グレヰトな裁定8
超速特急『死』に乗り込んだオレ達は、今まさに目的地へと辿り着こうとしていた。
その時に珍矛林が叫んだ『チンポコシン」とかいう人生最後の一発ギャグを見届ける。
「オワタ……」
何もかもオワタ。命もオワタし、コイツら全員の知能もオワている。
その時である。
地面から飛び出す竹、竹、竹!
その量たるや、竹林ならぬ竹の森。もうワンランク上の密度である。
「チンポコシン!」
チンポコリンがこちらを向き、得意げにしている。
そうか、チンポコシンは珍矛森と表記するわけか。林ではなく森。
密集した竹がウォータースライダーの如く、オレ達を運ぶ。竹のレールは上下にウェーブしており、徐々にスピードを落とすような設計だ。
段々と速度を落としていき、地面に着く頃にはちょうど停止という完璧さだった。
「おい、すげえじゃねえかチンポコリン! どしたん? 急にパワーアップしやがってこんにゃろ!」
「昨日の夜、チンポコリンはキョウヘイさんの傘下になったニャ。そのおかげで能力も珍矛林から珍矛森にクラスチェンジしたのニャ。」
なるほど。林と森なら画数も1.5倍だな。能力強化の倍率と同じだ。
「見たか! 珍矛林の珍矛森!」
「おう、凄いなチンポコリン。お前のおかげで命拾いしたぜ。危うく豚と人間と猫の合い挽き肉が完成するところだった。」
豚おろし肉ぶっかけも胸を撫で下ろし、チンポコリンを賞賛する。
「すごいねチンポコリン。君がいなかったら危なかったよ。」
やっぱり危なかったんじゃねえか。二度とコイツの提案には乗らんぞ。
まあでもそんな事は置いといて、ひとつ気になる事があるよね。
「ところでココどこ?」
オレの問いに対し、全員が電光石火でそっぽを向く。
「なあ、どこなんだよココ。タカオおじさんが飛ばされたとこなんだよな?早く追いつきてーからさ、現在地知りたいんだけど。」
「わからないニャ」
「わかりません」
猫と豚から同一の回答が来た。チンポコリンはそこら辺の草むらの匂いを嗅いでいる。
辺りを見渡すと、鬱蒼とした森の中だということはわかる。あと多分、そこそこ高度がある。
「なあおいケモノども、正直に答えて欲しいんだが、オレ達って今、遭難してねーか?」
「そうなんニャよ。」
「そうなんですよ。」
「そうなんか!?」
三者三様に駄洒落で返すな。
「どうすんだよ。朝起きてからこっち、九死に一生を得たと思ったらまた九死に遭遇するところからスタートしてんだけど。この大凶しか入ってないおみくじみたいなチームで大丈夫か?」
まるで上手くいかねえ。
いや、そもそも人生上手くいったことないわ。じゃあいつも通りか。そうか。
「とりあえずさ、匂いとか痕跡とか、なんでもいいからタカオおじさんに追いつけるようなヒントとかないか?お前ら動物だから得意だろ。」
ヤバ豚が目の前で手を横に振る。あ、ぼくムリですみたいなジェスチャーだ。お前、今日なかなか役に立ってねーぞ?
