トラヰブの狂宴13
子供用のパンツだとは思わんかったわ。
見ろアレ。猫が腹抱えて笑ってるぞ。
見た事あるか?猫が腹抱えて笑ってんの。
しかもその横じゃ13歳の思春期モンスターことオーク魔ヤバ豚も爆笑してやがる。
豚きらいだわ〜。
オレもう、なんかオレもう勢い余ってベジタリアンになりそう。二度と豚食いたくねえ。
「勢い余りすぎですよ、残兵さん」
声のした方を見ると、無答さんがこっちを見ていた。いや、見て下さっている。
どうもお世話になっております。
「それだけ自分の心に嘘を付ける人って逆に凄いですよ」
無答さんはそう言うが、心からのリスペクトなのである。いや、なのですよ。
「まあ、それならもう何も言いませんが、着替えも終わったのでしたら食事会場に行きますよ。人数も多いため、普段は使っていないビル上階のレストランにて立食となっています」
ふーんお洒落。
あ、いや感激です!無答さんの力添えですかね?
「私は関係ないです。」
「でも7階まで上がるの怠いニャ〜」
たしかに。ただでさえテンション上がらないのに階段を上がらないといけないのはいけない。
「ご安心を。エレベーターが使えます」
オーク魔の目が輝く。
「エレベーター使えるんですか?僕初めてですよ、ここでエレベーター使うの」
「オーク魔くん、貴方は残念ながら重量オーバーなので徒歩です」
「あっ……すぅーーー」
オーク魔は動揺のあまり二の句もつげないレベルでざまあみろである。
この豚め。尻尾がカールしてんだよボケが。
あっ。無答さん違います。
ジョークです。
「……まあいいでしょう。行きますよ」
こうしてオーク魔を除いたオレ達は7階のレストランフロアへ向かった。エレベーターで。わはは。
食事会場に入ると、もはや何がなんだか分からなかった。
シヴァ闘王と獣寺の連中が居るのは当然分かる。分かるが、なんか普通に仮名真もヘラヘラと参加してるんだけど。
なんだコイツのメンタル。一番の化け物コイツじゃね?しかも普通に富国強兵の近くにいるし意味がわからない。
更に驚くべきなのは、九雷子都市将が来ている事だった。学団の連中も混じっていて、思絵描と痛打猛将が参加している。
「これが強兵さんの凄いところニャ」
猫ちゃんが自慢げに説明する。
どうもこの短時間で場所のセッティングと根回しをしたことが自慢のようだ。
虎の威を借る狐ならぬ、ボスの威を借る猫とでも言おうか。可愛いやつだ。
「ザンペイ君」
九雷子が声をかけてきた。
「おお、おす」
電撃暴力学団のボス。
脱糞を促す者。
真名再臨の名称考案者。
これだけ聞けば、元の世界ではただの痛いやつのはずなんだが、名前の能力のお陰で成り上がれて良かったですね。特に喋ることねえよ。
「全く、こちらは大変だ」
「おお、おす」
オレのが大変だわ。
ふざっけんなボケ。酷い目にしかあってないわ。
どんな時も最前線に持っていかれる手荷物の気分が分かるかってのよ。多分世界でオレだけしか分からん感情だけど。
「ここの電力、維持してるのは私だよ。君がさっき乗ってきたエレベーターの動力源も私だ」
「おお、おす」
あそー。
でもオレのが大変だわ。人前でウンコ漏らしたことないだろ?
「聞く気ないな?」
九雷子とオレの間の空気が帯電する。学団のやつら基本的に沸点低すぎる&暴力的すぎるだろ。
「やだな、聞いてますってば九雷子さん」
とっさに敬語で機嫌をとりつつも、無答心探にテレパシーを送る。
無答さん!オレです!助けて下さい!九雷子に脅されてます!こいつ殺して下さい!
「君がキョウヘイ一派の元へ行ってから三日と経たずに状況が動いたようだね。それで急遽呼ばれたんだ。」
オレのテレパシーを知らない九雷子は、話を続ける。
「あそこにいる青黒い巨漢がシヴァ闘士(タタカシの父親か」
無答さん!救命啊!早く九雷子の包囲網を完成してくれ!
