グレヰトな裁定3
おはよう。
今日は駅ビルからおはようございます。
狭間残兵です。
今ここで何が起きているかと申しますと、火災報知器が鳴っております。周囲では怒声が響き、色々な人達がひっきりなしに右往左往しています。
どうやら何か大変な事が起きて、それを報せるために誰かが火災報知器を鳴らした模様ですね。大変うるさいです。
「何のんびりしてるんですか!」
デカい声と共に抱え上げられました。今日もお荷物になる準備は完了というわけですね。よろしくお願いします。
「寝ぼけてないで、しっかりしてくださいザンペイさん!」
この声、この振動。初めての乗り物ではないようです。どれ、挨拶致しましょうか。
「やあ、おはようヤバ豚。豚汁食べた?」
共喰いモンスターことオーク魔ヤバ豚13歳。朝から大立ち回りである。
「寝ぼけてないで起きて下さい!ああもう、なんで毎日こんな……!」
「ブーブー言うなよ。でもそうね、昨日の朝もドッグランみたいな現場を駆け巡ってたね。痩せちゃうね。そんでどったの?」
「敵襲ですよ敵襲!」
「摘出?そういえば豚の腎臓を移植する手術が成功したって聞いた事あるな。」
「違いますって!敵襲!駅ビルが襲われてるんだってば!!」
おおん、何故に?最強の最強同盟のアジトだぜ?昨日発足したばっかりだけど。
「落ち着けって。タカオおじさんがいるから大丈夫だろ。」
「いないから落ち着いてないんです!!全然大丈夫じゃないから!」
「は?なんで?いやいるだろ。トイレか何かじゃ……」
「トイレにもどこにもいないんですってば!それでちょっと騒ぎになったと思ったら今度は敵襲で……」
「敵襲って誰がだよ?誰がなんで?」
「駄目だ、シャッターが破られる!中に入って来ますよ!」
ヤバ豚が言うや否や、その言葉通りシャッターが引き裂かれる。
侵入者は一人か?他にはいなさそうだが、敵襲ってのはたった一人?
「これ以上進ませるニャ!」
猫台風、猫ちゃんの登場である。周りには部下の猫達に加え、猫人間の珍矛林を従えている。
「お前らも気を抜くニャ!」
背後に向かって叫ぶ。
そこには獣寺の面子がいる。人狼の犬使猟太郎と虎男の虎魂大牙、そして部下の犬達である。
「わぁーかってるよォ。クッソ、こんな事なら大将のスネにかじりついてでも引き止めとくんだったぜェ。」
犬使猟太郎が苦々しく呟く。引き止め……?タカオおじさんは自分からどこかへ?
「な、なあ!タカオおじさんは何で出て行ったんだ?」
「!!……ハザマ、馬鹿おめェ早く隠れろ!おめェがやられたら終わりなんだろ!?連れてけオーク魔ァ!」
「いやちょっ」
動けるデブことオーク魔ヤバ豚が上階に向かって駆け出した。
ムチウチになりそうな加速。あっという間に階段を登り始める。
「あーくそ、タカオおじさんに何があったか聞けなかったじゃねえか。」
「いいから、とりあえず上へ行きますよ!」
「いや上って……逃げ場ないじゃん。反対側から外へ逃げるべきじゃね?」
「外だって危険ですよ!他にも伏兵がいたら一巻の終わり!外へ行って逃げ切れたとしても、ここが陥落したら結局終わりですよ!」
まあそりゃそうか。すげえな絶対絶命じゃん。
「でもやっぱり外へ逃げた方が生存確率上がるっぽくね?」
ヤバ豚が急停止する。
逆方向に首がしなる。なんでこいつ豊満なボディなのにF1カーみたいな挙動すんの。
オークで(マ)ヤバ豚がオレを降ろし、身をかがめる。
「どったの?ホルモン痛い?」
そのまま倒れ込む。
「おい、ヤバ豚!」
「自分の心配をしたらどうだ?」
オレ達の背後に、いつのまにか人影が立っている。オーク魔ヤバ豚はコイツにやられたらしい。音もなく、オレにも全く気づかれないように。
「久しぶりじゃん、マキシマ。」
巻島無常。寺の息子。真名再臨の後、実家をシヴァ闘王に奪われて返り討ちにされた男。
その後、シヴァ闘王の息子であり同級生でもあるシヴァ闘士とも戦い、おそらく相打ち。
改名を施すべき、世界を破滅に導くピースの一人。
「ハザマか。貴様、前に会ったな? 向こう岸まで吹き飛ばしてやったはずだが。」
「お前酷いな。同級生と久々に会った時にそういうことするか?」
「そう言うことをされて来たよ。」
「オレはしてねえだろ。」
「俺だってアイツらには何もしていないのにやられたさ。」
駄目だ、話が噛み合わねぇ。
でも何とか時間を稼がないと死ぬ。
「おいマキシマ。オレ多分、お前の能力分かったぜ。マキシマムに常と書いて常だろ? 違うか?」
「お前を連れて行かねばならない。」
はぁ〜? 思ったより全然話し通じねえんだけど。
あとはもう地雷みたいな昔話しかないぞ。ひょっとして今って今際の際?
