リリヰスの残兵9
とりあえず富国強兵にはこう説明しといた。
「オレが死んだら宇宙も死ぬっぽい。」
だいぶ困惑してたが、時間の止まった世界にいる事が信憑性を増しているのか、なんか勝手に納得した感じになった。
九雷子も何か言ってたが、お前は一日8時間発電しないと死ぬっぽいと伝えておいた。
これもなんでか信じてもらえたので結果オーライというやつだ。
オレはというと、特にやることもないので九雷子の雷撃を一本拝借して低周波治療器代わりに使わせてもらっている。
こうしないと死ぬっぽいといったら貸してくれた。
万事丸く収まっているのである。
それはそうと、最初に動かすものを決めておいた。
シヴァ闘家の残りの二人である。
話し合った結果、まずは祖父から解凍することに決める。
どシンプルな戦力増強だ。
タカオおじさんは性格が合わないような話をしていたが、そんなことに気を使ってる段階ではない。
仲間の身内かつ、間違いなく強力な戦力になるんだから、この機会にバケモンゲットしとくしかないのである。
場所については天使ちゃんに聞いた。
随分と不貞腐れた返事だったが、よく考えたら最初に会った時と大差ないので良しとする。
九雷子のおかげでしばらくの間は生命維持活動が脅かされる心配も無くなったので、移動を開始する。
道中、必要な物資の分だけ時間を解凍して資源の回収をし、目的地へと進んでいく。
正直な話、三人とも体力は人並み前後だ。
オレが人並み以下で、あとの二人は人並みに毛が生えた程度というところだ。
オレも下の毛ならボーボーなんだが、それはこの二人もそうなんだろう。
三人揃って毛の生えた程度ということだ。
スタート地点が山の中だったので体力的には随分苦労させられたが、朝も夜も外敵も存在しないので思った以上に安定して進めた。
心拍についてはどうにもならんが、歩き続けて体温が上がり始めたら供給している温度を若干下げたり、天使ちゃんのフォローが輝く場面もあった。
それと地味に助かったのが、山中での滑落やら何やらについての出来事だ。
ある日、足を滑らせて滑落した奴がいた。
オレだ。
その際に全身を強く打ったがダメージは何ともなかった。
全身を強く打つなんてのは、普通は原型を留めないレベルのダメージを負った遺体を表す表記のはずだが、なんともなかったのである。
さすがはビッグバン人間だなと思ったのも束の間、次は九雷子が足を滑らせた。
大した高さではなかったものの骨折は免れないと思って駆けつけたが、ヤツも怪我ひとつなく立ち上がった。
どうやら時間の停止したエリアでは、こちらから干渉できない代わりに向こうからも干渉できないようだ。
じゃあなんで地面に足をつけて歩いたり出来るんだって話も出てくると思うが、そんなもんオレに分かるわけがない。
時間の停止した空間内で転んだことあるやつおる?おらんなら黙っといてな。
まあなんつうか、上下の感覚はあるし体が宙に浮いてしまうこともないので重力は働いているはずなんだけど、そのくせあらゆる運動が停止しているって時点で意味不明なのである。
ただ、おそらくではあるが、天使ちゃんが何かやってくれてるんじゃないかと思う。
オレの肉体や持っているエネルギーを流用することで世界への干渉を抑えながらフォローしているはずなので、ひょっとすると地面を踏む感覚はオレの背中を流用するなどしており、全員オレの背中を踏みつけて足場と感じているのかもしれない。
重力を感じるのも、同じくオレの体重を流用することで代用しているのかも。
とかなんとか想像する余地はあるものの真偽は不明だし、考えても分からんので気にしないでおくことにする。
事実、歩ければいい。
そういえば道中で一度、こんな疑問が頭に浮かんだ。
九雷子や富国強兵の呼気なども質量として排出されていると聞いたが、これもエネルギーとして天使ちゃん側で抽出できないか?といった疑問だ。
疑問が浮かんだ頭の持ち主は富国強兵だが、この際それはどうでもいいだろう。
そして気になる答えの方だが、どうやらこれは干渉に該当するらしい。そんぐらい見逃してほしいもんである。
というか、この世界ではオレのみがイレギュラーとして例外的に許されているだけらしい。
ビッグバンの力を人形にしたような存在だし、既にこの世界の人間としてカウントされていないかのようだ。
仲間はずれの最強バージョンみたいなもんだろうか。
オレのビッグバンエネルギーの元ネタがコッチの宇宙の全エネルギーと引き換えに得たものだから、という事も関係しているのかもしれない。
そうであれば借金返済に近い存在だな。オレ何もしてないのに。
九雷子の雷撃発電所もどうなんだって話だが、あれは雷撃分のエネルギーを転換しているだけなので、排出された二酸化炭素からエネルギーを抽出するようなゴリゴリの干渉とは異なるようだ。
まあそんなわけで、あーだこーだと考えながらも探索の旅を続けていき、ようやく見つけたのがシヴァ闘士の祖父であった。
時間が停止しているため色は見えず、灰色の仁王像のような佇まいで、廃寺のような建物の奥にめり込んで座っている。
三つの目は固く閉じられ、口は真一文字に引き締められている。
天使ちゃんに連絡し、タカシの祖父の時間を解凍していく。
眠っているのか、何かを考えているのか、固く険しい表情から読み取るのは難しい。
ただ、この状態からいきなり襲いかかりはしないだろう。三人でそう判断した結果での解凍である。
それに今回はもうひとつ作戦がある。
徐々に周囲の解凍が行われ、タカシの祖父の胸の辺りまでの時間が流れはじめる。
「…………ム?」
真一文字に引き絞られた口から声が漏れる。
そして三つの目のうちの一つが開かれ、オレ達の方をギョロリと睨む。
「なんじゃいヌシら?」
令和の時代にこんな口調の年寄りがホントにいるか?
