前はこの世界で目覚めてから日が浅いんだったな。」
「ん? ああ、来たのは同じぐらいだとは思うけど二年ぐらいの空白期間があるらしい。」
なぜかオレだけ周回遅れスタートみたいになってんだよな。
普通そういうのは突出して強いキャラがバランス調整のためにくらう処置じゃないのかと言いたい。
暫定最下位の残兵が、ぶっちぎり再開のランク入りしたのはアレがキッカケなんじゃないだろうか。
…………でもそしたらマキシマに遭遇した時点で普通に死んでたっぽいしな。
じゃあなるべくして底辺か。そうか。
「それがどういう事かは分からんが、とにかくお前は二年分、この世界での経験値が少ない。だからアドバイスしておいてやろう。」
「おう、頼む。」
すげえ良いネタ頼むぜ。
「時間が止まる前、お前はこの世界が結構ガバガバだとか言ってたな。」
「おう、言ったな。」
「それは正しい。」
「ん?何よ急に。」
「正しいんだ。二年も暮らせばこの世界のルールはどこか歪で、隅々まで練って作られていない事がよくわかる。」
まあ、どう考えても行き当たりばったりで作ってるっぽかったもんなあ。
「いやまあ実際に当たってるなら何よりだけどな。てかアンタもそう思ってたのね。」
「ああ。」
「んでアドバイスってのは何かね?」
「この世界には、まだ世に知られていないようなルールと言うべきだろうか。ルールこ裏をかいたような立ち回りがあるという事だ。」
「おう。まあガバガバ設定だし、探せば色々あるかもしれんね。」
「ああ、そうだ。」
「おう………………そんだけ?」
もっと具体的なもんじゃねえのかアドバイスって。
せめてその立ち回りの具体例ぐらい教えてくれても良くね?
富国強兵は大穴の上にいるイノウエやシヴァ闘親子の方を見やると、何か考えているような表情で続きを話し始める。
「狭間残兵。お前は小賢しくて生き汚い。それに性格もそこそこ悪いだろう。」
「急に悪口が迸ったんだが。悪口って書いてアドバイスだったのかよ。ありがとな。」
「そうじゃない。褒めているんだ。」
「そんな新基軸な褒め方ないわ。まだ人類には早すぎるぞ。」
「フフ……違う、本当に褒めている。ルールの裏をかくような思考というのは、お前のような柔軟な頭をした性格の捻くれた奴の方が向いているんだ。」
「そうか?そんなことねえだろ。」
「あるんだよ。世界がガバガバだなんて事を言う奴は初めてだったからな。」
「それはまあ……色々あったんだよ。」
「そうだな。お前もオレも、色々あったんだ。」
何やら大事な話っぽい雰囲気を醸し出し、富国強兵はその指先を大穴の先、イノウエやシヴァ闘親子の方へと向ける。
「ひょっとしたら、イノウエの方でも何かに気がついたのかもしれないな。神の意表をつくような、ルールの隙間に。」
「おい、なんか今ってアレか? 重大な事を伝えてる感じだったりするんか?」
「…………さあな。」
「なんか空気がアレだぞ。圧迫面接受けた時の感じを思い出すぞ。」
「その面接はその後どうなったんだ?」
「家から重要な電話が来たとか言ってバックれたわ。」
「お前は本当に小賢しい奴だな。」
「今更ながらオレもそう思ってるわ。」
「……今回もバックれてみるか?」
「まあそういうワケにもいかんでしょ。」
時間が経過するにつれて選択肢が減るのは前と同じだしな。
バックれてる間に詰む確率が増えるのはたまらん。
「狭間残兵としては、イノウエの能力が予想もつかない隠しダマばかりだった場合、何か打つ手はありそうか?」
「アンタは?」
「あとひとつかふたつ、といったところかな。切り札だ。」
「オレもそんなもんだ。」
このままデバックルームに永久にバックれるか、不老不死の無敵のザンペイきゅんにメガ進化するしかねえ。
代償として、どっちも未来永劫生きっぱなしになっちまうが。
というか、富国強兵にもまだ策があるのね。
「富国強兵、アンタの持ってる策はなんだい?」
オレのは最終手段すぎるから使いたくねえしな。
だってバッドエンド確定ルートなんだもん。
「狭間残兵、お前の持ってる策からどうぞ。」
おっと、そりゃそうか。聞いた方が先に開陳するべきだわな。
でも流石に言えん。オレが死にそうな雰囲気出ただけで宇宙全体が全消しとか、こんなもん言えるはずもねえ。
無敵な存在になって永久に生き続けるルートの話もしたくねえ。コイツ多分やれって言うし。
悶々としていると、富国強兵が肩を叩いた。
「お互い本当に切り札のようだな。安心しろ、いよいよとなればオレから先に札を切る。それで駄目なら、悪いが次はお前の番だな。」
「いや助かるけどさ……アンタはそれで良いのか?」
「オレにもひとつだけルールの隙間をついた裏ワザがあってな。口に出すのも憚られるものだから、おいそれとは言えやしないが。」
そんなえげつない切り札あるんですか。
「アンタ、それだけ強キャラなのにまだそんな切り札あんのか。ズルいぞ。」
「ズルくない、全然ズルくない。お前の方がズルい。」
「。」
ぐうの音も出ん。
「この切り札を使うと、最悪の場合だが、オレは全てを失う。ただ、お前みたいに宇宙全体がどうこうなるようなものではないからな。だからオレが先に手札を切る。それだけだ。」
「全てを?」
「ああ、全ての可能性もあるが、今はなんとも言えない。」
なるほど全然わからん。
自分からカミングアウトをけしかけといてうやむやにするこの感じ、恋愛ドラマみたいでモヤモヤするわ。
「富国強兵、アンタにも色々と隠しておきたいことがあったのは分かった。んで、いよいよとなったら先に頼ってもいいんだな?」
「期待はするなよ狭間残兵。おれの切り札はその場しのぎだ。恒久的な対策にはならない。」
「切り札なんてそんなもんじゃね?」
「そうか。お前の方もそうなのか?」
「オレの方は…………どうなんだろ?自分でも分からん。」
恒久的っちゃ恒久的か?