「トリュフなら探せそうなんですが。」
うるせーよ馬鹿。
「トリュフ掘ってる場合かてめえツチブタ野郎。」
「あ、ツチブタって言いました?言いましたよね?残念でした、ツチブタは管歯目。ブタは鯨偶蹄目で全然別種なんで意味ないですよその悪口。」
ブタって自覚してる時点でダメージ入ってんだろ。まあいいやコイツはとりあえず無視しとこう。
「猫ちゃんどうよ?猫って鼻いいんだよな?犬ほどじゃないけど人間よか数万倍ぐらい鼻が利くんだろ?」
チンポコリンは元は猫だが今は人間のボディだから役には立たないだろう。となると猫ちゃんだけが頼りとなる。
ちなみに偉そうにゃしてるものの、この中で一番役に立たないのは何を隠そうこのオレだ。
人に詰問していくことで自分を標的にさせない高等テクニック。こいつを覚えておくといい。
オレはこれで友達をコンスタントに減らしてきた実績がある。
「ちょいと待つニャ。シヴァ闘王の匂いは複雑なので思い出し辛いニャ。複雑ってよりも、色んな動物の匂いがまとわりついてて……」
あー、獣寺の奴らの匂いもあるのか。
じゃあ今できることはないな。普通に遭難したわ。
「よしヤバ豚、トリュフ探してくれ。」
「え、コワ。さっきまで人のことを管歯目扱いしておいて急に蹄を返してくるじゃないですか。」
うるせえな。蹄じゃなくて手のひら返しだろうが。
オレまで仲間扱いすんな。
「これが大人ってやつだ。さっきまでの事はお互い忘れて協力しようぜ。どうやらオレ達は遭難したみたいだし、かといってそこら辺のモンを適当に食ったらヤバいだろ。お前がトリュフの判別できるんならとりあえずトリュフ食っときゃ間違いねえ。」
「は? トリュフごときで腹が膨れるとでも? 探すカロリーの方が高いんですけど?」
む、たしかに一理ある。反論できんわ。
「そしたらとりあえずなんとか下山して町か何か探すしかないな。とはいえ素人が遭難した場合、下へ降りていくのはアウトって聞いた事があるからとりあえず上へ行くか。」
「え、なんで。」
「いいかい13歳児のモンスター。素人が下へ下へと降りていくとな、気がついたら登ることも出来ないような岩場とかを降りちまうんだ。んでその先に断崖絶壁でもあってみな。オレ達の墓場はソコになっちまうぜ。」
「いや、だからなんでそれで下へ行かないんですか?」
これだから素人……いや素豚は。素豚ってなんか字面だけ見ると酢豚みてえだな。まあいいや。
「いいかよく聞けよこの酢豚野郎。お前さっきも落下死寸前だったのは忘れてないよな?思いつきでぶっ飛んだ結果、そのままあの世までぶっ飛ぶところだった。ここまではいいな?」
「酢豚にパイナップル入れる派ですか?」
「そうじゃないだろ、殺すぞ。ついさっきまでお前の提案で落下死するところだったの忘れたか? お前の提案には命に対する配慮が足りねえから却下だ。」
「でも降りるのが最短ですよね。」
「あの世に行くにも最短ルートだろうな。」
「まあそれは置いといて。」
「置いときたいのは山々だが、命まで置いてく羽目になんだろうが。お前の提案に乗ると。」
「いえ、大丈夫ですって。」
「おいおい……お前このくだり何回やる気だ? オレは降りないぞ。人生の幕まで降りる。」
「死にませんって。いいから下を目指しましょうよ。」
「だから何を根拠に行ってんのよ。さすがに納得いく理由でもなきゃ嫌だよ。今日だけでも何回か死が横をかすめてんだよ。なんで報酬のないロシアンルーレットしたがるんだよ。」
「根拠っていうか、だって僕たち山よりもっと高いところから落ちたじゃないですか。でもチンポコリンがいれば足場を作って安全に降りられるわけで」
お前天才かよ。
「天才かよ。その手があったか。」
「そうですよ。その手があるんですよ。」
たしかにチンポコリンの竹矛を使えば足場にも滑り台にも、時間はかかるがハシゴにもなる。
それに少なくとも上空からここへ落ちた時ほどの落差はないだろう。ここらはそんな高い山のそびえる山脈地帯でもないし。
チンポコリンと猫ちゃんにも相談し、下山する方向を決める。
猫の方向感覚は大したもので、飛んできた方向もしっかり覚えており、そのおかげでどちら方向へ進めば目的地に近いかも分かった。
「それじゃ出発ニャ。」
こうして一行は出発した。
下りて下りて、たまに登ってを繰り返す。
危ないところもあったが、チンポコリンの能力を上手く使ってクリアできた。
滝の上に出た時は参ったと思ったが、珍矛森によってなんとか切り抜ける。
数時間は歩いただろうか。皆の体力も消耗してきている。
そろそろ休憩しよう。そう声をかけた直後、目の前が開けた。森を抜けたのだ。
そこにあったのは、竹ごときでは到底乗り越えることの出来そうもない巨大な大穴であった。
「ほらな。やっぱりオレ達の運命は呪われてるわ。」
そう言ってオレはヤバ豚の方を向き、崩れ落ちた。
なんでこいつトリュフ食ってんの。