いや目の前にいるけど。
タカシの友達である事を伝え、タカオおじさんが一緒にいる事も伝えた。
フンと鼻を鳴らしたジイさんは、身体が動かないことに気がつく。
「なんじゃいコリャ?動かんぞワラくそボケカスが」
想像以上にイケイケな言葉使いに驚きを隠せないが、任侠映画の影響だろうと思い平静を装った。
身体が動かないのは、胸から下の時間が止まったままだからである。
これ普通なら絶命待ったなしの状態なんだが、シヴァ神の系譜ということで試してみたところ、やっぱり何とかなっちゃった感じである。
ほぼ賭けだったものの、友人の祖父とはいえここまで思い切った実験ができたのは面識がほとんど無かったことからに他ならない。
人とは得てして残酷なものである。
人道的とか倫理観とか、オレに求めるのは根本的に間違いなのでクレームは受けつけない。
善人じゃねえんだ。勘違いするんじゃねえぞ。
ジイさんにとりあえず状況を説明してみるが、あまりちゃんと話を聞いてくれない。
「ええから束縛を解かんかい。話はそれからじゃろがい。」
とかなんとか言っている。
束縛ではないんだが。
「早く外せ言うとるんじゃボケカスが!」
絶っっっ対に暴力とか振るわないようにと何度も確認する。
そんなことより外せとわめくジイさん。
すったもんだの末、なんとか約束を取り付けることが出来たので胸から下の解凍も始める。
「お前ら離れとけや!」
ジイさんはそう言うが、解凍直後にどっかに行かれても困るのでその場で見守ることにする。
「早よ去ね言うとるじゃろ!去ね!」
とんでもなく威嚇してくるがなんとか耐える。
というよりも解凍が進んでるんだから、こっちが作業中ということぐらい分かるだろ老害……と言いたいのをグッと堪えたが無理だった。
全部言ってしまった。
「わりゃ知らんからな!言うたぞ!」
はいはい。返事をしながら解凍を見守る。
このジイさん、なんでこんな強気なのかわからん。
そして、いよいよ全身が解凍完了となったその時である。
「フンッッッ!!」
大地を揺るがす声と共に、ジイさんの周囲から爆風が巻き起こる。
あまりの威力に、ジイさんと一緒に解凍された床板やら壁やら泥やらが建物内を激しく弾け飛び回る。
舞い上がった埃の中、ジイさんは立ちあがろうとするが巨躯のあまり中腰でも天井に頭をぶつける。
「カッ!……だから言うたんに!」
そう言ってオレ達を睨みつけると、屈んで泥を手に持った。
そしてそれを親指につけ、壁に擦り付けて文字を書く。
シヴァ闘神
「シヴァタ……タカジンじゃ。」
そういって残りの泥をオレ達の足元に叩きつけた。
臭え。
これ泥じゃなくてウンコだ。
このジイさん、廃寺で屈んで何してんのかと思ったら野グソしてる最中に停止したのかよ。
「だから言ったがいね、離れとけやと。」
だって、あんな堂々と人前で脱糞はじめるとは思わんやん。
ていうか最初にそれ言えよ。ていうかクソ掴むなよ。投げるなよ。名前書くなよ。汚ねえよ。
「タカシとタカオんとこに案内せぇ。手伝うたるわい。」