その場しのぎと言えばその場しのぎだし、恒久的なその場しのぎってところか。無限あと回しだもんな。
再び考え込んでいると富国強兵がため息をつくのが聞こえた。
「とりあえず、お互い切り札を使わずに済むように情報を集めるぞ。こっちは切り札を隠しておくという切り札を切ってしまったし、お前と一緒で後がないんだ。」
「そんなん黙っとけばバレなかったのに、アンタも意外とお人好しなんだな。」
「それは違う。狭間残兵が死ぬと決まった時点で世界が詰む以上、切り札の使い所はお前が死ぬ一歩手前しかないんだ。今の状況を鑑みればお前が敵でも嘘つきでもないのは疑いようもない。そのお前が切り札を渋っているのならオレが動くしか無いだろう。」
「おう、そうだな。なんかスマン。」
「謝る必要はない。お前がそこまで躊躇するということは、それほどデメリットのある切り札なんだろうからな。」
「ああ、それは間違いないわ。出来れば安楽死でお願いしたいぐらい。」
「だがお前は死ぬ事が出来ない、と。」
「そうだ。死ぬ事が出来ない。」
あれ? これもう答え言ったようなもんか?
富国強兵は口元に笑みを浮かべた。
「あまり素直に応答していると、オレがお前の真実に辿り着くぞ?」
やべ。使える方法が少ない以上、あんまり話し込んでると切り札の候補を絞られるわ。
困惑するオレを尻目に、なおも富国強兵が続ける。
「ところで狭間残兵、現時点でお前は唯一、上位存在たる神と対話できる人間だ。だからこそ聞きたいんだが」
なんでも聞いてくれ。答えられるかはわかんねえけど。と返す。
実際オレにもわからん事が多いしね。
「この世界は一体どこへ向かっているんだ?」
「おひょ? どこへって……」
「真名再臨が起き、人々は混沌とした世界へと放り込まれた。そして今は、世界を崩壊させる四つの勢力を無力化しようとしている。」
「そうだな。それに加えて、宇宙全体の時間が止まったから動かそうとしたりしてるな。」
「そうだな。それで結局、それら全てを解決出来たとして人類は、世界はどこへ向かっているんだ?」
「いや、それはちょっと、オレには……」
たしかにその疑問はご尤もである。
真名再臨が思いつきで始まって、そのエラーで四つの勢力が出来て、その修正作業中のエラーで宇宙が停止して……そんでまた解決すると…………何が残るんだ?
よく分からんくなってきたので、思ったことをそのまま富国強兵に伝えることにする。
「とりあえずは正常化した真名再臨後の世界を続行、とかじゃないのか?」
そう伝えるも、やはり納得しかねるようだ。
富国強兵が額の辺りを掻きながら呟く。
「それは……いや、これはいま話しても仕方がないか。」
「なんだ?なんか問題あるのか?」
「いや、いい。いずれ表面化する問題だ。いまオレ達が話し合っても意味がない。」
そう言いつつも納得していなさそうな富国強兵が、意を決したような表情をし、こちらを向いた。
「どのみちオレの切り札を出すタイミングだったということか。狭間残兵、戻るぞ。最後の作戦会議だ。」
そういって踵を返す。
富国強兵の頭の中だけで作戦決めるんなら、どうしてオレをここまで引っ張り回したんだろうか。
オレのダイエットが目的なら無駄の無駄無駄なんだが、そこん所はちゃんと理解してくれているのか。
下痢の際にトイレペーパーがシングルだった時のような、言いようのない不安を抱えたまま俺たちは大穴の反対側まで引き返すのであった。




