トラヰブの狂宴16
全員が気になっている事。
破壊神と反グレ集団と駅前不法占拠グループの長とオレ。そんな組み合わせの4人全員が気になってることとか、早く帰りたい以外にある?
「じゃあそろそろみんな帰ろうねぇ」って提案を、「解消するチャンスだ」とかいう畏まった言い回しにするか?
しませんよね。
富国強兵が目の前に立てた人差し指は、そのままゆっくりと倒れていき、その先にいる人物を指差した。
「狭間残兵」
全員の注目が吾輩に集まる。いやオレですか。
解消ってひょっとしてストレス解消のことですかにゃ?もう嫌や。それはティーンの頃に終わったはずですにゃ。
いまどき人間サンドバッグなんて犯罪者収容施設か、全寮制の野球部内ぐらいでしか流行らないのにゃ。
異世界で流行るのやーやーなの!
「やーやーなの!」
思わず心の声が飛び出してしまった。
そしてこの時、凄まじい表情を見た。
パンのバター塗った面が地面に落ちた時の顔あるじゃん。あれがこっち向いてんの。4人分。
「ハザム、ハんペイ……オマエ、何を」
富国強兵ですら取り乱しておかしなことになってんの。
年齢については供述しないけど、いい歳こいた肥満体型がこの台詞はアカンかったか。
その後、幾分か冷静さを取り戻した富国強兵が言うには、オレが心配してたような暴力万博は開催されないらしい。
面倒だからその時の会話をそのまま聞いてくれ。富国強兵の話からだ。
はいスタート。
「何か勘違いがあったようだが、狭間残兵。オレの言いたかった事はお前にとって不穏な出来事に繋がる内容じゃないから安心してくれ。」
「嘘つけ。そうやってここ数日連れ回されてろくな事がなかっ」
「オレの能力の説明は必要ないな?能力強化だ。」
「いや知らんし。だって能力強化しても狭間と残兵じゃ強化しようがないだろ。ほら見ろやっぱりオレには関係ない話じゃ」
「それだ、ハザマザンペイ」
「にゅ?」
「それだ」
「?……オレには関係ない話ってこ」
「違う。オマエの能力を強化することで、能力の内容を解析出来るんじゃないかという話だ。」
なんと。
なんとなんとなんと。
言われてみれば確かに、ここ数日のスラップスティックじみた生活がオレの名前のせいなのかどうか、そろそろ気になってきたところではある。
「でもそれ分かったらところで何か意味ある?」
おっと、また心の声が出ちゃった。ごめんっピ。
「オマエ自身にはなくとも、こちらとしてはある。オマエが物事を進展させていく何らかのピースとして存在している者なのか、それともただの偶然、たまたま居合わせただけの憐れな男なのか。」
憐れんどる。やっぱりそうよな。客観的に見ても可哀想やんオレ。
九雷子が何か言いたげに手を挙げた。いいから黙っとけやお前は。
「その件に関しては私も思うところがある。ザンペイ君、君はこの二年の間、この世のどこにも存在していなかったのではないか?」
「おま、やめろよそういうこというの。夜寝る前に考えだして寝れなくなるやつだろ。」
「私はその原因に、君の苗字である狭間が関係しているんじゃないかと思っているんだ。」
「こわいこわいこわい。やめて。死んでるとか言うオチもやめて。」
「君はシヴァ闘士といる時にマキシマムジョウと居合わせた。そして戦闘に巻き込まれた。そこから記憶が飛び、気がついたら二年が経過していたんだったね。」
「あばばばば!ヤメロ!オレが死んでたオチとかオレが怖いわ。オバケ怖すぎて自分がなっても怖いってどゆコト?!自分が怖いん?みゃー!!」
「落ち着きたまえザンペイ君。そうじゃない。君はその時、この世でもあの世でもない、狭間に退避したお陰で助かったのかもしれない。そういう可能性もあることを言いたかっただけだ。君の名前には、その名前から想像できる全ての可能性が詰まっているんだ。」
え、凄いじゃん。可能性の獣じゃんオレ。
ここで富国強兵が会話に割って入る。
「そういうことだ。狭間残兵、オマエの名前に不確定要素が多すぎて、オマエ自体も不確定な存在になっている。オレにはそれを解消する手伝いが出来るというわけだ。」
待て、と言って遮る声。シヴァ闘王である。
「そりゃあつまり、ザンペイをお前んトコの傘下に入れるっつーことか?」
「必然的にそうなるな。が、すぐに解除しても良い。……いや、先に決めておくべきだな。すぐに解除する。傘下にしておく時間も決めておこう。1分だ。」
オレの能力を解明する。その目的以外に他意は無いということを全力で表明したわけだ。
そうなるとタカオおじさんも強くは出られない。
「ならまあ、ザンペイが決めたらいいんじゃないか?どのみちお前はタカシの所までオレが連れていくし」
え?そうなの?初めて知ったわ。
オレに人権ないの。
「……というわけだ。どうするハザマザンペイ?」
富国強兵に促されるも、正直なところ迷うはずもないわけで。
だって傘下に入ったら解明してもしなくてもすぐさま外されて、おじさんに連れてかれるわけでございましょ?傘下に入らなくても連れていかれるんでございましょ?
だったら少しでも情報量が多くて納得できそうな能力解明編に突入した方がまだスッキリするってなもんでしょうが。
「あ、じゃあお願いしま」
「さて、どうだハザマザンペイ?」
「え、もう傘下入ってんの?」
「そうだ。何か変化はないか探ってみろ。残り50秒。」
んなこと言ったって、能力自体がわかんねえしどこをとっかかりにして自己観察したらいいのか……
「ザンペイ君」
九雷子都市将が呼びかけてくる。ヤツは謎のジェスチャーをしながらオレにこう助言した。
「狭間。何か狭間を感じる部分に注目してみては?」
何言ってんのコイツ?
オマエ今まで生きてきて狭間を感じたことあんの?
「残り30秒」
富国強兵のカウントにより、余計に焦り出す。
自分の中の知らない部分を1分で探すって無理くない?そんなんした事あるやついる?
超時短自分探しじゃねーか。
普通そういうのは海外とかいってやるやつだろ。そんで帰ってから海外にかぶれて性格うざくなってるパターン。
色々見て見聞広めた方がいいよとか助言したりな。
そうだよお前だよ。
「残り10秒」
アイヤー!
そうだった。自分探しの真っ最中だった!
集中力が無さすぎたのがいかんかったですか。
そうですね狭間狭間、狭間を探さないと
「5秒」
ダメだ。狭間って文字と言葉がゲシュタルト崩壊してきた。
狭間ってこんな形してたっけ
?そもそも狭間ってなんだっけ?
ああもうアレだ、ダメだわん……
「解除」
あかん、どっと疲れた。
何もできない事に疲れた。
いやだって冷静に考えたらさ、こういうのっていきなり始めるよか事前に関連ワードとか書き出しとくべきじゃね?
いまだってほとんどの時間を焦ってるだけで通過していったぜ? 快速にも程があるわ。
とりあえずもう出来ることないから帰ろうぜ?
いや帰る所ないけど。
「なあ、とりあえず続きは明日とかにして今日は終わりにしようぜ。さすがに疲労困憊だわ。」
そういって顔を上げると、そこは真っ白な空間だった。
そして目の前にはあの無愛想な天使……いや堕天使がオレを見下ろしているのであった。
もしかしてこれ、成功しちゃった系?




