グレヰトな裁定6
頭が真っ白になり、思考すら追いつかない。
両の眼を真紅に染めたマキシマムジョウの突進に、もはやオーク魔ヤバ豚も反応出来ず、オレは死を待つばかりのはずだった。
気がつくとオレはマキシマからかなり離れた位置におり、マキシマの腕が空を切る所を見ていた。
「ギリギリでしたよ……もう駄目かと」
すぐ後ろから声がした。
振り返るとそこには気の優しそうな青年がおり、オレの肩に手を置いている。
いや誰?
あちらでは、オレを見失ったマキシマが辺りを見回し困惑しているようで、その隙に再び畳み掛けられている。
まあそれはいいとして、この後ろにいるのマジで誰?
「イチカワって言います。キョウヘイさんの指示でずっと後ろの方で控えていました。」
そう言いながら、服のポケットから紙を取り出す。
位置変 新位置。ほーん。
「対象の位置を入れ替える真名だと思ってもらえれば大体あってます。空騒くんと一緒に後方支援部隊として働いてます。」
「あ、そうなの?ありがとね。なんか。」
なんかよくわからんけど助かったみたい。
空騒通達も名前はよく聞いたけど、見るのも二回目だし能力もよく知らん。要するに結構わからん。
それにしても最近はことあるごとに死ぬ死ぬ言われてるから意識してたみたいで、さっきのは本当に死ぬかと思った。
思考もページの区切りも全然まとまらなかったもん。
それにしてもマキシマのタフなこと。
ここ何日かで色んな人外パワーを見てきたけど、その極みのような存在と化したタカシと同等にやり合って、そこからさらに九雷子達まで同時に相手出来てるってどういうことなんだよ。
マキシマムとは一体。あの名前ズルくねーか?
特にあの赤い瞳になってからというもの、何か恐ろしいものを感じる。
「ザンペイさんはあのマキシマムジョウとは知己であると聞いてますが、僕は驚いてますよ。あんなに凄まじかったんですね。キョウヘイさんも警戒するわけだ。」
「いや、よくわからんけどあそこまで話しが通じなかったかな。……いや、通じなかった気がするわ。」
しかし何だかそれだけではない、根源的な恐怖というか不気味さは前には感じなかった気もする。前とか言っても1秒ぐらいしか見てないわけだが。
マキシマの方を見る。流石に防戦一方といったところか。むしろよくやっている気もするが、タカシが攻めあぐねている様子も見てとれる。先程、床が抜けたことから、足場と周囲に気を使っているのだろう。
もしかしたら一人でやらせた方が善戦するのかもしれないが、そうすると二年前の再現となりそうなので、その辺りも考えての今の状況かもしれない。
九雷子の雷撃に被弾してバランスを崩す。その隙を突いてタカシが追撃。基本的にはこのパターンで戦闘は続いている。
数回に一回、マキシマが攻撃を仕掛けるか、珍矛林の竹矛に視界を阻まれ、再びそこへ雷撃が襲いかかる。
ほとんどハメ技の様相である。
だがどれも決定打には至らず、じりじりと削り倒すような猛攻が行われている。
包囲を抜けようと飛び出すマキシマの足をジヴァ闘士の四本の腕が追いかけて絡めとると、床へと叩きつける。
しかし掴まれた足を回転させることで引き抜き、すんでの所で避けるマキシマ。そこへすかさず雷撃を連続で放つ九雷子だが、そのうちのいくつかは避けられ、残りをガードされる。
とにかく全員が忙しなく動き回り、マキシマの方は攻めも守りも、離脱すらできずにいよいよ進退極まったと思った矢先、再びヘルメットの奥から咆哮した。
「ォ……オオォ……オオオ!!」
マキシマの周囲の空間がノイズのように歪み、ざらつく。
目の輝きは赤、橙、黄、緑、青と、様々な色に点滅しているように見える。
その様子に何かを見つけ出したのか、無答心索が叫ぶ。
「キョウヘイさん!これは……この男の真名はおかしいです!」
タカシが仕掛けた攻撃がマキシマを通り抜ける。
九雷子の雷撃が軌道をずらされ、マキシマには当たらなくなる。
珍矛林の竹矛が軋み、破砕する。
