リリヰスの残兵11
まず最初に思いついた戦術はこうだ。
イノウエタカシとシヴァ闘親子の周囲の空間を解凍する。
その際にうまいこと座標を調整して、親子二人の全身は解凍しつつもイノウエタカシの全身は解凍しないっていう、さっきタカジンじいちゃんで試したような小狡いやつをもう一回やる。
イノウエタカシの正体が何だったのかは分からんが、コイツの場合は死んでもらって全然OKなので全力で半端な解凍をさせてもらうってな具合だ。
背後の闇も解凍したくないのでなるべく触らないようにするのがポイントで、可能な限り孤軍奮闘させてやるのが重要だ。
出来れば解凍とともに死んでほしいが。
それとマキシマについては後回し。
どうもアイツの異常な状態は、イノウエが引き起こしている可能性が高い。
一緒に解凍するのは悪手だろうし、あわよくばイノウエの死亡と同時に弱体化させられるから放置だ。
運が良ければイノウエが死んだらアイツも死ぬかもしれんし。
次に状況の確認だが、マキシマとやり合っていた九雷子からはあまり有意義な情報がなかったので、富国強兵にも確認した。
富国強兵自体は信用に足る男ではあるが、あの乱戦の中で正確な情報を網羅するのは難しいと思う。
思い違いをしている可能性を含めるともう一人分ぐらいは情報源が欲しかったが、これまたどうしようもない。
富国強兵の主観によれば、最後にオレが未来予知をした瞬間に世界がブラックアウトしたようだ。
その寸前までシヴァ闘親子とイノウエタカシは一進一退の攻防を続けており、手数で言えばシヴァ闘家が圧倒的に優っていたものの、攻撃自体が通っていないように感じたとのことだ。
しかしイノウエタカシの方も攻めあぐねているようで、疲労という感じでは無さそうだが段々と動きが鈍ってきているようには見えたらしい。
ただしこれはオレ自身が直接見聞きした一次情報では無く、富国強兵が主観的に感じた情報……いわば二次情報である。
こと戦略家という面では信頼のおける人物なんだろうが、だからといって大乱戦の最中、周囲の様子を完全に網羅できるかというと、間違いなくそんなことは不可能だ。
ただでさえ指揮官として八方を見張り、脳内では戦術のイメージを膨らませている真っ最中であっただろう。そんな中で、敵将とはいえイノウエタカシの動きをひとつも取りこぼさず見ていた可能性は低い。
つまりオレが何を言いたいかというと、これまでの富国強兵の観察眼を知った上で、イノウエタカシのブラフに引っかかってるパターンだってあり得るって話だ。
底が見えない以上、どんな策が張り巡らされているか分からない。
富国強兵の情報全部を鵜呑みにできない以上は、全部失敗した時のパターンまで考えておくべきだろう。
特に今回の場合、まだ未確定ではあるがオレの未来予知が発動した瞬間に宇宙のフリーズバグが起こる可能性がある。
これがまた本当に厄介で、実際に行動を起こす前のタイミングであったとしても、オレの命に危機が及ぶ可能性が出てきた時点で勝手に発動して詰むパターンもあるわけだ。
宇宙一の余計なお世話ってやつだな。
となれば戦術は自ずと、オレを危険から遠ざけたものになってくる。
まず時間の解凍を始めた最初期の段階では、イノウエタカシとオレの間にシヴァ闘神を配置し、最強の防壁とすることがマスト。
その後にシヴァ闘士、シヴァ闘王の親子が解凍されるので、その際の素早い情報伝達も必要だ。
伝達に有用な人材である空騒通達は大穴の手前、元々オレや富国強兵のいた辺りに配備されており、近くには防衛線としての役割を担っていた猫台風や珍矛林も控えている。
要するに、未来予知の開始前と同じ配置である。
このポイントを中心に時間の解凍を行うのが、最もスムーズに情報が整理できる方法だろう。
だが待ってほしい。
そのスタート位置は、以前はシヴァ闘神がいない状況だったとはいえ、オレにとって未来の袋小路だった場所でもある。
つまり展開としてはシヴァ闘神頼みの一辺倒となってしまい、戦術の幅はたった一人分しか広がっていない事を意味する。
あ。
厳密には九雷子も行動可能になっているから二人分か。
まあそれでもたったの二つばかり手札が増えたに過ぎない。
今度こそあと戻りのできない戦いで、たったの手札二つである。
現状では数においてイノウエタカシ側を圧倒しているものの、この戦力差にしてはやけに手応えが少なく感じるのも気になる。