「正直なところ、何をどうしたかはよくわからないが……こんなにトントン拍子に物事が運ぶものなのか?ザンペイ君、君は一体……」
「いや、オレに狭間で残兵しちゃう以外に凄い能力あったら、アンタらもタダじゃ済まんぜ?」
「ふむ、それもそうか」
「ああ、それもそうだよ」
「演技をするにしても脱糞まではしないか」
頼む誰かこいつ殺してくれマジで。
「狭間残兵」
富国強兵の声だ。
振り向くとすぐ後ろに富国強兵がいた。
「それと九雷子都市将、こちらへ来い。学団と獣寺と駅ビル一派の代表者同士で顔を合わせる。」
そう言うと富国強兵はシヴァ闘王の方へと歩いていった。
オレは何代表で呼ばれてるんですかね。
九雷子はしばし逡巡しているようだ。
「……まあこの状況下でどうにかされるような事はないか」
そう呟くとシヴァ闘王のテーブルの方に赴いた。
オレの方はというと、どうにも富国強兵には逆らい難いプレッシャーがあるので追従することとした。
度重なる抗い難い理不尽な出来事の中で、オレの中にある反抗心の牙は抜け落ちてしまっている。
学習性無力感というやつだ。
「おうザンペイ!こっち座れ!座って食え!」
シヴァ闘王に促され、彼の隣にある椅子に腰掛ける。
「食ったら話そう!何を話すのか知らんがな!ハーッハッハ!」
シヴァ闘王が豪快に笑い飛ばすと、オレの顔にも勢いよく食べ物のかけらが飛び散った。
それを誰も気にする様子もなかったので、とりあえず袖口で顔を拭き、食事をする事にした。学習性無力感というやつだ。
「そういや顔合わせの挨拶みたいなのはもう終わっ」
「そうするつもりだったが、配膳した途端に彼が食い始めてしまってな」
オレの質問が終わる前に富国強兵が答える。
間髪入れずどころか、やはり失礼なものである。ビジネスマナーとか知らんのか。オレも知らんけど。
ただしそれを口にするような事はしない。それは恐らく無駄なことだし、下手をすると今の状況に角が立つ可能性もある。学習性無力感というやつだ。
「初めまして。シヴァ闘王さん。学団と呼ばれているようですが、あちらの方にある学校周辺を治める九雷子と申します」
「おお?あー、そう」
九雷子の挨拶に対し、シヴァ闘王は素っ気なく応える。
興味がないのか、食事の方に気を取られているのか。
パチッ。
一瞬だが、九雷子とシヴァ闘王の間で、帯電した空気が音を立てた。
本当に沸点低いやつだな九雷子。プライド富士山か?
すると突然、シヴァ闘王が食事の手を止める。それとともに持っていた食器をテーブルへ叩きつけた。
テーブルは砕け散り、割れた食器が飛び散る。
「オマエいま、オレに敵意を向けたな」
殺気。
そしてタカシと最初に会った時と同じタイプの声色。声に重い振動と衝撃が乗った一言だ。
周りは沈黙に包まれ、レストランにいる獣寺の連中から殺気が立ち昇る。
これはあかんパターンじゃないか?
富国強兵が助け舟を出す。
「すまない、これは急に九雷子を呼びつけたこちら側の責任でもある。非礼は詫びるから今回は勘弁してくれないか」
「オマエらの都合は知らんな」
シヴァ闘王のこめかみには血管が浮き出て、額の目はいっぱいに開かれている。三つの目は瞳孔が開き、口からは牙が覗いている。
「ここの電気を賄っているのは私……」
九雷子がそこまで言いかけた瞬間、大きく伸びた青黒い腕が九雷子の胸ぐらを掴み、持ち上げた。
「耳が悪いのか小僧?オレはオマエらの都合など知らんぞ」
胸ぐらを掴んだ腕に力がこもる。
「ゴホッ待っ」
堪らず咽せる九雷子の服は引き絞られ、背中側から裂け始めた。
「九雷子!」
短く叫び飛び出そうとした痛打猛将を、犬使猟大狼と虎魂大牙が阻止する。
「やーめーとけェ。オレ達ザコが出ていい幕じゃねェだろォが。ウチの大将の邪魔ァすんじゃねぇ」
犬使猟大狼が凄む。
「腕が立つのは分かるが、騒動が大きくなれば困るのはそちらだけですよ。私達は一向に構いませんが」
虎魂大牙が諌める。
「どけ」
怯まず、痛打猛将が全身に力を込める。
犬使 猟大狼と虎魂 大牙は顔を見合わせる。
「じゃあまァ力づくだなァ。後で後悔しろよ」
「仕方ないですね。主には後で謝罪しましょう」
さてここで気がついたが、もう何歩か退避しとかないと死ぬ位置にいる気がする。
そんなオレを気遣う者はいるはずもなく、状況は進行するわけだが。
先ずは九雷子都市将お得意の電撃がシヴァ闘王に襲いかかった。