「この男、真名が増え……いや、高速で切り替えているのか?真騎士、死間無、霧状……曲軋、魔機師魔務城撒き士MUM嬢末期死末無如有…………!駄目だ読みきれません!この男、次々に、何故そんな……あああ!!」
マキシマの真名を叫び続け、絶叫する無答心索。何が起きているのかさっぱりわからない。
富国強兵にも焦りの表情が覗く。
タカシ達の攻撃はことごとく外され、マキシマがゆっくりとこちらに顔を向ける。輝く目は虹色に明滅している。
「どうなってんだ、ああ!?ヘルメットに攻撃が通らねぇぞオイ!」
タカシが声を上げる。
唯一、答えを握ってそうな無答心索は頭を押さえてうずくまっている。
「ザンペイ!ひとまず逃げるニャ!」
猫ちゃんが危機を察知し、オレと位置変新位置に声を掛ける。
猫ちゃんの指示に頷き、何らかの方法でオレを移動させようした位置変新位置を見て、富国強兵の指示が飛ぶ。
「上へ行け!トビタがいる!アレに伝えてシヴァ闘王の辺りまで行かせてもらえ!あっちも移動中のはずだがここよりマシだ!」
そう言いながら何人かに指示をする。
ハンドサイン。マキシマに意図を悟られないためか。当然ながらオレにとってもワケがわからん。
どうしよう、ザンペイ殺しとけみたいなサインだったら。
オーク魔ヤバ豚、猫台風の豚猫コンビがこちらに向かって走り出す。富国強兵に背中を叩かれ、珍矛林も来る。
それをみた位置変新位置がオレに伝える。
「上へ上げます!全員揃ったらトビタ君に伝えて、シヴァ闘王さんの所まで飛ばしてもらって下さい!正確ではなくていいと!」
「いや、そんな事言っ」
……たって、アレ?
空が見える。なんか、外?屋上っていうより、建物の上か。
「ザンペイ」
「ザンペイさん」
ヤバ豚と猫ちゃんの声もする。順々にここに飛ばされたみたいだ。お、珍矛林も来た。
「トビタさーん!!」
ヤバ豚が前の方にいる人物に声をかける。
いや参った。どう考えても元ヤンだ。しかもどうだ、かなりの旧式だ。若い時分の主食はシンナーに違いない。
トビタは振り向くと、手に持った棒キャンディを噛み砕く。
「おうヤバ坊、下が騒がしいな。大将は無事かい?」
ヤバ坊ことデブがトビタに駆け寄り、状況を説明する。
「なぁるほど。だったらオレっちがソイツを吹っ飛ばしてやりゃあイイんじゃねえかとは思うが、まずはこのデブちゃんを安全圏に飛ばしてからってぇワケだな。」
「だっ……!」
誰がデブだ。いやデブだけど。デブだけどオークよりはスリムやろがい。
「おン?何か言ったかい?」
「いえ全く。人見知りなので。」
危ねぇ。この手の輩は敵意とかに敏感だからな。昔は骨を折ったもんだぜ。微塵も比喩では無くな。
トビタは遠くを指差し、オレの目を見て話し始める。
「あの獣寺の旦那を飛ばしたのはあっちの方角だ。目一杯飛ばしたもんだから、ここからじゃ全く見えやしねぇけどな。大丈夫かいデブ君。並の能力じゃ、着地と共に木っ端微塵だぜ?」
「え?木っ端微塵すか?ひょっとして、ガチで飛ばすだけ?」
「は?だけ?馬鹿にしてる?」
「いいえ滅相もない!そうじゃなくて、着地に対する保証などはありやせんか?アッシはどうも身体が弱くてかないませんで。」
何弁だオレ。テンパりすぎだろ。
「そうは言っても、オレっちの能力にはそんなもんないぜ?着地についてはオタクらの方で準備できんの?」
「トビタさん、大丈夫です!なんとかします!」
いや全然大丈夫じゃないが。ヤバ豚、特にオレとお前には助かる見込みないぞ。分かってるのかその辺。
「ん〜、まあどのみちコレは大将からの指示なんだろ?あの人は不可能な事ぁ言いやしねぇからな。じゃま、やっとくか。」
そう言って肩を回しながらオレの方に近づいてくる。嫌だなぁ、嫌だなぁ。このパターンで殴られた事思い出して嫌だなぁ。
今から殴られるよりも死に近づくのも嫌だなぁ。
「飛び立つ新しい地と書いて飛立新地だ。よろしくな。また生きてたら名前教えてくれや。」
死ぬと思ってんじゃん。もう死ぬから名前すら聞かねぇじゃん。
ていうか字がちょっと違うけどトビタシンチってププー。
吹き出すと同時に、オレの体は駅ビルの遥か上空に飛び出した。