その辺りについての違和感は、富国強兵も気になっているようだった。
「狭間残兵も気になるということは、やはり何か意図があって膠着している可能性が高いのかもしれない。」
そう言って富国強兵はイノウエの影を睨みつけ、続けて話をする。
「敵将が徐々に引き、別動隊……マキシマを前線から切り離して遊撃化している。もしもその後に包囲網を作り出すつもりだとすれば、典型的な包囲殲滅陣のパターンにも見える。」
ほーほー。
「だが現状で確認できる戦力はイノウエタカシとマキシマムジョウの二人だけ。こちらが進軍できるのは、足場の関係もあって大半の者が大穴の手前までが限界だ。こちらの軍勢が大穴の手前で止まるとなれば、こちらを包囲するには手勢も環境も整わないな。」
そう言いながら大穴の外周を歩き出す。
オレにもついてくるように促すので、タカジンじいちゃんは九雷子に任せて後を追うことにする。
「どこまで行くんだ?」
「大穴を挟んで反対側まで。」
「結構な距離があるぞ。まともな足場もないだろ。」
「可能な限りでいい。それに転げ落ちても怪我はしない。大丈夫だろう。」
「這い上がれなかったらどうすんだ?」
「帰りが遅ければ九雷子達の方から捜索しだすだろう。大穴にでも落ちなきゃ問題ない。」
「まあ、そうかもしれんけど……。」
しばらく歩き続けるとアップダウンの激しい岩場などもあったが、オレ達でも踏破できない程ではないので越えていく。
滑落以外にも虫や毒草の危険が無いこともあって、思ったより進みやすい。2時間もしないうちに大穴の反対側へ行くことができた。
ただしそこから更に先へ行くにはかなりの急斜面、というか崖を登って行く必要があるため、これ以上先に進むことはできなさそうだ。
「なあ富国強兵、こんなとこまで来て何をしに来たのか教えてくれよ。」
「戦場を可能な限り広い目で確認しておこうと思ってな。伏兵などの罠がないかも確認しておきたかった。なにせこれ見よがしに巨大な穴が用意されているんだ。ただの脱出不可能な穴ってこともないだろう。」
「救出も不可能らしいよ。」
「どちらも厳密には不可能では無いようだがな。」
「ああ、脱出できないことはないけどシヴァ闘家が二人分とは言ってたかな。」
「イノウエタカシの言葉を信じればな。」
「そうか、言われてみりゃアレだな。敵の言葉を信じて作戦立てたら駄目だわな。でもそうなると結局アイツがイノウエタカシってことぐらいしかまともな情報ないの地味にキツくね?」
「それは確定している情報なのか?」
「流石にそりゃそうだろ。アイツに会った時、イノウエタカシって…………言ってねえ。」
「詳しく話してみろ。」
「いやアイツ、イノウエと言えばわかるかなとかなんとか言っただけで、タカシとは言って無かった気がする。」
「記憶力がいいな、狭間残兵。」
「なるべくフルネーム覚えておきたいご時世だからな。言われないと、ちょっと違和感あって記憶に残っちゃうのかも。」
「イノウエではあるがタカシでは無い可能性か。名乗りに嘘はつけないという真名再臨のルールに抵触しないな。」
「おいマジかよ。じゃあ誰なんだよアイツは。」
「この状況でいくら考えても答えは出ない問題だな。イノウエタカシ本人かもしれないし、家族や親族、それともちろん同姓の他人の可能性もある。」
「ジョーイ……いや、上位存在から情報を受け取ってイノウエタカシの手勢として進軍してきた時点で、イノウエタカシと全く無関係なイノウエさんってわけでないのも確定か。」
「慧眼だな。」
「自分を脅かす存在には敏感なのよ。自慢じゃないが弱者男性だからな。今も。」
「なんとしてでも逃げ延びようとする残兵っぷりは、真名再臨より以前から健在していたわけか。」
「ああ、真名再臨の恩恵いっさい感じなかったからな。」
「それが今や、ビッグバンのエネルギーを持つ神の予言者とは大出世だな。」
「予言者ビッグバンに改名すべきかもな。」
「家庭裁判所に申請に行くか?」
「そうだな、この戦いが終わったら……ってアカン。」
死亡フラグだ。
つうかそんな名前は申請下りないだろ。
ダサすぎてこっちから願い下げだが。
それにしてもイノウエタカシがイノウエタカシじゃ無かった可能性は出てくるわ、ポロリと死亡フラグ立てちゃうわ、とんでもない事態になってきたな。