「まてまてマキシマ、一旦話しを戻すぜ。お前さっき、オレを向こう岸に飛ばしたとかいったよな。あの辺に川なんてないから、相当ぶっ飛ばしたってことか? いやオレ2年間寝てたらしいんだわ。人間ってそんなに長く気絶できるんかなーって思って。なあ。」
なにこの会話。その場しのぎの例文?
「俺は貴様の頭を蹴り上げて吹っ飛ばした。何故生きている。向こう岸に行ったはずだ。」
「いやだから向こう岸って言われてもどの川なんだか……」
あれ? いや、まさか。
向こう岸ってまさか、彼岸の事か?
こいつはオレの頭を蹴り飛ばして、彼岸まで飛ばしたつもりだったんか。
殺意の固まりやんか。
「こ、殺す気だったってことか。そもそもお前のパワーで頭を蹴り飛ばしたら普通死ぬぞ。やめとけよ。殺人は。やめとけ。」
「……? 何を言っている? 俺は貴様の頭を吹っ飛ばした。頭を吹っ飛ばして生きている貴様は何だ?何故生きている?」
????
待った。
これはいかん。
マンガで主人公がトラウマになる回やん
。割とよくあるよね? 知ってる?
いや知らんくてもいいや。
とにかくこれはあかんヤツだ。元のオレは頭が吹っ飛んでとっくに死んでるパターンで後から苦悩すんの。そういう流れだこれ。
目の前を閃光が走る。
いや走馬灯クソ早ない?
光陰矢の如しどころじゃないぞ。
スタッフロールぐらい出せよ。
……じゃなくてこれアレか、アイツのアレか。
「待たせたねザンペイ君」
九雷子きゅうーん♡
「邪魔者が次から次へと。」
マキシマがヘルメットの奥から、曇った声で毒づく。雷撃を喰らったけど耐えたのか、避けたのかは分からんが全然元気そうだ。
「心底思うよ。マキシマム・常、君と学校で会わなくて良かったとね。」
九雷子が手を振り落とす。同時に数本の雷撃がマキシマへと襲いかかる。
光と音の洪水。何も見えん。
光が収まると、マキシマの姿が見えた。
白いヘルメットに白い学ランみたいな服。その服の裾が少し焦げている。
九雷子の方は、身の回りに数本の回転する雷撃を纏うことで防御も盤石なようだ。
「ザンペイ君」
そう言って九雷子がオレの方へと指を向け、十字を切るような仕草をする。
青白い光とともに、オレとマキシマの間に網目状の電流が展開される。
「念の為、ザンペイ君はオーク魔氏と非難してくれたまえ。私の攻撃がうっかり当たっても、君なら死んでしまうだろう。」
なんか腹立つけどその通りだわ。
横を見るとオーク魔ヤバ豚がよろめきながら立ち上がり始めている。
瞬間、目の前で青白い光が輝きを増して迸(迸り)る。一瞬で間合いを詰めて来たマキシマムさが、俺に触れようとして網目状の雷撃に触れたらしい。
それを見て九雷子が眼鏡をクイっとやりながら呟く。
「いかにマキシマム・常とはいえ、私の帝釈天捕縛網を抜けるのは容易ではないらしいな。」
ひぇ〜。相変わらずダサいのかカッコいいのかわからんネーミングセンスよ。
「邪魔立てするな。ハザマに用がある。」
「私はザンペイ君を狙う不届者に用がある。」
いいね、話が噛み合わないのも安全圏から眺めてるといいね。そのまま争ってくれ。
あとできれば二人とも死んで。
「逃げますよザンペイさん!」
ヤバ豚がオレを抱えて、再び上階へと向かう為に走り始める。




